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これがラリールートを示すルートマップ。
補佐的にGPSがある。
ラリーストはこいつに命を託す。


ビバーク地に戻って真っ先にやるのはマシン整備。今日1日走ってくれた感謝と明日も元気に
走ってくれるよう心を込めて相棒を整備する。
ちなみにこのラリーのビバーク地には砂漠のど真ん中にもかかわらず仮設のプール始め、駱駝散歩ツアー
なんかのお楽しみがあり、余裕のある人は楽しめるシステムとなっている。
なにせアラブの大富豪が主催するレースなんでスケールがでかい。
又、UAE軍隊がフルサポートでブラックホークやハマーなんかがレスキューのバックアップ体制をとっている。



【 11月4日 I like Virgin 】

アルジャン〜アルジャン SS442km リエゾン28km 計470km

今日はラリー最長の 469Kmの日で、よってスタートも日の出とともである。
その朝日の逆光の、しかも朝靄にけむる中を走るんだからたまらない。スピードなんか
出せるわけが無い。と思っているのは俺だけなのかガンガン抜かれる。
しまいにはKTM に乗る身の丈 3mの大女、LYDAちゃんにも抜かれる始末である。
この大女に、こともあろうにこの俺は妻子を持つ身でありながら惚れてしまっていた。
強靭な太もも、そしてケツ。遥か見上げた所にある、りりしい顔。
率直な気持ち・・
「抱かれてみたい…・」。
そんな胸の内を切々と語っていると、エズレが
「青沼さん、あんなのいいんですかあ?どう見たってドイツの田舎娘って感じじゃない ですかあ〜」
と呆れ顔で言うのだった。
「……」。

この日最初の難関は25km地点から現れるフカフカの砂丘群である。
巨大な蟻地獄の様な砂丘を延々上り下りする。
リアタイヤを全部砂に埋め込み煙を吐く青いKTMが見える。
LYDAちゃん始め俺を抜いていった外人部隊の多くがそこらじゅうで悶えている。もうずっ と遥か前を走っている
と思われた吉友さんも悶えていた。
砂丘の向こう側が急な角度で切れ落ちている為、どうしてもびびって砂丘ピーク手前でアクセルを戻してしまう。
そうすると瞬く間にリアタイヤは埋まる。
単車から降りる。うんせっ!と 押す。砂丘ピークを超える。単車に飛び乗る。アクセル開ける。・・・・埋まる。単車から降りる・・・
を、何度も何度も繰り返す。
けしてエンジンにはやさしく無い作業である。
「ていねいに、ていねいに、体力温存」
と念仏の様に唱えながらも確実にヘロヘロになっていく。
やがて塩湖が見え始め、PC にたどり着いた。次のガソリンチャージポイントまでは190kmある。
砂漠の連続走行は極端に燃費を悪くする。キャブレターのメインジェットはスタンダードの162番だが10km/lも走らない。
アチャルビス製のビックタンク満タン(22リットル)だけでは心もとない。
腰に下げた1.5リットル・ボトルにもガソリンを入れておく。
ここから先は肌色とピンクと赤を混ぜ合わせた色合いの砂漠の中に、高速道路並みのス トレートが延々と続くハイスピードセクション
「砂のハイウエイ」となる。
とは言っても無数の轍が刻まれており、時として深い轍にハマると100km/hオーバーのスピード
から振り飛ばされそうになる。
真上からの太陽光線で轍の深さがなかなかつかめない。

ここで助けられたのが今ッポから借り受けたステアリングダンパーである。
NEVADA Rallyの時はステアリングダンパーが無くこのサンドの轍に捕まり、何度もブッ飛んだ。
でも今回は今ッポがほっぺたをプルプルさせながら額に汗を浮かべて、必死にハンドルのブレを押え込んでくれた気が した。

360°幻惑的な砂漠が続く中を40 km走ったところでついに我慢できなくなりバイクを止める。
次の瞬間、無音の静寂が訪れる。大空にでっかく
「シ〜ン」
と書いてあるみたいに「し〜ん」としている。

絶対やりたかった事があった。
それは 360°見渡す限りのピュアな砂漠での、砂のサンプリングである。

この「砂のハイウエイ」には急に砂丘が落ち込んでいるところなんかに目印のポールが 立っている。
パリダカなんかで見た( TV で)憶えがある。これをバリースと呼ぶのかど うかは知らないけれど、ポールがある
という事は一応は認められたピスト(道)であり、普段も走る人はいるらしいのだ。
でも、こんな延々走ってもまったく人の匂いがしない大地をいったい 誰が?何の為に?
「死」のリスクを犯しながら車を走らせるのだろう。

やがてルートは「砂のハイウエイ」から外れ、GPS走行指示の砂の原野に突入していく。
トップ20以内をいくバカッ早のライダーはいざ知らず、俺なんかとバトッている40番前後を行く外人ライダーの特長は
ストレートはとにかく開けっぷりがいいが、チマチマとした砂丘地帯に入ると、無残なほどにヨタヨタ走行になる。
俺なんかが連中に仕掛けるのはこんな所くらいしかない。
「轍追っかけ、ちょっと無理した走法」になり、マップ見るのをおろそかにしたのが失敗だった。
Uターンの轍が目に付きはじめ、気が付くと数本しかない轍を必死に追う自分がいた。
トリップメーターは本来なら2度目のGAS 補給ができるPCの距離を示している。
しかし、周 囲にそれらしい気配は微塵も見当たらない。
GPS はアンテナのトラブルか?まったく衛星 を拾わない役たたずのインポ野郎になっていた。
一番の心配は燃料だった。GAS 補給してから190Kmは走ってるし、腰に下げた1.5も 既に投入済みだ。
「戻るしかない」。
でも、どこの分岐から間違えたのか?まったく見当がつかなかった。
ミスコース上での燃料切れは生命にかかわる。助かるすべは非常用ビーコンを使うしかない。
しかし、 その瞬間から自分は競技から外される。

小高い丘に登り、せめて砂煙でも見えないかと遠くを眺めていると、ミスコースしてる とも知らずこちらに向かって一直線に
やって来るライダーがいた。
YAMAHATT600を駆るスウェーデン人、SNODAHLさんがその人だった。

{ここから先は私のかなりインチキな英会話を再現します。
なおSNODAHLさんの言い分は、 たぶんこう言ったんじゃねえかな?という私の解釈で和訳して記載します。}
「Hey!Is this way on course ? I think lost route.」
「うん、GPSの方向とも違っていくし、私もこの道は絶対に違う気がするよ。君のGPSはど うだい?」
「 My GPS is broken. Not catch…衛星…えーと、衛星ってなんてったっけ?
まあいい や、Look your GPS.Where is the PC point? ん?なんか違うなあ How far kilometer to PC ? 」
「PCまでは直線距離で25km離れてるねえ、きっとここを真横に突き進めばPCだよ」
そう言って彼が指差した方向には砂丘と呼ぶにはあまりにでかいピンク色に輝く砂の山が連なっていた。
「OK! go to PC ! Let’s together」

周りじゅう見渡しても、ただの1本も轍の無いバージンデューンに踏み入っていくのは ゾクゾクするほど恐く
又、ゾクゾクするほど爽快であった。その感覚は山スキーでバフバフのパウダースノーの中に自分だけの
シュプ―ルを残していく悦楽感に似ている。
ひと つ間違えば…という恐怖を快感が飲み込む。

「本当にSNODAHLさんのGPSが差す方向にPCはあるのだろうか?
そう何度も疑うくらい、 でかい砂山を超えてもそのまた向こうには
巨大なカベの様な砂丘が立ちはだかった。
自信が無くなり立ち止まる都度 SNODAHL さんは「あと10km 。こちらの方向」
と言っ て、進むべき方向をオーバーアクションで指差す。
実に頼もしい紳士であり、運命を共にした相棒であった。
やがて遠くにアンテナが見え、そこまでいくとターマックが一直線に延びていた。
ガソ リンタンクをリザーブに切替え、数 km走るとそこにPCがあった。
「Thank you for your nice navigation.Thank you very much.」
そう言ってSNODAHLさんとガッちりと握手を交した。

その後は眼から血のでる勢いでルートファインディングをし、無事GOAL。
ホッと一息の一服がうまかった。
ビバーク地に着くと、今日もエズレ、ハットリさんらが涼しい笑顔でお出迎え。
ただエバだけは浮かない顔してバイクをいじっている。
奴のHONDA600の調子が良くないらしい。
ハードクラッシュもあったらしく、奴のバリバリにカッコ良かった
フロントスクリーンは バリバリに割れていた。

俺にも気が重くなる整備が待っていた。その一つはオイル交換。
そんな簡単な作業の何が憂鬱かって、マルカワから26000円も出して購入した
オイル注入口に固定するタイプのステアリングダンパーのセンターピンが粗悪
極まりない精度で、フロントフォークを抜いて三つ又を外さないと抜けないのである。
たかがオイル交換で重作業を必要とするのだ。
それにデューン越えの際クラッチの焼ける匂いが漂っていたのも気になる。
新品に交換しようかと、バイクを寝かせ、ネジまで緩め たものの夕方になると
特有の風が吹き始めた。
風は砂を運び、見る間に工具箱に砂が積もっていく。
こんな中で…・。

俺らしくないブルーな顔でいると、江連が
「青沼さん、ラクダ乗りましょうよ、ラクダ乗れば気が晴れますよ」 と言ってきた。
「あ〜、う〜ん」
と気乗りしないまま江連、ハットリさんと共にラクダに跨る。
ラクダのコブの高い視点からビバーク地を見渡すと、な〜んか極楽トンボのしあわせ気分になるから不思議だ。
「ね〜、気持ち良かったしょう?」
すべてを悟りきったような口調でニコニコしながら湯気坊主は言うのだった。

本日の順位はハットリさんが奮闘して26位に順位を上げた。高速セクションで江連を ロックONして、かなり無理して
ハイペース走行してたらしい。
ハットリさん曰く
「もう、泣きながら走ってたもんね」 な〜んて言ってるがロックONされた江連は30位。
ハイペースな分、よくブッ飛ぶらしい。俺は46位、気にするのがアホ臭い。

ビバーク地にはスターライト高級レストランが有り、毎晩ごちそうが食い放題である。
おまけに各テーブルには最高にうまいワインがさりげなく置かれている。もちろん飲み放題である。
明日の輝ける未来よりも目の前の快楽にすぐ溺れたがる駄目人間モードは ラリーの真っ最中でも炸裂!
ワインボトル片手にデロデロ〜ンと整備。
「クラッチ〜イ?問題無え、問題無え!ハハ〜ン」と酔いどれて寝る。


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