トールドアーマー「トランディ」

 AREA6
 「ルーン・ザ・フォーチュン」



「何だ? 何が始まったんだ?!」

 コックピットを見回すアーリーの目の前で、コンソールに表示されていた各部のパワーメーターが突然上昇を始めていた。奇妙な振動音がコックピットに響き始め、驚くアーリーが何もしないうちにエネルギー探査システムが立ち上がる。周囲のエネルギー反応を勝手に探査し始めるそれにひとつの光点が生まれた。「D−モード」の表示は依然表示されたまま、カウントダウンはやがてゼロに近づいてゆく。アーリーはスティックを動かした。まだ、コントロールは彼のものだった。

「暴走じゃない・・・、なんなんだ、この反応?!」

 アーリーがトランディを振り向かせたその前方上空に、突然その閃光はきらめいた。カウントダウンが終了したと同時に広がり始めたその光はやがて人の形を取り始め、声を失うアーリーの目の前で、しだいにそれは、彼の良く知っているものへと変化し始める。現れたその人型の物体に、彼は言葉を失った。

「キラー・・、ドール・・・?」

 その人型は仮面を付けており、それには顔のモールドがなかった。背後から翼のような炎をたなびかせて舞い降りてくる銀色の体に噴射の光がきらめき、それはまるで美しい装飾のようだった。豪奢な造形を悠然と操って、巨人はトランディの前方に着地する。上体を起こしたその仮面は、まっすぐにトランディの方を向いていた。

「キラードールが・・・?!」
「どうなってんの!? 何なのよ、あれ!!」

 トランゼスのコックピットから聞こえてくるグレナディアの声に、フィリスは答える言葉を持たなかった。テストエリアの中央に現出したその巨人はしばらくすると背後を振り向き、トランディに倒されたその同族にちらりと一瞥をくれる。何かを確認したかのように振り返り、歩き始めたその体はトランディの方を向いていた。声無く立ちすくむフィリスに重い歩行の振動が伝わる。キラードールはビクトリーロードの遠方、アウターワールドの何処かから現れる、先史文明の遺跡兵器であったはずだ。出没地点がどうしても特定できないために一掃作戦が立てられず、そのためにカウンターウエポンとしてTAが必要だった。そう、キラードールはビクトリーロードには現れない。だからこそ、人はこの星で生きていられたのでは無かったか?

 ‥‥この銀色の巨人は今、どうやって現れたのだ?

「まさか、そんな‥‥‥!」
「アーリー! やばいよそいつ! エネルギー反応が前の奴よりも高‥‥!?」

 トランゼスのコンソールに映る赤い光点ばかりに気を取られ、グレナディアは今まで見逃していた事に気が付いた。探査システムに映る赤い光点の前にトランディのエネルギー反応がある。脇にリストアップされたその数値が、次第に上昇し始めているのだ。

「なによこれ‥‥? トランディの反応‥‥?!」
『グレナディアは後ろを頼む!! こいつは俺がやる、今ならやれそうだ!!』
「ちょ、ちょっとアーリー、わかってんの?! トランディのエネルギー反応が変なのよ! もしかして、暴走してるんじゃ‥‥!!」
『さっきから変なんだ。まるで奴に反応したみたいに‥‥、でもセレクターもスティックも反応速度は上がってる! 動くとしたら、悪い状況じゃないさ!!』
「アーリー!!」

 グレナディアが叫ぶと同時に、アーリーはスティックを前に倒していた。キラードールに勝てたと言う事実がアーリーの心に慢心を生んだのかもしれない。セレクターを動かし、銀色の人型がモニターに迫ると同時にトリガーを弾く。走り込んだトランディはそのまま右のナックルショットを敵の頭部めがけて打ち込んだ。予想した衝撃も響くはずの破壊音も聞こえない。銀色の細い指先が、トランディの拳を易々と捕まえてしまったのだ。

「止められた?!」

 とっさに引き剥がし、一歩後退する。だが各部のスラスターが機能していないために十分な距離を後退できず、アーリーは間合いを離せないまま敵の前進を許してしまった。とっさにとどまり、そのままパターン4につなぐ。下から振り回したトランディの左腕が当たる事は期待していなかった。それをフェイントにして次のパターンへとつなぐつもりだったが、軽い衝撃に、アーリーは再び動きを止められた。振り回したその腕を、キラードールが掴んでしまったのだ。

「また?! なんなんだよ、こいつ?!」

 掴んだその腕を引き剥がそうとする前に、銀色の巨人がもう一方の腕でトランディの首筋を捕まえた。何をされたか一瞬わからないまま、敵の腕から伝わる過度の加重にトランディは片膝をついてしまう。機体の軋む振動がコックピットに伝わり、アーリーは自由になっている右腕でそれを引き剥がそうと掴み返した。だがまるで食いついたように離れない。かわりにコンソールに表示される左下腕のコンディションにレッドサインが表示され、警告音が鳴り響いた。何かする時間はなかった。どこかで金属の束が握り潰された音が聞こえ、コンソールの左下腕部に「BROKEN」が表示された。

「左腕が!!」

 左腕を使うパターンがシステム上でロックされる。機能しなくなった左腕を掴んだまま、トランディの首を締め上げる銀色の巨人がトランディのメインカメラをのぞき込んだ。何も出来ないまま、敵の仮面がモニターに映る。表情はなく、装飾もない。アーリーはそれに、始めて恐怖を覚えた。

「アーリー!」

 トランディがねじ伏せられようとしているその状況に、立ちすくんでいたフィリスはグレナディアの声で我に返った。立ち上がり、向きを変えたトランゼスのハッチは開いたままで、グレナディアの姿もじかに見えている。何をするつもりなのか、わざわざ聞くまでもないことだった。

「ま、待ってください! その機体じゃ・・・!」
「じゃあアーリーを見捨てろっていうの?! あんたそれでも・・・!」

 グレナディアの避難にフィリスは叫び返した。さっき、言えなかったことがあったのだ。

「展示会場まで下がってください!! あそこには・・、あ、グレナディアさん!!」

 フィリスが最後まで言い切る前に、グレナディアはトランゼスを移動させた。だが前に走ろうというところで突然立ち止まり、振り返る。その先には展示会場の入り口が見えていた。

「バックパックならまだ付けられるよ! でもトランゼスだけじゃ付けられない、サポートよこして!!」
「あ、だったらあたしやる! ラディット、ついてきて!!」
「わかりました」

 トランゼスを追いかけるように走り出したミアの後ろから、ラディットがモーター音を響かせてついてゆく。グレナディアは理解してくれたのだ。安堵の一瞬は、後ろから聞こえた鈍い金属音に邪魔された。フィリスが振り返るとトランディの首からはスパークが起こっている。アーリーの名を呼ぶフィリスの悲鳴は、しかしグレネードキャノンの発射音にさえぎられた。HFSの駆動音はその後にテストエリアに入っていく。グレネードの軌跡が音を立てて目標に吸い込まれていった。

 銀色の巨人はその爆発に後ろを振り向いた。ローワンの放ったグレネードが着弾したのは背後で動かない女性型キラードールの方だったが、その瞬間に、トランディは押さえつけられていた加重から解放された。トランディを放りつけた巨人の仮面が上に跳ね上がると、収束した粒子砲がリックの操るビーグルに放射される。テストエリアの一部に穴を開けたその閃光を交わしつつ、リックは確信の笑みを浮かべた。背後でキャノンを構えるローワンが口笛を吹く。銀色の巨人が現れたとき、後ろのキラードールを気にしていたことをリックは見逃さなかったのだ。

「言った通りだったろ! どういうつもりか知らないが、あいつ、あの機体を回収しに来たんだ!」
「なるほどな、だけどかわし切れるのか? 今度はこっちを狙ってるぞ?!」
「心配するな、男と心中するなんて俺の趣味じゃないさ!」

 そう言い切ってから、リックはビーグルを急旋回させた。その前方に閃光と爆音が轟き、テストエリアの土砂が雨のように降り注ぐ。その中でローワンが放ったキャノンが再び女性型キラードールに着弾する。衝撃で外装の一部に穴が開き、巨体が振動に揺すられた。銀色の巨人は思案げにそのビーグルを追尾していたが、やがて仮面を戻すと「彼女」の元に歩み寄る。内部から、彼は通信機に語りかけた。

「レイシー無事か? 生きているのだろ?」

 立ち上がろうとするトランディをゴーグル越しに映しながら、彼の耳に聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。キャノンの着弾で気が付いたらしい。どうやら気を失っていただけのようだった。

『‥‥スティア、なの‥‥?』
「話は後だ。うるさい蠅が君にちょっかいを出しているが、「アントワネット」は動くかい?」
『だいじょうぶ‥‥。フェイスキャノンが破壊されただけ。まだ動くわ‥‥』
「なら結構。もう時間だが、退却の前にあの青いTAは、自分が潰しておくよ」
『‥‥‥』

 苦渋をなめる思いだった。銀色の「ルーン・ザ・フォーチュン」が立ち上がり、トランディの方を向く。スティアのその機体が炎を放って飛翔し、そのまま自分を倒した青いTAに激突した。弾かれ、地面に叩きつけられるトランディは、スティアの「ルーン・ザ・フォーチュン」の前でその無力さをさらけ出している。だが自分は、そのTAに負けたのである。ゴーグルを被りつつ、レイシーはコントロールアームを力一杯握りしめた。

「うわぁ!!」

 立ち上がろうとしていたトランディは巨人の体当たりを受け、再び地面に叩きつけられた。襲ってくる衝撃の中、モニターには自分を見下ろす銀色の巨人が映り、振り上げられた右腕の肘下に付いている剣状の突起物が、音を立てて反転するのが見て取れる。動かそうとしたトランディの右腕は「彼に」踏みつけられて動きを失った。セレクターを動かす間もなく、剣がトランディのコックピットを正確に狙い打ち下ろされる。目を閉じたアーリーは死を意識した。だがその時聞こえた甲高い音と共に、剣は突然根本から折れていた。薄目を開いたアーリーの耳元で、グレナディアの声が鼓膜を叩く。

『アーリー逃げて! 早く!!』

 背中にバックパックを背負ったトランゼスが、テストエリアの外周から再びレールキャノンを射出する。飛び退いた銀色の巨人はその鉄鋼弾を交わすと、倒れている同族の元に近づいた。

「レイシー、残念だが邪魔が入った。お楽しみは次回と言うことにしよう。退却する」
『分かったわ‥‥』

 トランディから注意を逸らすために、倒れたキラードールにもう一度狙いを付けたローワンが気が付いた。スコープに映るその巨人が、突然むくりと動き始めたのだ。

「動いた?!」

 目を見張る人々の前で、「彼女」は静かに立ち上がると空を仰ぎ、同時に各部のスラスターが炎を噴射する。ジャンプして飛び上がったそれを追いかけるように銀色の巨人も炎を放って飛翔し、舞いあがった空中で「彼」は「彼女」を捕まえた。閃光が、再び何もない空中にきらめいた。信じられないことが、また起こったのだ。

「き‥‥!」
「消えた‥‥?!」

 リックとローワンが呆然と空を見上げる。奇妙な静けさがテストエリアの周囲を覆い、それは遠くからやってくる、輸送ヘリのローター音で破られた。キラードールの居たという痕跡はもうどこにも存在しない。戦場の様な有様に変わり果てたテストエリアの中央で、打ち捨てられたトランディはまるで転がる死体のようだった。



 静けさを取り戻しつつあるテストエリアの脇の方で、そのビーグルは停車した。力無く動かないトランディを見つめていたリックは辺りを見回した後、不意に空を見上げた。

「ひどい有様になっちまったな‥‥。発表会は、大失敗って訳だ」
「残念だが‥‥、キラードールが現れたんだ。運が悪かったとしか言いようがない‥‥」
「ふふ‥‥。運か。本気で言ってるわけじゃないんだろ、ローワン?」
「‥‥何?」

 敵の消えた空間を呆然と眺めていたローワンは、その声にふと、振り向いた。リックも同じように空を見上げている。陽はあと数時間足らずで水平線の向こうへと沈むだろう。やってきた軍用輸送ヘリがテストエリアに着陸し、数名の兵士が現れるのを眺めながら、リックはまるで呟くように話し始めた。

「奴らはビクトリーロードの中に現れた、それも他のどの場所でもなく、『この場所に』現れたよな。始めに現れた奴にしてもあの銀色の奴にしても、TAはトランディしか狙っていなかった。銀色の奴が『仲間を回収に現れた』ように、奴らは今回目的があって行動していた。だとしたら‥‥」
「‥‥‥」
「この発表会が潰されたとして、得をするのは一体誰になる? キラードールが都市にも出現し始め、勝てるはずのE−TRONを搭載したトランゼスとトランディもキラードールに倒された。軍がやってきたことでキラードールが退却したのなら、大切なのは武力としてのTAでしかない。そうなれば市場は‥‥‥」
「‥‥実績のないE−TRONよりも、実績を持つENIACの方を使い続ける」
「あの2体のキラードールがしたことは、結局『ENIAC社』を有利にさせることでしか無い。何故キラードールがそんなことをする? 奴らは先史文明の作った、我々人間の脅威だったんじゃないのか?」
「‥‥‥」

 ヘリから現れた兵士達に、エドワードは今起こった事を説明しているらしい。動かないトランディにトランゼスが近づき、グレナディアが声を掛ける。フィリスとミアもトランディに走り寄っていった。彼女らの機転が無ければアーリーは死んでいただろう。あの銀色のキラードールにとって、トランディなど敵ではなかったのだ。

「前々から思っていたことだが、やっとはっきりしたよ。キラードール、奴らは人間を滅ぼすつもりなんかないんだ。奴らの役目はただ人という家畜を檻の外に出さない為の番人でしかない。何故そんなことをするのか分からなかったが‥‥。『特定の人間達の利益を守るため』だったのなら説明も付く。もしそれが「ENIAC社」だったのだとしたら、ビクトリーロードとは「市場確保の為に人間を飼う土地」だったと言うわけだ。ビクトリーロード‥‥、ふふ、勝利の道か。いいネーミングだぜ」
「リック‥‥。声は静かにな。誰が聞いているか、分からないんだ」
「とんだ茶番だな。ライズが野党に襲われ、アーリーがキラードールに勝つ前から、事はすでに始まっていたんだ。計画したのは支社長なのかい? 俺達はこの見えない戦争にかり出された、単なる捨てごまとしての兵隊だったって訳だ」

 リックの刺すような視線にローワンは眼鏡をなおしながら目をそらした。うつむき、顔を上げる。

「‥‥確かにその通りだよ、リック。黙っていたことは悪かったが、どこから情報が漏れるか分からなかったんだ。この計画はラグナスだけじゃない。このエルファに生きる、全ての人々に関わる重大な‥‥」
「お為ごかしはいい。わかっちまえば簡単な話さ‥‥。ま、喧嘩の相手はでかい方が面白い。のせてもらうぜ? 俺も一口な」
「すまないなリック‥‥。だが、アーリーは‥‥」
「トランディはまあ無事だったんだ。アーリーもあれでなかなか『いい』奴さ。始めた喧嘩を、途中で降りるような男じゃない。それは保証できるね」
「ふふ‥‥。まったくそんな連中ばかりだからな。ライズの男達ってのは‥‥」

 アーリーはいまだトランディのコクピットハッチを開こうとしない。語りかけるフィリスの、ミアの、そしてグレナディアの声はアーリーに届いていたが、モニターには黄昏始めた青い空しか映っていなかった。トランディの両眼を通し、彼はじっと空を見上げた。雲はただ、ゆっくりと空を流れていた。

「キラードールだった‥‥。あれも‥‥!」

 自分が震えている事に、アーリーは気が付いた。脳裏に焼き付く銀色の巨人に、アーリーの乗ったトランディは、為すすべもなく倒されたのだ。冷たい汗が頬を流れる。彼はようやく通信機に「大丈夫」と、弱々しい返答を返していた。喜ぶ女性達の声を聞きながらも、だがハッチを開ける気にはならない。モニターの電源を切り、暗闇が支配するそのコクピットの中で、アーリーの拳が音を立てて握られた。

「くそぉ!!!」

 叩きつけたモニターが音を立ててひび割れる。拳に流れる赤い血の滴りは、殺された両親の痛みをアーリーに伝えていた。自分は何も出来なかった。トランディという強力なTAを用いながら、アーリーはキラードールに勝てなかったのだ。

「二度と、負けるものか‥‥!」

 ミアの、フィリスの、グレナディアの声がアーリーを呼んでいる。ようやく彼は気付いたのだ。守るべきものがある限り、キラードールが自らの敵になる限り、自らの自由を犠牲にしようとも、自分はトランディという「力」を必要としていたのである。呼びかける声に答えてスイッチを押し、するとコックピットハッチがゆっくりと開き始める。差し込んだ光の中で、この時アーリーの心にはっきりと、ひとつの決意が芽生えていた。



エピローグ


「達成率は50%と言うところか‥‥。パウエルも破壊された。市場への効果は期待通りもたらせたとしても、これは思いがけぬ抵抗だ。アントワネットが中破とはな」
「まあ彼女も初陣です。量産機の方は大破と見て良いでしょうし、役割は果たせたとして良いでしょう。彼女がどう思っているかは、別ですが」
「意地が悪いなスティア。こうなることを、予想していたのではないか?」
「ふふ‥‥。勘ぐらないで下さい。彼女は優秀な戦士です。私はただ、ミスを恐れただけですよ」

 弟は決して本心を明かそうとはせず、それがアモスにとっては頼もしくもあり、恐れているところでもあった。広く薄暗い空間に浮かぶそのスクリーンにはアントワネットの記録映像が流れ、そこには傷だらけになった青いTAが映っていた。ナックルショットがうなりをあげて打ち込まれ、そこで映像はノイズに変わる。すぐに青いTAを映し出したスクリーンに、アモスは目を細めた。

「お前の予想が当たっていたのかもしれんな‥‥。『ルーン・ザ・フォーチュン』だったからこそこの機体は倒せた。失った『ルーン』の一機が敵の手に渡っていたのだとしたら‥‥」
「共鳴も観測されています。ですが見たとおり、『真なるルーン』にとっては敵ではありません。破壊できなかったのは残念ですが、これ以上の干渉は市場の注目を集めすぎる結果になります。対策は講じておくべきでしょうが‥‥」
「うむ‥‥」
「絡め手で行きますよ。『盟約の時』までには、破壊してご覧に入れます」

 そう言ってから、彼は部屋を出ていった。スクリーンが消え、周囲のウインドウが静かに下がるとそこには星空が見えていた。ガラス張りの外に見える町並みにはネオンが輝き、人間の生活する、雑多な空気が流れている。アモスは笑みを浮かべた。肥え太った子羊を眺めるような、そんな微笑みだった。

 ビルのプレートに描かれた「ENIAC」社のロゴが闇に浮かぶ。その最上階で、アモスは来るべき盟約の時へと思いを馳せていた。失敗は許されない。盟主のご光臨なされるその時までに、我々「キャナリー」は地に満ちる害獣を廃し、楽園を取り戻さなくてはならないのだ。

「こざかしい人間どもめ‥‥‥」

 ビルの間から、ラグナス統括支店のビルが垣間見える。敵にアモスは笑みを浮かべた。それは弱者を弄び己の優位さを信じて疑わぬ、絶対的支配者ゆえの微笑みだった。

AREA6 Final。



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