




【 11月3日 突撃ニッポン トラ・トラ・トラ
】
「アッラ〜ン、○×△〆♂…・」 4時30分、野口へのみやげに購入したコーラン目覚し時計が
フルボリュ―ムで
アザーンをうなり上げる。いままでとは違う緊張の朝だ。
今日からレースが始まるのだ。
明け方の冷え込みに備え、3人ともナイロンのゴミ袋をウェアの下に着込み、闇夜のハイウェイをAbu
Dhabi向けてブッ飛ばす。
1時間も走った頃、地平線の彼方から太陽がポコリと浮かび始めた。
Abu Dhabiは整然とした街並みでDudaiと比べると顕かにお上品である。
アラブ人以外の人種は暮しにくそうな厳格なイメージも受ける。
海岸沿いのパーキング&公園にスタート台がドデンとあり、パルクフェルメ(マシン保管パーキング)の入口には自動小銃を
肩に下げた軍人さんが「許可無 しに入ろうもんならブッ放すぞ!」ってな感じで見張りをしている。
KTMワークスが泊り込んでいるホテルに入り込み、フロントマンにウインクを送りつ
つ便所に侵入し、
キジをブッたり、公園でヤニチューをしている間に史上最強のデザートマシン達が徐々に台数を増していく。
GAULOISESカラーに彩られたKTMワークス
ジャン・ルイ・シュレッサーのGAULOISESバギー、
三菱 ワークス、正月のパリダカ特番でしか拝む事のできなかったマシンが爆音をたてて目の前を横切る。
(注1:KTMとはオーストリアのバイクメーカーであり、そのクオリィティーは世界NO1。工場で大量生産される日本の
バイクとの顕かな格の違いは否めない。ワークスライダーとはメーカーと契約しているプロフェッショナルライダー。
まさに鬼と金棒の関係)
(注2:ジャン・ルイ・シュレッサーとはフランスの王侯貴族のおじさん。財力にものを言わせて自分のプロトマシン
(バギー)を作り、毎年、パリダカールラリーなんかに出場し、しかも優勝しちゃったりしている。フランスの国民的英雄なのだ。
今回のレースも4輪部門ではこの人が優勝した。)
(注3:三菱 ワークスといえばパジェロ。ドライバーの篠塚健次郎や増岡浩なんかは日本でも知られているところ。
この大会にも来ていた。砂漠のビバーク地で夜通し整備しているメカニックの日本人なんかも出張扱いなのがうらやましい!?)
しかーし、なんにもひるむ事はない。コツコツと作り上げ、魂を吹き込んだ
愛車を KTMワ ークス勢の中にさりげなく並べてみる。
ブルーのいかついマシンに挟まれた白ウサギみたいなMyマシンは、
キャー、カワイイ!
タービュランスで見た時はメチャクチャ決まっていたエバの600も
圧倒的台数のワー クスKTM-LC4群に混じると
吟醸酒の一升瓶をずらりと並べた中にワンカップ大関を置いてみました。
みたいであった。
ハットリさんの‘91XR600幸繁レストア号に至ってはそれすらも超越して、
マタギ が作った自家製どぶろく的なガンコさをかもし出している。
そうなのだ!もはやラリーの根本的な車体ジオメトリーというものは、
すっかりKTMのものに置き換わっていて、ホンダの入る余地がな〜い。
エバちゃんの600は、すげ〜かっこいいと思ったのに、こうだもんなあ。
もはや他の国の人だって、HONDAに乗ってる人は『趣味の人』って感じなのだ。
数多いジャパニーズ・エントラントの突撃スタイルを観察すると一様に重装備であるの
に気付く。
ズッしりと重そうなリックの中には雨カッパ、おにぎり4個、工具箱、なんかが詰め込んであるに違いない。
中にはホームセンターの100円均一でも売らねえような
ちゃっちいリックサックしょってる奴もいる。
“オイ、オイ、そんなオモチャ俺んちのガキ(幼稚園児)だってしょわねえぞ!ホント大丈夫かいな?この人ら”
そんな鬼畜米兵突撃大日本帝国陸軍の中で極めつけの王道をいくスタイルをしたのが
「森の熊さん」だった。
元パリダカマシンの彼の DR350のリアシートには溢れんばか
りに荷物がゴテゴテと積まれ、それらをツーリングネット
で強引にねじ伏せ、押し込んだ という状態である。
これであとアルミのロールマットを積めば、間違いなく「今日からあなたはツーリングライダー、北海道へGO!」である。
また、更に輪をかけて服装がすごい!ただでもムッチリした体型なのだが、鎖かたびら
インナーガードを着込み、
そのまた上にGWオールシーズン用頑丈ナイロンジャンパー(茶色−sizeM)を着込んでいる為、とにかくどこから見ても
パッツン、パッツンで皮膚 呼吸度ゼロの着ぐるみ状態である。
「フー、フー」言いながら、片時も放さずペットボトルの水を口にしているが、飲んだ
分だけ脇の下に汗染みが広がっていく。
「絶対、バテるから脱いだほうがいいよ」と言っても
「いや、いいんです」
と信念を貫き通す。
札幌から単身 UAEに乗り込んだ元「孤高の人」の森の熊さんは男の中の男一匹なのであ
る。
(なんだかなあ?)
エズレとマルボロギャルズ(レースクイーン)のケツを眺めながら、「あれは垂れてイマイチだ!あのネエ
ちゃんのケツが最高だ!
「俺はこっちだ!あれは和尻だ!」
など炎天下の中、なにもこんな所まで来て…という会話をしてる間に、スタート台に駆け上っていた。