第17巻第12号              2004/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)


 
(c)日本放送出版協会

【これは絶対面白い】

永井洋一『スポーツは「良い子」を育てるか』

NHK生活人新書(\680)


学生 いやー先生、アテネオリンピックはメダルラッシュで面白かったですね。最後に、室伏選手の繰り上げ金メダルまであって、もう「チョー気持ちいいっす」。

教授 確かに面白かったけど、オリンピックは結果主義や勝利第一主義をはびこらせるのが心配だな。オリンピックの選手はみんなプロみたいなもんだから、結果がすべてカネに結びつく。金メダルを取ることは報奨金だけでなく、CM出演の契約料、さらには引退後に指導者や解説者として仕事を続けられることまで含め、何億円もの価値があることになる。そこでどうしても結果主義になりやすい。ドーピングしてでも勝ちたいと考えることにもなる。

学生 でも、ドーピングってどうしていけないんですか?ドーピングしてもスゴイ記録が出るならその方が面白いんじゃ。

教授 競技を見て楽しむだけの側からは、そういう意見も出てきやすい。膝をケガしていたにもかかわらず無理をして千秋楽の相撲を取って勝った貴乃花を「感動した」と言って小泉首相が褒めたように、見ている方は自分が感動できれば、選手が競技生命ばかりでなく、命そのものを縮めたとしても、他人事にすぎないからね。それでなくても、多くのトップ選手は自分の身体をボロボロにするくらい無理をしているんだ。ドーピングを認めたら、ドーピングなしでは勝てないことになるから、すべての選手がドーピングをするようになり、スポーツ選手の寿命が確実に縮むだろうね。

学生 確かにそんなことになったら選手が気の毒ですね。

教授 もともとオリンピックやプロスポーツなどの「見せるためのスポーツ」は残酷なものなんだ。だからこそその代償に莫大な報酬が用意されているとも言える。ところがマスメディアは基本的に「見せ物の興行師」だから、こうした陰の部分は隠して、勝利を讃え、見ているものを感動させて、結果的に勝利第一主義をはびこらせる。

教授 だから、オリンピックを見て感動した親が勘違いをして、室伏親子や浜口親子を目指したりしないために、ぜひこの本を読んでおくべきだ。この本を読むと少年スポーツにも、勝つことを最優先させる勝利第一主義がはびこってしまっていることがよくわかる。そして勝つためには、監督やコーチが一定の機械的パターンを繰り返し練習させる機械的訓練が有効なんだ。さらには、そうした機械的訓練には時間がかかるため、強豪校や常勝少年クラブの練習は長い。必然的に物量主義になるわけだ。こうした少年スポーツの問題点が指摘されている。

学生 確かに、高校野球でも解説者が「良く訓練された」チームとか言ってますね。監督の家に選手全員が寄宿していて朝から晩まで練習づけなんですよね。

教授 そう、そうやって機械的な動きをしっかり身につけたチームが結局は強いんだ。ところが、監督は「ウチは自由に伸び伸びやらせている」なんて言うんだよな。そういえば、昔、ウチの子の幼稚園選びをしていたとき、「伸び伸び保育」を売り物にしていたある幼稚園を参観に行ったら、「伸び伸び保育を徹底的に訓練していた」のを思い出した。

学生 「もっと伸び伸びしなさい」って叱っているお母さんとかもいますしね。

教授 ははは、ところで、少年スポーツにおける「結果主義」「機械主義」「物量主義」ってどこかで聞いたことはなかったかい?

学生 あっ、それは「ごまかし勉強」と同じですね。

教授 そう、そのとおり。勉強の世界で進行している悪い風潮は、スポーツの世界でも同じように進行しているわけさ。「勝つためには手段を選ばない」っていうのと「試験でいい点を取るためには手段を選ばない」っていうのは同じ考え方だからね。勉強でもスポーツでも結果主義は人間性の否定につながりかねない。楽しくやることが一番大事なんだ。

学生 でも、先生、プロの研究者はやっぱり結果主義ですよ。こんなDOHC月報なんか書いてないで、論文書いた方がいいんじゃないですかあ。

教授 いや、研究も楽しんでやること。結果は自ずとついてくるものさ。  

(守 一雄)


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