第8巻第2号              1994/11/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 先月から、モンゴル人留学生を交えての英語での心理学の授業を始めました。教 科書には、Atkinsonら(1993)の『Introduction to Psychology(11th ed.)』を使う ことにしました。この教科書はもともとは、40年以上も前にHilgard が書いたもの で、新しい知見を加えて改訂を繰り返しながら、ずっとアメリカの大学で使われて きている心理学教科書の「定番」です。豊富な図版、カラー写真、わかりやすい説 明と、これ一冊で心理学の基礎が自習できます。(ちなみに、日本で買っても、ペ ーパーバック版なら4千円ちょっとです。24刷も売れていながら、20年以上も 前の内容をまったく改訂しない有斐閣の『心理用語の基礎知識』\3,760より、内容 的に優れているばかりでなく、価格的にもずっとお買得です。)
 この教科書に限らず、アメリカの大学で使われている教科書の特徴を一言で言え ば、「厚い」ということです。上述の心理学の教科書もブック型パソコンより大き くて重いほどです。それでも、私は以前から、こうした「重厚長大」のアメリカ型 の大学教科書こそ「教科書の理想形」だと考えてきました。ところが日本の大学の 教科書は、「軽薄短小」のものばかりです。(少なくとも心理学では。)
 そんなところへ、「教科書は厚いほうがいいという正論」を堂々と論じている本 が出版されました。さっそく手にして読んでみると、まさに私の考えていたとおり のことが述べられています。これだけでもウレシイ。
 私は、日本の教科書が薄い理由として、漢字仮名混じり文を活字組みすることの 手間(=費用)の問題、俳句・短歌や日本料理などに代表されるあっさりとした「 軽薄短小」文化の影響などを考えていましたが、西林氏によれば、「学習論(観) 」が間違っているからなのだそうです。「学習とは機械的に丸暗記すること」とい う間違った学習観のために、「量が少ない方がラクだ」と思われ、教科書が薄くな ってしまうのです。ところが、「学習とは既存の知識に関連させて意味づけていく こと」という学習観に立てば、結論は逆転します。「なるほど、なるほど。」
 西林氏は、多くの例を示しながら、こうした間違った学習観を正しています。著 者の専門は私と同じ教育心理学、内容の一つ一つは知っていることばかりですが、 とてもわかりやすくまとめられていて、断片的だった知識がすっきりと整理されま した。教育学部の学生諸君には特にお奨めです。       (守 一雄)

【これは絶対面白い】

西林克彦『間違いだらけの学習論』

なぜ勉強が身につかないか

新曜社\1,854


 第1章「有意味な学習と認知構造」と第2章「有意味学習の特徴」では、「学習 対象の量は少ないほどやさしいか?」「経験すれば学習できるか?」「詰め込むと あふれるか?」「学習すればどんどん伸びるか?」「学習すれば知らないことが減 るか?」といった、一般に信じられている諸々の学習観が間違っていることが明ら かにされる。次に、第2章までですっかり否定された従来の学習観に代わって、正 しい学習観とはどうあるべきなのかが、第3章「理解と応用」第4章「知識と教育 」の2つの章で体系的に論じられる。ここでは著者の認識論も述べられる。知識に は、個々の事実についての知識である「個別的知識」と、一般性をもっていて活用 範囲の広い「法則的知識」とがあり、さらにその両者をつなぐ「接続的知識」があ って、これらの3つの知識が層構造をなしている。そして、理解とは、これら3つ の知識が揃うことなのである。最後の第5章では、おさらいを兼ねた具体的な提言 がなされる。厚い教科書を推奨する著者であるが、本書は教科書ではないので20 0頁足らず、記述もわかりやすく2時間程度で読める。    (守 一雄)


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