Kitaooji's Letter #4

北大路書房からの返答状(その2)

  
●小社の2通めの返答書●書留内容証明郵便●11月28日

                                    1997年11月28日

599 堺市大美野127−18
黒人差別をなくす会会長
有田 喜美子 様

                                603 京都市北区紫野十二坊町12−8
                                    株式会社 北大路書房
                                    代表取締役社長 丸山 一夫

拝復

 貴会におかれましては,ますますご清祥のことと拝察申し上げます。

貴会からの今回のお手紙「平成9年11月22日付第176−38−54124−4号書留内容証明郵便物」(貴会の3通めのお手紙)ですが,11月25日に確かに受け取りました。その今回のお手紙について,小社からの返答を申し上げたく存じます。

 さて,すでに「小社の1通めの返答書」として「1997年11月17日付第41713号書留内容証明郵便物」をお送りいたしておりますが,貴会のお手もとにご保存のことと存じます。小社のその返答書では,「貴会の1通めのお手紙(11月2日付)・・・小社に対しての6項目の質問」と「貴会の2通めのお手紙(11月10日付)・・・小社に対する絵本改善の提言の意思表示など」の内容について「小社からのお答え1〜7」としてそれぞれご返事申し上げ,さらに「小社としての問題提起と貴会への質問」を投げかけさせていただいているはずのものでした。貴会はそれらの内容に直接には触れられずに,今回のお手紙(貴会の3通めのお手紙)を小社に届けてこられました。率直に申しまして今回のお手紙につきましては,貴会の真意をどのように理解させていただいたらよいものか,小社といたしましてもたいへん当惑いたしました。

 しかしながら,この「貴会の3通めのお手紙」(11月22日付)につきましても,「小社の1通めの返答書」(11月17日付)について十分読まれた上でのあらためての「改善提言書」であるとひとまずは理解することとし,貴会が書いておられる内容について,再度「小社としての考え」を誠意をもってお示ししていこうと考えました。今回につきましても対照いただきやすいよう貴会のお手紙そのものを再掲し,文意の区切りごとに「小社としての考え」をはさみこんだ形式といたしますので,ご了解ください。なお,小社でワープロ打ちしておりますので,万一間違い・誤植等ございましたら,ご指摘くださいますと幸いです。

 では,1文意ずつ「小社としての考え」を示してまいります。

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(貴会の3通めのお手紙)−1

拝復

 貴職(社)一九九七年一一月一七日第四一七一三号書留内容証明郵便物を拝誦致しました。これにつき申し述べます。

 貴社が製造販売している商品「チビクロさんぽ」は、その内表紙の表示のとおり内実は「The Story of Little Black Sambo By HELENBANNERMAN」そのものであり、「かいさく」を理由に外観の一部を変更したにすぎません。

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(小社としての考え1) ここで「内実は「The Story of Little Black Sambo By HELEN BANNERMAN」そのものであり」と貴会が断じておられるところが小社として理解できないでいます。このことは「小社の1通めの返答書」でも再三にわたり申し述べておりました通りです。たとえば,「小社の1通めの返答書」の「小社からのお答え4」の中で述べております意味で『チビクロさんぽ』は「The Story of Little Black Sambo By HELEN BANNERMAN」の一部言い換え書き換え本なのであり,「The Story of Little Black Sambo By HELEN BANNERMAN」そのものではありません。貴会が「そのもの」として断じられるときの「内実」が指している内容を明らかにしていただかなければなりません。小社としては,原作および日本での今までの類書の問題点の内容をすでに明らかにしておりますが,その問題点を修正しないことには「差別的内容」が残ってしまうことになるので,その修正をきちんとやり遂げるために翻訳と同時に「かいさく」をしているわけです。貴会が「「かいさく」を理由に外観の一部を変更したにすぎません」と述べられているところはまったく的を射ていないご指摘になると考えます。

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(貴会の3通めのお手紙)−2

 貴社商品「チビクロさんぽ」は、貴社が「黒人に対する差別的図書であったと判断」している「The Story of Little Black Sambo」と実質は同一であり何ら変わるものではありません。

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(小社としての考え2) 貴会は,「TheStory of Little Black Sambo」と「チビクロさんぽ」の実質は同一なので,「差別的図書」だと断じることをここでも繰り返しておられます。ここでの貴会のご主張をていねいに言い直せば,「北大路書房は原作を差別的図書だと判断している。そして,そのように判断しているはずの『原作』の「実質」をそのままに翻訳・改作した絵本が『チビクロさんぽ』である。その『チビクロさんぽ』は当然「実質」上,『原作』と同一であり,何ら変わらないものである」ということになります。この論理であくまでもご主張なさるのなら,原作のもっている「実質」(差別性,問題点などを含んだもの)が具体的に「何」であるかを貴会として明らかに示された上で,その「実質」(差別性,問題点などを含んだもの)と同じものが『チビクロさんぽ』にもあり,原作の「実質」と何ら変わらない・・・,だから,『チビクロさんぽ』も原作と同様に「差別的図書」である・・・というように言われるのが適切だと考えます。貴会の全3通のお手紙全文のご主張では,その「実質」が「何」であるかに言及されていません。

 ところで,「貴会の1・2通めのお手紙」ではともに同じ文意で,原作と『チビクロさんぽ』の「内実」は同じだと述べておられます。このお手紙で初めておつかいになられた「実質」ということばですが,意味するところは「内実」と同じ意味で受けとれますが,それでよろしいでしょうか。それともそれぞれの絵本の中にある問題点だけを指すつもりではなく,その絵本が社会や人々の意識に与える影響などの問題点も考慮されて「実質」ということばに言い換えておられるのでしょうか。このあたりのことももう少し的確にご説明いただけると,小社としても貴会の意をより理解しやすくなると考えます。

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(貴会の3通めのお手紙)−3

 「The Story of Little Black Sambo」の主人公Samboと両親を「黒」犬に変え、書名の和訳(ほんやく)にあたってSamboの「ボ」の字を「ぽ」に変えて問題なしとする貴職(社)の営業には驚きを禁じ得ません。

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(小社としての考え3)「小社としては原作および日本での今までの類書の「何が問題点か」を明らかにした上で,その問題点を修正する具体的な手段として「登場人物を黒犬とし,サンボということばを使用せずに,もともと原作の主人公がジャングルを散歩する話なので「さんぽ(散歩)」ということばをあてている」わけです。これらのことの適切さなどについて,小社としても当然十分検討吟味を加えております。このことに対し,貴会が「驚き」をもたれるのはご自由ですし,貴会とは別の方々であれ,「不自然さ」「違和感」「奇異な感じ」「こじつけ」などなど,感じられる場合もあるかもしれません。しかし,その感覚が生じる理由として,この修正のどこが問題なのか(不備であるのか)を具体的に述べていただかないことには,意の通じるご指摘とはならないと考えます。

 さて,ここまで「小社としての考え1〜3」を書き連ねてきましたところで特に感じますのは,次のようなことです。

 貴会からのご指摘が「小社の1通めの返答書」の「小社としての提案と貴会への質問」の中で述べた例を満たすような具体的な問題点を示されてのものであれば,小社としても貴会のご意見をきちんと理解できるはずであるし,十分な議論をさせていただいた上で,誤りは誤りとして認めなくてはならない場合もあり得ると考えているしだいです。小社といたしましては,今後もこのような姿勢にかわりはありませんので,次回のお手紙ではぜひ「小社の1通めの返答書」にもどられて,そこから議論を出していただきたいと希望するものです。

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(貴会の3通めのお手紙)−4

 ここに改めて貴社(職)の誠意ある改善をお示し下さいますよう衷心よりお願い申し上げます。ご回答は貴職名により書面をもってお示し下さいますようお願い申し上げます。

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(小社としての考え4) 「貴社(職)の誠意ある改善をお示し下さい」とありますが,貴会からの今回のお手紙を含め,全3通のお手紙全文のどこにも貴会からの「具体的な改善すべき内容のご指摘」は見あたりませんでした。たとえば,「登場人物の黒犬への置き換え修正は具体的に△△の問題点がある,・・・など,この点について改善せよ」とあれば,小社としても,△△の問題点について十分な検討を行ない,もし△△について問題であると判断すれば,自らの不明を自己反省しつつ,小社の責任としてその「改善」内容について,ご指摘いただいた貴会にお示ししなければならない・・・と考えております。小社は,小社の考えを「絶対」であるとはまったく考えておりません(当然のことなのですが)。「小社としての考え3」の後段部分でも述べております通り,あくまでどなたのご意見にも耳を傾けていく姿勢は失わずにもち続けていくつもりです。

 しかしながら,貴会からの具体的なご指摘は現在のところ見つかりません。小社といたしまして「改善すべき内容」は現在のところ「特にありません」とお答えするしかないのです。それは現在のところ見あたらないだけで,貴会が4通めのお手紙をくださり,その中に小社として検討しなければならないご指摘が含まれている可能性はあると考えられます。このような意味で,絵本『チビクロさんぽ』について,改善すべき内容は「現在のところ」特にありません。

 貴会の絵本改善のご主張には具体的内容が伴っておらず,実際問題として話し合いでものごとを解決していくためには,(これも現在のところ)無理のあるご主張のされ方になってしまっていると考えます。

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(貴会の3通めのお手紙)−5

 なお、本書は、当該商品を営利とする貴社(職)に改善を提言するものであり、かかる貴社の営業を利する貴社の出版物・商品その他への利用及び使用はお断わり申し上げます。

                                           敬具

一九九七年一一月二二日

五九九 堺市大美野一二七−一八
黒人差別をなくす会
会長 有田 喜美子

六〇三 京都市北区紫野十二坊町一二−八
    株式会社 北大路書房
    代表取締役社長 丸山 一夫 様

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(小社としての考え5) 「公開」の意義につきましては,「小社の1通めの返答書」の後段部分「小社としての問題提起と貴会へのご質問」の文中で述べております通りです。その中の一部を引用して再言いたしますと,私たち(貴会と小社)の議論を「公開」していくことによって,多くの方々が貴会と小社の考えや主張を知っていただくことになり,この絵本について,黒人差別について,差別問題全般についての理解・考え方を豊かにしていっていただけるのだと考えているのです。この意味で私たち(貴会と小社)のやりとりの「公開」はたいへん重要なことだと考えています,ということです。

 さらに,「小社の1通めの返答書」からのほぼ再言となりますが,「公開」そのものは黒人差別をなくす活動をされている貴会におかれましても意義あることと拝察いたしますし,貴会が言われる「貴社の営業を利する貴社の出版物・商品その他への利用及び使用」を目的とした公開は考えておりません。小社としては貴会との間でのお手紙すべてを「公開」するつもりでおります。が,けっして自社の営業に利する「公開」をするつもりはありません。小社の言っております「公開」について,ご理解とご了解を重ねてお願いするしだいです。

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 一通り,今回の「貴会の3通めのお手紙」に沿った形で「小社としての考え」を述べてまいりました。しかし,内容的にそのほとんどはすでに「小社の1通めのお手紙」で述べていることの再言になってしまっていることを承知いたしております。

 11月2日以降,このお手紙(小社の2通めの返答書)も含め,貴会と小社の間でのお手紙のやりとりを振り返ってみますと,全部で7通になります。

・11月 2日付−−貴会の1通めのお手紙
・11月 5日付−−小社の受け取り通知状
・11月10日付−−貴会の2通めのお手紙
・11月13日付−−小社の受け取り通知状
・11月17日付−−小社の1通めの返答書
・11月22日付−−貴会の3通めのお手紙
・11月28日付−−小社の2通めの返答書

 あらためて「貴会の3通めのお手紙」と今まで書いてきた「小社の2通めの返答書」を見ておりますと,特にこの2通でお互いが述べ合っている内容は,それぞれすでに発した内容とほとんど同じことを繰り返している感がいたします。「小社の1通めの返答書」に対し,貴会はその内容に直接触れられずに,「貴会の1・2通め」と同じ内容を「貴会の3通め」で示され,そのお手紙に対し小社の方も「1通めの返答書」と同じ内容を「2通めの返答書」として示しているということになりそうです。しかしながら,この「繰り返し」はけっして小社の方から先に始めたわけではありません。この始まりは「貴会の3通めのお手紙」にあることをどうかご承知おきください。

 貴会におかれましては,まず,小社のお送りした「11月17日付−−小社の1通めの返答書」の内容にさかのぼられ,その手紙の内容(返答など)について貴会の小社に対する具体的なご指摘・ご批判をお示しくださることが筋であると考えます。その手紙の中では,小社から貴会への質問も設定しております。それらについて直接,貴会から批判いただいたり,質問にお答えいただいたりすることがなければ,今後は小社といたしましても同じ内容を繰り返し述べることしかできなくなることもあり得ると思われます。

 小社が,絵本の巻末のあとがき「絵本『チビクロさんぽ』の出版について−−北大路書房」にて,「もし『チビクロさんぽ』に差別的内容が残っていたとしたら,それはまぎれもなく小社の責任として,真摯に対応をしていきたいと考えています」と述べておりますのは,けっして何かの粉飾や装飾のためではなく,自らの出版にあくまでも責任を貫かねばならないという決意を示し,そこで自らの立場を戒めるためでもあります。同じ内容を繰り返し述べているだけでなく,いまこそ,「小社の責任」として「真摯な対応」が必要となるのかどうかを,自ら確かめなければならないと考えております。小社といたしましては,ここで,あくまでも「貴会が真に意とされるところを理解するように努めるべきである」という一念で,議論の提案もさせていただいているわけです。

 以上のような思いでおりますので,どうか貴会におかれましては,この小社の意をお汲み取りくださり,誠意をもってご返答くださいますよう心よりお願い申し上げます。

 期日は,「小社の1通めの返答書」(11月17日付)ですでにお願いしております通り,12月8日です。よろしくお願い申し上げます。

以上をもちまして,小社の2通めの返答とさせていただきます。

                                                  敬具


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