絶望のカリ高君・・・・果たして生還できるのか?


【 10月31日 御釈迦未遂】
現地のスーパーマーケットで一番手軽に購入できるのがMasfutという街名が書かれた
ミネラルウォーターであるが、そのMasfut方面にHi
Wayを走らせていくと巨大デューン が
見えるらしい。
ところがそれらしい物は発見できず結局100Km近く走って、美しい岩
山の麓の街Hatta
まで行ってしまった。
仕方なく来た道を戻り、例によってデューンが一番が多く、そして美しい砂漠に当りをつけ
ハットリさんを先頭に突入していく。
昨日までと一転してこの辺の砂漠は朱色っぽく、ブッシュも少ない。
太陽の原爆熱を浴びて焼け爛れた大地のようだ。
その砂の色からいっ そう熱砂を印象ずけられる。
高低差のある砂丘が果てしなく続くなかで、遥か遠く丘の上にポツンと木が生えていた。
「あの木のところまで走ろう!」、砂丘と砂丘の間にある窪地やラクダのワダチの跡は走
り易く、
幾たびもサンドクライムと砂煙を上げながらのデューン下りを繰り返し、這いずり回る
蛇の背骨の如くうねる砂丘の尾根をつたいながら木にたどり着いた。
ラクダのクソに囲まれた避暑地 軽井沢もブッ飛ぶ涼しい木陰を作り出してるこの1本の木に
「やなぎ」と命名し座標をGPSに打ち込んだ。
サイクルパンツ一丁のセミ裸族になって体育座りをしながらタバコをふかす。
遥か遠くに浮かんだ雲が砂漠に影を映してる。
至福の 時間だけが俺達 3人を支配している。
あ〜っ、いっそこのまま墓石にでもなってしまいたい。
「ここの砂はまるで水だね、モーリタニアがダブるよ。まっ,行ったことねえっケド……」
そう言ったままハットリさんは恍惚の人になってしまった。
「そろそろキャメルバックの水も少ないし、最後にあそこに見える雪庇みてえなデュー
ンまで、
ちょっとだけ走ってから帰ろう」……… そして、悪夢はおとずれた。
先に「やなぎ」に戻った俺とハットリさんはエンジンを切り、カリ高クンを待った。
「やなぎ」の位置からはよく確認できないが、彼はすぐ手前のなんてことない砂丘にハマってしまったようだ。
砂地獄からの脱出を図ろうとするエンジン音が空しく響き渡る。
やがて、その音は悲鳴にも似た音へと変わった。
「おい、おい、開けすぎだぞ!やばいんちゃうん!」
「あああっ!!!!ああ…・・。」
砂丘の向こう側で青空に向かって、糸を引くように青白い煙が2度ほどたなびくのが見
えた。
「クソッ、なにやってんだ!!」
奥歯を噛みしめながらハットリさんと共に彼のもとへ駆け寄る。
「ごめんなさい、ニュートラルのなの知らないで吹かしこんじゃいました
……・。」
そこにはタイヤ半分を砂に埋め、疲れ果て呆然と立ち尽くすカリ高クンの姿があった。
「まっ、とにかく、取りあえず、頭を冷やそう」
百戦錬磨、これまで幾度となく修羅場をくぐってきたハットリさんの指示に従い
「やな ぎ」の木蔭まで歩く。
レース本番前にしての焼き付き。
いやレースよりもなによりもこの砂漠のド真ん中から脱出することが
目先の重苦しい課題となった。
20分ほど頭とエンジンを冷やし、セルを廻す。
キュルル・・ル、ドルン!ズバババ… マフラーから吹き出る煙は徐々に薄くなる。
焼き付きはまぬがれたようだ。しかし、大きな問題があった。
それはDRのギアがニュートラルであったから動かなかったので無く、
実はクラッチが滑っていたのである。
神に祈りながらクラッチケーブルを調整する。
そしてDRのタイヤは再び回りはじめた。
「やった!助かった!!」
「プシュッ!ングッ、ングッ、ひえ〜っ、うめえ!!」
愛しの我が家、MAREDIAS Hotel で無事生還を祝って、またもビール乱れ飲みして夜が更ける。