遺言の概略

  遺言の方式
 はじめに  「遺言」は「遺言書」の方式でしない限り、法的な保護を受けることができません。たとえばビデオ撮影等で残したとしても、法的には一切保護されません。
 相続人による遺産争いや兄弟親戚の気まずい状況を作らないよう準備をすることが、残された家族を幸福にする一歩です。そのためには、まず法律に定められた要件を満たす遺言書を作成することです。
 法律が保護してくれる遺言書の方式は、つぎの普通方式3種、特別方式4種の合計7種です。その要件は法律で厳格に定められています。
普通方式 普通方式の3種は、満15歳以上の人なら誰でも作成できます。

  1. 自筆証書遺言
    自筆で作成するものです。手軽に作成できますが、本物かどうかで後々トラブルの火種になる可能性があります。また、自分で字が書けない人には作成できません。
  2. 秘密証書遺言
    内容を秘密にしておきたい場合に利用します。自分の氏名だけ書ければ作成できます。公証人と証人が必要なので、費用がかかります。
  3. 公正証書遺言
    非常に強力な証明力を持ちます。作成に手間と費用ががかかりますが、無くす心配もなく、余程のことがないかぎり有効なものとして認められます。
特別方式 緊急に遺言を残さなければならない状態に陥っている人や、社会生活から隔離されてしまっているなど、特殊な状況下にある人にのみ作成できるのが特別方式の4種です。
証人等の条件を満たすことで、普通方式よりも遺言者の負担が小さい形で作成することができます。
その効力は、特殊な状況が去って普通方式の遺言ができるようになってから半年でなくなります。

  1. 一般危急時遺言
    病気などで死の危機に瀕している人ができます。
  2. 難船危急時遺言
    船舶遭難に遭ってかつ船舶内で死の危機に瀕している人ができます。
  3. 一般隔絶地遺言
    伝染病のために、行政処分で交通を断たれた場所に隔離された人ができます。
  4. 船舶隔絶地遺言
    船舶中にいる人ができます。

作成要領 法律で保護されるのは、前項までのいずれかの方式に従って作成された遺言書に記された事項だけです。
その作成要件は法律で厳格に規定されており、要件が欠けると最悪の場合、無効になってしまいます。
それぞれの作成要件は以下の通りです。
自筆証書遺言
自筆証書で作成する場合に求められるのは次の要件です。
  • 遺言者が全文を自書すること
    他人が手を添える程度の補助を受けることは可能です。
    手以外で筆記具を持って記述しても問題ありません。
    他人が書いたものに署名するだけでは認められません。
    ワープロ等の筆跡を特定できない器具で記述した場合は無効です。
  • 日付を自書すること
    「××年××月吉日」と言う記載は無効となります。
    日付に誤記があっても、証書の記載などから作成日が簡単に分かるなら有効となります。
    証書を入れる封筒に記述しても有効ですが、証書自体に記載した方が無難です。
  • 氏名を自書すること
    遺言者が特定できれば通称名や雅号、芸名でも可能ですが、住所・職業・本名・生年月日等、特定が容易になる形で記載した方が無難です。
  • 押印すること
    実印、三文判でも可能とされています。
    指印を認めるかどうかは判例が割れていますので、避けた方が良いです。
    他者が委任を受けて押印した場合でも有効ですが、本人が押印した方が無難です。
以上の要件を満たすことによって、有効な自筆証書遺言が完成します。
なお、加除訂正を行う場合は、加除訂正のあった場所の指示と変更した旨を付記してこの部分に署名し、実際に変更した部分には押印をする必要があります。
秘密証書遺言
秘密証書で作成する場合に求められるのは次の要件です。
  • 遺言者が証書に署名押印し、封入して証書に使用したものと同じ印で封印すること
    署名さえ遺言者本人ものであれば、その他の内容はワープロ書き、第三者の代筆でも構いません。
  • 遺言者が公証人一人と証人二人以上の前に封書を提出して申述すること
    申述する内容は、提出した封書が自分の遺言書である旨と、第三者が筆記したものである場合は、筆記した人物の住所氏名です。
  • 公証人と証人、遺言者が封書に必要事項を記載すること
    公証人が、提出した日付および申述内容を封書に記載します。
    その後、公証人、遺言者および証人がともに署名、押印することで、秘密証書遺言が完成します。
これらの条件の一つでも満たさなかった場合は、秘密証書遺言としては無効になります。
ただし、自筆証書遺言としての要件を全て満たしていた場合は、有効な自筆証書遺言として扱われます。
なお、加除訂正を行う場合は、加除訂正のあった場所の指示と変更した旨を付記してこの部分に署名し、実際に変更した部分には押印をする必要があります。
公正証書遺言
公正証書で作成する場合に求められるのは次の要件です。
  • 証人二人以上の立会いのもとに公証人に内容を口授し、公証人がそれを筆記すること
    口授は、遺言者自身が口頭で、かつ直接公証人に伝えるのが原則ですが、判例で認められている例外もいくつかあります。
    例えば、あらかじめ内容を記した書面を公証人に交付し、公正証書の筆記を作成してから面接して、遺言者が内容は先に交付した書面の通りであると陳述した場合は、口授があったものとみなされます。
    口の聞けない人がする場合、手話通訳や筆記による申述も可能です。
  • 公証人が筆記したものを遺言者と証人に読み聞かせる、または閲覧させること
    遺言者と証人は、筆記内容が正確であるかどうかを判断し、正しければ承認します。この承認がなければ無効です。
    耳が聞こえない人に対してする場合、手話通訳によって代えることが可能です。
  • 遺言者と証人、公証人が署名押印すること
    遺言者と証人は、承認後、証書に署名押印します。
    遺言者が署名できない場合は、公証人がその事由を付記して署名に代えることができます。
    公証人は、正規の手続きを経て作成された旨を付記して、署名押印します。口の聞けない人や耳の聞こえない人の遺言で、先に示した手話通訳、筆記によって代えた手続きがある場合は、その旨も記載します。
以上の手続きによって、有効な公正証書遺言が完成します。
なお、作成中に遺言者が亡くなった場合でも、遺言者による筆記の承認、署名押印が完了していれば、証人と公証人が残りの手続きを完了させることで、有効な公正証書遺言として完成します。
一般危急時遺言
一般危急時遺言の方式で作成する場合に求められているのは次の要件です。
病気などで死の危機に瀕している人でないとこの方式では作成できません。
  • 証人三人以上が立会うこと
    三人以上の証人が立ち会った上で作成しないといけません。
  • 遺言者が証人の一人に内容を口授し、受けた証人がそれを筆記すること
    証人の一人が、口授した内容を筆記します。口の聞けない人がする場合、手話通訳による申述も可能です。
  • 筆記した証人が、筆記した証書を遺言者と証人に読み聞かせること
    聞かされた証人は、筆記内容が正確であるかどうかを判断し、正しければ承認します。この承認がなければ無効です。
    耳が聞こえない人に対してする場合、手話通訳によって代えることが可能です。
  • 各証人が署名押印すること
    各証人は、承認後、証書に署名押印します。
  • 家庭裁判所に確認の請求をすること
    遺言の日から20日以内に、証人の一人または利害関係人から、家庭裁判所に遺言の確認を請求しないと効力を生じません。
以上の要件を満たすことによって、有効な一般危急時遺言が完成します。
難船危急時遺言
難船危急時遺言の方式で作成する場合に求められているのは次の要件です。
遭難した船舶上で死の危機に瀕している人でないとこの方式での遺言はできません。
  • 証人二人以上が立会うこと
    二人以上の証人が立ち会った上で作成しないといけません。
  • 遺言者が証人の一人に内容を口授し、受けた証人がそれを筆記すること
    証人の一人が口授した内容を筆記します。口の聞けない人がする場合、通訳による申述も可能です。
  • 各証人が署名押印すること
    証人は、筆記した証書に署名押印します。
  • 家庭裁判所に確認の請求をすること
    家庭裁判所に遺言の確認を請求できるようになったら、遅滞なく確認の請求をしないと効力を生じません。
    一般危急時遺言のように明確な期限はありません。
以上の要件を満たすことによって、有効な難船危急時遺言が完成します。
一般隔絶地遺言 一般隔絶地遺言の方式で作成する場合に求められているのは次の要件です。
伝染病のため、行政処分で交通の断たれた場所にいる人が作成できます。
  • 警察官一人と証人一人以上が立ち会うこと
    警察官一人と証人一人以上が立ち会った上で作成しないといけません。
  • 遺言者が作成すること
    遺言者自身が証書を作成しなければなりません。
  • 遺言者、証人、立会人(警察官)が、署名押印すること
    遺言者、筆記者、証人、立会人(警察官)が、証書に署名押印しなければなりません。
以上の要件を満たすことによって、有効な一般隔絶地遺言が完成します。
船舶隔絶地遺言 船舶隔絶地遺言に求められているのは次の要件です。
船舶中にいる人が作成できます。
  • 船長または事務員一人と証人二人以上が立ち会うこと
    船長または事務員一人と証人二人以上が立ち会った上で作成しないといけません。
  • 遺言者が作成すること
    遺言者自身が作成しなければなりません。
  • 遺言者、筆記者、証人、立会人(船長または事務員)が、署名押印すること
    遺言者、筆記者、証人、立会人(船長または事務員)が、遺言書に署名押印しなければなりません。
以上の要件を満たすことによって、有効な船舶隔絶地遺言が完成します。