トールドアーマー「トランディ」

 AREA3
 「グラプリング」




・現在ガルトスで行われている「GF−Cトーナメント IN ガルトス」も早3日目を迎えていた。アマチュアも含めた全37チームにより、本日A,B2つのトーナメントにおいてそれぞれベスト4、ベスト3が決定する。Bブロックは17チーム、うち1チームがシードだったため、今から最後のベスト3決定戦が行われる予定だった。

「おい、Aブロックのサテライト、とうとうベスト4だってさ」
「あそこかぁ? ガルトスの閃光にまぐれ勝ちしたってとこだろ? つえーの?」
「ラグナスのワークスマシンなんだから、パイロットがヘボくてもそこそこはいくさ。‥‥でもよ、あの蒼いTA、何でも開発中のテスト機なんだってよ」
「へえ!」
「さっき見にいったけど、結構すげー動きしてたぜ? さっき聞いたんだけど、何でも今までとは違うBIOS載せてて、そのせいだってな」
「GF−Cに出てるって事は、半年以内に市販される予定って事か‥‥。明日の第2試合だっけ? 席とっといた方がいいかもな」

 Bブロック最後のベスト3決定戦を30分後に控えたバトルエリア周辺は、にわかに活気を帯び始めていた。人々の流れの中、その会話を聞いていたエドワードは一人笑みを漏らす。やがてひょろりとした眼鏡の青年が、彼のそばで立ち止まった。

「‥‥なかなか、上手く行っているようだな。ローワン」
「アーリーのおかげですよ。一昨日の『つまらない試合』のせいで、ずいぶん宣伝がしやすくて助かります。今日の変わり方もね」
「ジックス様も良いパイロットを見つけてくれたものだ。‥‥あまり目立つなよ? 自然にな」
「解ってます‥‥。」

 彼はそうつぶやいて、また人混みの中に消えていった。歓声が上がる。バトルエリアに現れた2体のTAは今、それぞれ大会審判員の規定審査を受けていた。

「エドワードさーん、おーい!」

 サテライトの試合も終わり、やってきたミア達がエドワードの用意してくれた客席に集まってきた。ミアが先頭、次がアーリーで、フィリスがその後ろからまるで付き添うように歩いてくる。アーリーを怒鳴りつけたい衝動をぐっとこらえたエドワードに促されるまま、ミアの隣に腰を下ろしたアーリーだったが、視線はシードチーム「フェンリル」に向けられたまま、動かなかった。ミアの隣に座るフィリスの心配そうな視線にも、彼は気づく様子がない。昨日から、彼は人が変わったようだった。

「‥‥背中のあれは何かね? 放熱板にしては、少し大きい気がするが」
「放熱板ですよ。ガルーダのジェネレーターは少し発熱が高いのでね。放熱板の大きさにも規定があるのですか?」
「いや‥‥」

 まあ、仮に不正な装備だったとしてもその時に失格にすればいい。だいたい大会シードを受けるようなチームが不正など‥‥。思わせぶりな笑みを漏らす青年の前で、審判員はそう判断して規定審査を終了した。一方のFUTABA重機ワークスチーム「フォックス」にも問題は無く、上空を浮遊するホバープレートに「スタンバイ」の表示が踊る。歓声の中、TA「シルバーフォックス」を見上げる統括部長の顔は渋かった。ベスト4にも残れなかったら私の面目はどうなる? やはりあのとき癇癪など起こさず、グレナディアにもう一度乗ってもらうべきではなかったのだろうか‥‥? 乗り込もうとするパイロットの頼りなさに、思わずそんな後悔が彼の胸中を横切った。

 「Ready,Go!」の表示がホバープレートに点灯する。‥‥フォックス統括部長の後悔は、先に立たなかった。

 あんぐり口を開けた統括部長の前で、「シルバーフォックス」はうつぶせに打ち捨てられていた。背中の背面板が大きく歪み、火花が散っている。時間にして約5分。数回の打撃戦の後、しばらく間合いを取っていたシルバーフォックスがガルーダを捕まえようとした瞬間、ガルーダはその右腕を素早く捕まえて引き付けたのだ。見た目以上のパワーにバランスを崩されて倒れかけたその背中に、ガルーダの肘が打ち込まれる。地面にぶつかる轟音と共に計上されたダメージは、勝利条件よりも12%ほど多かった。静寂の中、遅れた歓声がバトルエリアを埋め尽くした。

「‥‥あれですか。盗まれたガルトーラってのは」
「そう言うことです。勝てますかな?」
「勝ちますよ。負けるわけには行かないでしょ?」

 笑いの無い返答にエドワードは満足した。ガルーダというマシンが、盗まれた「ガルトーラ」であると言うこと、そしてそこに乗っているのがグレナディアであると言うこと。エドワードがもたらした情報にアーリーは驚愕したが、リックの「大会委員会に訴えるか?」という問いを、彼はすぐに拒否した。

「決勝まで行けば、彼女と当たる。‥‥それからにしてくれないか」

 歓声がそのTAに降り注ぐ。ガルーダと偽称された「ガルトーラ」の中で、彼女はメインモニターの倍率をいっぱいに引き上げ、客席をスキャンしていた。送っておいた手紙の通り、フィリス達は来てくれている。隣に一人の青年が座っている。感じたことのない胸の鼓動にグレナディアは微かなとまどいを覚えていた。彼の名前を、すでに彼女は知っていた。

「アーリー、か‥‥。未練がましい女は、嫌いだろうね‥‥」

 モニターに映るアーリーの表情は、どこか怒っているようにも思える。声を交わしたこともないその男とただもう一度戦いたいがために、彼女はガルトーラという悪魔のたずなを、掴んでしまったのだった。

AREA3 Final。



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