第5巻第8号                    1992/5/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, dmori@c1shin.cs.shinshu-u.ac.jp)



  風薫る5月となりました。今月紹介する本は、本当は1月に今年の干支にちなんで紹介するつもりでいたものです。『サル学の現在』というタイトルと著者名を見ただけで、これは絶対面白いに違いないと確信していましたが、読まないうちに他人に推薦するわけにも行きませんから、1月号に間に合いませんでした。その後2、3、4月号にも間に合わず、とうとう5月号になってしまいました。

【これは絶対面白い】

立花 隆『サル学の現在』

平凡社 \3200


 7百ページを越える大著である。この本より厚い本は、辞書を除くと、私の手元には見当らない。これだけの大著にこの定価が付けられたということは、平凡社も「この本は売れる」と考えているからに違いない。1ページ当りの単価が5円以下である。これほどページ単価が安い本も、私のまわりには見当らない。(十円コピーで複写するよりも買った方が安い。)
 内容も素晴らしい。以前に紹介した、立花隆・利根川進『精神と物質』(文芸春秋社)と同じように、著者・立花隆と専門家との対談の形式で書かれており、難しいと思われる用語には、欄外に説明が付いている。対談形式の本文に加えて、写真や図も豊富なため、とても分かりやすい。
 かといって、内容のレベルが下げてあるかというと、そうではない。「自分がサル学の専門でもないくせに、どうしてそんなことがわかるのか」と言われるかも知れないが、少なくとも第II部の第二章のチンパンジーに言葉を教える研究については、良く知っているつもりであるが、決してレベルを下げてはいなかった。
 さて、内容は本当に盛りだくさんである。総論的な序章と終章の間に、全部で20の章があり、20種類の「サル学」が紹介される。取り上げられるサルの種類も、ニホンザルから、ヒヒ、類人猿とわりと馴染みのあるものから、新世界ザルまで、ほぼすべてのサルが登場する。研究手法も、フィールド研究あり、実験研究あり、さらにはまったくの生化学的研究ありとこれまた多彩である。さらには、現存するサルだけでなく、化石の研究までもが、「いったい人間とは何なのか」という究極の問いにサルを通して迫ろうとする大きな枠組みの中に登場してくる。
  個人的に印象に残った話題は、小さい頃に教科書にも出ていたニホンザルのボスザルを中心とした社会構造が実は存在していなかった話(第I部第三章)と、チンパンジーが子を殺して食べる話(第IV部第二章)である。地獄谷の野猿公園に行くと、やれアイツがボスかこいつがボスかと、昔仕入れた知識のままサルたちを見ていたが、ボスザルがいるかのように見えるのは「餌付けされた人工的サル社会」だけなのだそうである。(君も知らなかったでしょ!!)チンパンジーが生きたまま他人(他猿)の子を食べてしまうこと、そして、それを克明に記録する人間研究者の話も強烈だった。また、ほとんどのサルにおいて、オスは威張っているように見えても、実はメスが主導権を握っているという話や、いつもながらピグミーチンパンジーの奔放な性生活の話には、ただただ感心するばかりである。 (守 一雄)
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