遺言の方式

遺言の概略


遺言でできること

 遺言書が形式的に有効でも、法的に保護される事項は限られています。
もとより、家族への愛おしさを言葉にして書き連ねた場合など法的保護など期待しないで書く部分もあるでしょうから、保護されない事項が記載されていたとしても、遺言書全体が無効になる訳ではありません。
 しかし、法的保護を期待して書いた部分が実は無効であったとなると、せっかく遺言したのに、その意味が半減、最悪の場合は全く意味を成さなくなってしまうかもしれません。
遺言書に書いた事項が、法的にちゃんと保護されるのかどうか、しっかり確認しましょう。


法的保護を受けられる遺言事項

 遺言は、法律的には単独行為(相手方が存在しない法律行為)の一種です。
遺言によってできること(遺言書に記載した事項のうち法的保護を受けられること)を一口で言うと、「単独行為と、特別に法定されたその他の行為」と言うことになります。これらは大きく、「身分上の行為」、「相続に関する行為」、「財産の処分に関する行為」に分けられます。

 具体的に遺言でできる行為にどのようなものがあるか、見ていきましょう。

1 身分行為

 遺言によってできる身分上の行為には、以下のものがあります。
■後見人の指定
 未成年者である子がある場合(親権を行使できる者がある場合)は、その者の後見人を指定できます。後見人と言うのは、要するに保護者です。
 もしも指定がない場合は、親族等の請求によって家庭裁判所が後見人を選任します。家庭裁判所が適切な人を選任してくれればいいですが、そうでないと子供の人生を悲惨なものにしてしまうかもしれません。
不幸にして幼い子を一人残して旅立つことになっりそうなとき、年を取ってから生まれた子がある場合などは、ご自分が信用の置ける人物を指定することをお勧めします。この場合は、事前に指定する相手の意思を確認しておきましょう。
■後見監督人の指定
 前述の後見人を監督する者を指定することもできます。指定しておけば、後見人がなんらかの理由でその責任を正常に遂行できなくなった時でも一種の保険として働きます。この場合も、事前に指定する相手の意思を確認しておきましょう。
■認知
 男性に婚姻外でできた子供がある場合、その子を自分の子であると認める行為を認知と言います。
遺言による認知とは、遺言書で「この子は実は我が子だったのだ。」と告白することができると言うことです。
 子供は第一順位の相続人ですから、認知すれば当然その子も相続人の一人になります。遺言による認知とは、言わば「この子に自分の遺産を相続させるぞ!」と言う宣言です。

2 相続に関する行為

 遺言によってできる相続に関する行為には、以下のものがあります。
■相続分の指定・指定の委託
 遺言者は、各相続人の遺産の取り分を指定することができます。また、取り分を特定の人間が決めるように指定することもできます。
 一般に、総財産に対する割合で指定します。
相続分の指定は相続人が一番気にするところであり、分割方法の指定とともに、相続に関する紛争の火種にも紛争の炎を消し去る消火器にもなりえます。それだけに細心の注意と熟慮をもって指定すべき事項です。
■遺産分割の禁止
 5年を上限とする、遺産分割の禁止を指定することができます。
特別な理由があって財産の範囲が特定できない場合などに猶予期間として利用できます。
 遺産分割が禁止されると言うことは、財産関係が不安定な状態を継続させることですから、できる限り避けた方が良いのは言うまでもありません。仮に遺言に指定したとしても、身罷るまでの間に分割の禁止が必要ないような状態にするよう準備をしておく方が、ご家族にとっても良いと思います。
■遺産分割方法の指定・指定の委託
 遺言者は、遺産分割の方法を指定することができます。また、分割方法を特定の人間が決めるように指定することもできます。
 相続分の指定と異なる点は、具体的にどの相続財産を誰のものにするのかを指定する点です。
 たとえば、今住んでいる家は妻のものにするとか、愛車を欲しがっていた娘にあげるとか言う指定です。
相続分の指定とともに、相続に関する紛争の火種にも紛争の炎を消し去る消火器にもなりえます。それだけに細心の注意と熟慮をもって指定すべき事項です。
■遺産分割の共同相続人間の担保責任の指定
 相続財産の取り分にもしもなんらかの欠陥があった場合、例えば自動車を相続させたけど壊れていたとか、建物を相続させたけどシロアリに食われて倒壊寸前だったとか言うようなとき、そのまま相続させたのでは本来の意味を成しません。そこで、民法では相続人が相互にこのような問題(相続財産の瑕疵)を担保することを定めています。
 この規定は、遺言によってどの相続人がどれだけ担保するのかをを指定することができます。
前述の例であれば、自動車や建物の修理代を、他の相続人が均等に出し合うことにするとか、一番多くの財産を相続した人に、他の相続人の相続財産の担保責任を全て負わせると言ったような指定です。
■遺言執行者の指定・指定の委託
 単純に遺言書を残しただけでは、遺言の内容を正確に実行されるかどうか分かりません。
相続人の一人が遺言書を隠したりして、遺言の内容を無視した形で相続を行ってしまう可能性が無いわけではありません。
 もちろん、こう言ったことは違法で、法律でも罰が用意されている訳ですが、あくまで事後的な対処ですし、発覚しなければ「全てはそう言うことでした。」で終わってしまいます。
 遺言執行者とは、遺言の内容を実現する人であり、遺言に従って相続を行う上で非常に強力な権限を持ちます。遺言書で遺言執行者を指定することで、遺言の内容をより確実に実現させることができます。
 遺言書を残すなら、遺言執行者も同時に指定するべきでしょう。(もちろん、あらかじめ指定する人の同意を得ておく方が良いのは言うまでもありません)
■遺留分減殺方法の指定
 配偶者および第一順位と第二順位の相続人には遺留分減殺請求権と言う権利があります。
この、遺留分の減殺が行われると、遺贈>贈与>相続の順に遺留分権者が取り戻していくことになります。
 さらに、遺贈に付いては目的額の割合に応じて均等に減殺されていくことになっていますが、遺言によって、遺贈に対する遺留分の減殺方法を指定することができます。
 遺留分減殺請求権が行使される可能性を前提とする指定なので余り例はありませんが、どうしてもと言うときのために覚えておくと良いでしょう。
■相続人廃除の請求
 遺留分を持つ推定相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱をした場合、その相続権を剥奪する「廃除」と言う制度を利用することができます。
 廃除は家庭裁判所に申し立てて行うもので、生前でも可能ですが、遺言によってもすることができます。遺言でする場合はその手続きを遺言執行者が行います。
■相続人廃除の取消請求
 前述の廃除の請求とは逆に、生前廃除していた推定相続人の廃除を取り消すよう遺言で請求することができます。この場合も、取消請求の手続きは遺言執行者が行います。
■特別受益者の相続分の指定
 遺贈や生前贈与を受けた相続人がいる場合、遺贈や生前贈与の金額が特別受益分として相続分の一部とみなされますが、遺言で特別受益分としての算入をしないように指定することができます。
 ただし、この指定の結果遺留分が侵害されることになる場合は、遺留分減殺請求権の行使によって、遺留分を侵さなくなるまで特別受益分に算入されることになります。

3 財産の処分に関する行為

 遺言によってできる財産の処分に関する行為には、以下のものがあります。
■遺贈
 遺贈とは、遺言による贈与のことです。一般に相続人でない者に遺産を分配したいときに遺贈を行います。(相続人に対して遺贈することも可能です)
 遺贈には、贈与する財産を相続財産総額に対する割合で指定する包括遺贈と、ある特定の財産を遺贈する旨指定する特定遺贈があります。包括遺贈は遺産分割割合の指定と、特定遺贈は遺産分割方法の指定と同じようなものだと考えてください。
 また、遺贈には負担を付けることもできます(負担は遺贈する財産の価格を上限とします)。
■財団法人設立の寄附行為
 遺言によって、財団法人の設立に必要な寄附行為を行うことができます。
実質的には寄附行為によって処分された財産は遺贈された場合と同じ扱いを受けることになります。
■信託の設定
 信託銀行等に財産を管理、運用してもらう旨、遺言で指定することができます。