「音階の曲集」の特徴


音階を全ての曲の中で学習することができる
 どのテキストも、新しい調の導入時に、まず音階の説明とその基本パターンの練習から入ります。それは、それぞれの調の音の構成を知るには、音階を学習することが一番だからです。しかし、どうしたわけか、市販のどのテキストも、音階が導入された後に、音階を含んだ曲がほとんど用意されていません。

 それに対しこの曲集では、どの曲も、調の導入時に習った音階の基本練習と同じ、主音から主音への1オクターブの音階を、できる限り使うようにしています。そのため生徒は習ったままのひき方が使えますから、音階をひくための生徒の負担は、ほとんどないといってよいでしょう。しかし、このように音階を曲中でたくさん練習できることで、それぞれの調が、どの音を使ってどのように構成されているかを、繰り返し学習することができます。

 また、音階をひく難しさは、太くて鈍い親指を他の指の下にくぐらせたり、親指の上を他の指が回り込んだりするところにあります。そのため、音階をきれいなレガートでひくことは難しいテクニックです。しかし、それぞれの曲が持つ流れるような性格にも誘われて、たくさんの音階をひくうちに、次第になめらかな音階のひき方に馴染んでいくことができます。

 音階は単に調による音の構成の違いを理解するためだけでなく、音楽の表現の最も基本的なパターンとして大切なものです。ホルショフスキーの日常や音楽家としての活動をドキュメントしたビデオが放映されたことがありました。そのフィルムの最後の場面で、ホルショフスキーが95才の高齢になっても、毎日の練習の中に音階の練習を取り入れ、全ての調にわたり、色々な練習パターンを使って、丹念に練習しているところが映されていました。音階が音楽のいかに大切な基本であるかを、よく物語っているビデオだと思いました。


全ての曲は1頁に収まる短い曲
 全ての曲が1ページに収まっていますが、このことは子どもの精神的負担を驚くほど軽くするのに寄与しています。一目で1曲が見渡せるということは、子どもにとっては、自分の力で把握できる範囲に収まっているという、大きな安心感があるようです。


各曲間の難しさの差があまりない
 どの曲もちょうど1ページの短い曲というだけでなく、次に続く曲の技術的難しさが、前の曲とあまり変わらないようにできているために、初めの曲がひけると、次の曲も苦労することなくできるようになっています。それにより次から次へと曲をマスターしていくことができる達成感と満足感は、大きな自信を生み、次への飛躍の跳躍台になります。


変ロ長調、変ホ長調の曲も多数用意
 バエイル始め多くの初級用ピアノテキストには、変ロ長調、変ホ長調、ホ短調、ニ短調の曲は、全くないか、ほとんどありません。フラット系の曲では、 主和音の基本形の位置に5本の指を置くと、変ロ長調の場合は左手の5、右手の1が、また変ホ長調の場合は左手と右手の1も5も、黒鍵上にくることになり、小さい子の弱い指には、大変ひきにくいポジションになります。このことが、初級用テキストに変ロ長調以降のフラット系の曲が、ほとんど用意されていない一番大きな理由だろうと思われます。

 また、フラット系では、すでにヘ長調から4-1、1-4の指の運びが出てきます。 さらにまた、フラット系の音階の演奏がハ長調やシャープ系の音階と違うことは、1の指の曲げる量が大きくなるということです。この点もフラット系の演奏を、シャープ系のものより難しくしているといえます。

 だからといって、これらフラット系の勉強をないがしろにするわけにはいかないでしょう。すでにツェルニー100番の中にも、また色々な曲集の中にも、、変ロ長調以降のフラット系の曲はたくさん出てきます。そこで、「音階の曲集」では、他の調と同じように、これらフラット系の曲にも、たくさんの音階を含んだ曲を用意しました。もちろん、ひきにくいパターンに陥ることを、できるだけ避けるようにして、むしろ、フラット系特有の流れるような柔らかさが、このレベルの子どもたちのテクニックでも出せるような曲作りに努めました。


ホ短調、ニ短調の曲も多数用意
 短調は旋律短音階、和声短音階といった複数の種類があることを考えただけでも、長調を学習するより難しいです。しかし、一般に初級用のテキストでは、短調の扱いはご挨拶程度といった感じがします。しかし、「音階の曲集」では、イ短調だけでなく、ホ短調、ニ短調にも、それぞれ多数の曲を用意して、短調の理解が深まるように配慮しました。


全ての曲、全ての音階練習パターンで調を確認
 バイエルも、グローバーも、そのほかの多くのテキストには、各曲に何の調かを生徒が答える欄が用意されていません。このように、テキストのシステムとして、調を確認するフォームが用意されていませんと、よほど注意深い先生でも、生徒がその曲の調を分かっているのですか、それとも分からないままにひいているのですか、チェックし忘れてしまうものです。

 そんな現場の状況を考慮して、このテキストには、子どもが調を判断して書く欄が、全ての曲の冒頭に、また巻末の音階練習パターンに用意してあります。生徒が自分自身の手を使って書き込むことだけでも、生徒の調に対する意識が毎回高められますので、回を重ねるごとに、調の判断はより確かなものになります。

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