毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)
今年の4月から学校の完全週5日制がスタートしました。学習内容を大幅に減らした新しい学習指導要領も「ゆとりの中で子どもたち一人ひとりの生きる力を育成する」という方針を掲げてスタートしました。一方で、子どもたちの学力低下を懸念する声も多く、学力の低下は一流大学と言われる大学の学生にまで及んでいることがデータでも示されています(戸瀬・西村2001『大学生の学力を診断する』岩波新書)。しかし、学力低下の原因が一連の「ゆとり教育」にあるのかどうかの議論は決め手を欠くものでした。
そうした中で、藤澤先生の「ごまかし勉強」説は原因と結果だけでなく、派生する種々の問題を含めて、最も納得のいくものだと思います。以下は、『信濃毎日新聞』の書評欄(2002.5.26)に掲載したものの再録です。紙幅の関係で簡単な紹介しかできていませんが、本を読めばデータに基づくしっかりとした理論付けがなされていることがわかると思います。2冊組ですが、まずは上巻だけでも読んでみてください。 (守 一雄)
教授 君、家庭教師やめて、塾の講師になったんだって?
学生 ええ、バイト代は少し減っちゃうんですが、塾の講師の方がラクなんです。プリント配って子どもたちにやらせるだけだし。
塾のプリントってよくできてるんですよ。学校の教科書にもピッタリあっているから、それをやっておけば学校の試験でもけっこうよくできちゃうんです。
教授 でもそのやり方じゃ、試験ではいい成績がとれても、内容がちゃんと理解されないだろう。
学生 試験勉強ですから、試験さえできればいいんですよ。
教授 おいおい、教育学部生がそんなことでは困るぞ。でもやっぱりこの本のいうとおりなんだな。
学生 なんですかその本は?
教授 この本では君がいうようなその場しのぎの勉強を「ごまかし勉強」と呼ぶんだ。そして、「ごまかし勉強」がはびこってしまったことが今の子どもたちの学力低下の主たる原因だとする。学力低下問題にはいろいろな仮説が出されてきたが、この本の著者、藤澤先生の「ごまかし勉強」説は最も納得ができるものだ。
学生 でも「ごまかし勉強」をやっているのは塾だけでしょ?
教授 ところがそうじゃない。学校でも授業時間が短縮されたりして、ゆっくりと考えたり、何度も実験をして確かめたりというような授業が減ってしまった。その代わりに、効率よく教科内容をこなしていく授業が好まれるようになっているんだ。教師もそのほうがラクだったりするからな。
文部科学省が推進してきた教科内容の削減も裏目に出ている。内容が減れば、ちゃんと理解しなくても丸暗記で済むから「ごまかし勉強」の方がむしろ効果的だ。
さらに悪いことには、「ごまかし勉強」の見かけの効率に騙されて、教師もそれがいいやり方だと誤解してしまうんだ。親だって、成績さえよくなればと考えるから、「ごまかし勉強」を子どもに勧めたりする。いってみれば、社会全体が「ごまかし勉強」を容認してしまっているようなものだ。
学生 じゃ、いったいどうすればいいんでしょう?
教授 まず、この本を読むことだな。藤澤先生は「ごまかし勉強」をさせないための対策も提案している。そういえば、対策の一つは「教師が安易に試験範囲を教えないこと」だそうだ。私も早速これを実践することにするぞ。
学生 うわっ、これは大変だあ。
(守 一雄)