Kitaooji's Letter #3

北大路書房からの返答状(その1)

  
●小社の1通めの返答書●書留内容証明郵便●11月17日

                                    1997年11月17日

599 堺市大美野127−18
    黒人差別をなくす会会長
    有田 喜美子 様

                                 603 京都市北区紫野十二坊町12−8
                                    株式会社 北大路書房
                                    代表取締役社長 丸山 一夫

謹啓

 貴会におかれましては,ますますご清祥のことと拝察申し上げます。

さて,貴会よりご郵送の「平成9年11月2日付第176−38−51781−6号書留内容証明郵便物」(1通めのお手紙),および「平成9年11月10日付第176−38−51906−5号書留内容証明郵便物」(2通めのお手紙)ですが,それぞれ11月4日,11月11日にお受け取りし,それぞれ11月5日,11月13日にその受け取りのお知らせなど,すでにさせていただいております。

 返答に際しましては,貴会のご質問の趣旨など歪めて解釈することのないよう十分に吟味し検討させていただくよう努めました。その内容について,公式に返答申し上げます。

 小社からの返答の形式ですが,対照いただきやすいように貴会のお手紙そのものを再掲し,ご質問ごとに「小社からのお答え」をはさみこんだものといたしましたので,ご了解ください。なお,小社でワープロ打ちしておりますので,万一間違い・誤植等ございましたら,ご指摘くださいますと幸いです。

 ではまず,1項目ずつお答えしてまいります。

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(貴会の1通めのお手紙)−1

謹啓 貴社益々ご隆盛のこととお喜び申し上げます。

 さて、貴社は先に、原作「ちびくろ・さんぼ」は「黒人に対する差別的図書であった」と判断しながら、「やめてほしい」との多くの黒人及びその他の人々の願いと訴えに反して、絵本「ちびくろ・さんぼ」の類似本「チビクロさんぽ」を出版されました。小会はここに小会を支持し連帯する国内外の黒人の人々、団体及びその支持者を代表して以下につきお伺い致します。

                  記

一、貴社は、当該絵本のあとがき「絵本『チビクロさんぽ』の出版について」において、「本書出版の最大の意図は、現在絶版となっている絵本を、その問題点を修正しながら、具体的に一冊よみがえらせること」と述べておられますが、貴社が実際に出版した絵本では、主人公を黒犬に置き換え、主人公とその両親の名前及び書名の一部を変更しただけで、これまでに日本で出版された数十冊の絵本「ちびくろサンボ」の類書に変わるところがありません。貴社はこれで問題点は修正したとお考えでありましょうか、お伺い致します。

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(小社からのお答え1) 絵本『チビクロさんぽ』で「主人公を黒犬に置き換え、主人公とその両親の名前及び書名の一部を変更した」ことこそが,原作および日本での今までの類書との大きな違いであり,問題点の修正であると考えております。

 小社は「原作および日本での今までの類書の問題点」としてすでに指摘されてきていることを,以下のように認識しています。

   @「サンボおよびジャンボ・マンボ」などの黒人蔑称のことば
   Aイラストに使用されていたステレオタイプ的な黒人像
   B黒人を野蛮人として描いているかのようなストーリー

 上記のうち@につきましては,明確に問題であると判断しており,その論拠は小社の絵本の別刷論文に記されている通りです。Aについては問題である可能性がきわめて高い,Bについては,問題である可能性がある(ただし,ABについては,誰もが共通に合意できる評価判断基準の設定が性質上たいへんむずかしい問題だと考えますので,これらについての誰もが合意できる考え方の議論が今後も重要だと考えます)・・・と認識しているわけです。改作者のアイディア(「主人公を黒犬に置き換え、主人公とその両親の名前及び書名の一部を変更した」)は,上記の問題点のうち@の問題はそのことばを使用しないこと,ABの問題については主人公を黒犬に置き換えることで,問題とすべき事項ではなくなるという修正案であり,小社はそれを支持しているということです。

以上の考え方で,『チビクロさんぽ』は原作および日本での今までの類書の「問題点」を修正した1つの形であると考えております。ここで「1つの形」としているのは,「さまざまな修正の形」があり得るという意味です。

 このご質問以下でも,貴会は絵本『チビクロさんぽ』は,原作および日本での今までの類書と変わりがない内容であるとあらかじめ断じられた上で(言い換えれば,原作および日本での今までの類書と『チビクロさんぽ』は,同様の差別内容を含んだ本であるという前提のもとに),いろいろな側面からのご質問を重ねておられます。小社といたしましては,貴会のこのようなご判断(前提)が,どのように成り立つのか即座に理解が及びません。このご判断(前提)の論拠を詳しくお示しいただかないままに小社に返答を求められている形となっており,小社の返答が貴会にとっての有意義で的確な返答となりきらないのでは,という懸念もわき,残念に思っております。

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(貴会の1通めのお手紙)−2

二、貴社絵本は、表題を「原作との連続性を確保する」との理由をつけて語呂合わせのように「チビクロさんぽ」と改題しておられますが、その表紙に「げんさく へれん・ばなまん」と表示し、内表紙には「The Story of Little Black Sambo By HELEN BANNERMAN」と貴社自ら印刷しているとおり、当該絵本は「ちびくろサンボ(さんぼ)」に他なりません。貴社は、いままた何故このような「ちびくろサンボ」の粉飾本を出版したものか、お伺い致します。

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(小社からのお答え2) 内表紙に印刷しております「英語の原題と作者名」は,この絵本が基本的には原書の翻訳という形を取っており,翻訳出版上必要な表示にあたります。いかなる著書もその著作権は守られなければなりません。この絵本では翻訳に関する契約のみならず,その権利者と翻案(=主人公を黒犬に置き換えるという改作)に関する契約を結んでおり,その表記を内表紙に記しているわけです。

 ご質問の末尾で,貴会がこの絵本を「ちびくろサンボ」の「粉飾本」と判断されておられることがわかりますが,小社としましては『チビクロさんぽ』を「粉飾本」(=差別的内容を含みながらそれを隠し,見かけだけを飾った本・・・というような意味でしょうか?)として出版したつもりはありません。上記の「小社からのお答え1」ですでにお答えしました通り,「The Story ofLittle Black Sambo By HELEN BANNERMAN」について,翻訳(改作)する形で,日本での今までの「ちびくろサンボ」の類書の問題点を修正した内容の『チビクロさんぽ』として出版しました。

 なお,改作者は前作の絶版問題直後(1991年)から,「修正」を加えたものを出版しようとする意図をもっていたと聞いております。小社が改作者の意図を知りましたのは,1995年の秋のことでした。出版が「いま」になりましたのは,いろいろな事情で遅くなっただけにすぎません。

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(貴会の1通めのお手紙)−3

三、貴社は、現在絶版となっている絵本をよみがえらせるのは、「作品として楽しくおもしろいからです」とお書きですが、誰にとって楽しくおもしろいのでしょうか。絵本「ちびくろサンボ」を擬装した貴社「チビクロさんぽ」は、誰を楽しませるのでしょうか、お伺い致します。

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(小社からのお答え3) 中心として想定しています読者は,当然のことながら日本全国の子どもたち(特に幼児)です。もちろん,子どもたちに本を買ってあげたり読み聞かせてあげるのは大人たちの場合が多いので同時にそのような方々を想定しています。

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(貴会の1通めのお手紙)−4

四、貴社は、「もし『チビクロさんぽ』に差別的内容が残っていたとしたら、それはまぎれもなく小社の責任として、真摯に対応していきたい」と書いておられますが、「残っていたとしたら」とはどういうことでしょうか。貴社絵本はどう見ても、貴社が本文に表示する「The Story of Little Black Sambo By HELEN BANNERMAN」の一部言い替え描き換え本であり、日本で出版された「ちびくろサンボ」の類書に新たな一冊と問題をつけ加えたにすぎないことをご指摘申し上げなければなりません。貴社の「問題点を修正」とは、この程度のものであったのでしょうかお伺い致します。

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(小社からのお答え4) 「もし『チビクロさんぽ』に差別的内容が残っていたとしたら」と書いておりますのは,小社として「差別的表現」とは何かについてのことばの問題を中心とした基準を考えてはいるものの,その考え方に重大な欠点があり,その欠点によって「原作および日本での今までの類書」の問題点を正しく把握できず,修正をきちんとできていないと再認識することがあった場合にということです。出版後にそのようなご意見・ご指摘などを受け,小社の考えがたりなかったり,間違っていたと判断した場合には「それはまぎれもなく小社の責任として、真摯に対応していきたい」と考えております。

 貴会が小社に対し「絵本はどう見ても、貴社が本文に表示する「The Story of Little Black Sambo By HELEN BANNERMAN」の一部言い替え描き換え本であり」と書かれているところは,その通り「翻訳(改作)」をしておりますので,小社もそのように認識しております。しかし,それに続けて「日本で出版された「ちびくろサンボ」の類書に新たな一冊と問題をつけ加えたにすぎない」とご指摘され断じておられるところは,どうもよく理解ができません。そこで,ここでも上記の「小社からのお答え1」でお答えした内容に基づき,小社として現在考えている「問題」について,「(その)問題点の修正」を行ない,出版したというお答えを再言するしかありません。

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(貴会の1通めのお手紙)−5

五、貴社絵本は、主人公名に岩波版以来のチビクロを用い、書名にはわざわざ原題「ちびくろサンボ」を即連想させる「さんぽ」を加え、主人公とその両親を黒人の黒と置き換えた黒犬とし、その名もチビクロ、ママクロ、パパクロとしています。さらにその表紙は最も普及した岩波版の赤を使用するなど、貴社絵本は旧来の絵本「ちびくろサンボ」の類書をそのまま継承するものとなっています。内実は「Little Black Sambo」そのものに「黒犬」のぬいぐるみを着せ世に送り出した貴社の真意をお伺い致します。

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(小社からのお答え5) ご質問の趣旨を「絵本は旧来の絵本ちびくろサンボの類書をそのまま継承する内容となっており,日本での旧来の絵本の主人公を黒犬に置き換えただけで,問題はそのまま残る本を出していることになる。なぜあえてそのようなことをするのか,その真意をたずねたい」・・・のように受け取りました。いま要約いたしました小社の方での「受け取り」が不適切であれば,ご指摘ください。

貴会は,@主人公名として「チビクロ」を残したこと,A「ちびくろサンボ」を即連想させる「チビクロさんぽ」を書名としたこと,B登場人物の黒人を黒犬に置き換えたこと,C表紙には最も普及していた出版社の類書の表紙色を使用していること,の4点などによって,すでに存在していた「類書をそのまま継承する」本になっていると断じておられるようです。上記の「小社からのお答え4」の中でも述べましたが,このご判断がどうもよく理解できません。つまり,貴会におかれまして,以上の4点などの内容を含めば,「類書をそのまま継承」し問題はそのまま残した本であると判断される論理が,小社として理解できないということです。

 小社は,この絵本でもって「黒人差別をさらに助長しよう」などといった意図をまったくもっておりません。原作および日本での今までの類書の「何が」問題であったのかについての小社の考えを明らかに示した上で,そのことについて,多くの人たちが具体的な問題点について知り,考えていただくことを願っております。小社といたしましても,問題点を具体的にどのように「改善」できるか(いろいろな形が考えられることでしょうが),そのやり方の1つを提案させていただいたということで,「真意」は絵本の巻末のあとがき「絵本『ちびくろさんぽ』の出版について−−北大路書房」にて述べている2つの意図(@作品として楽しくおもしろいので,問題点を修正し,絶版となっている本をよみがえらせる,Aある図書の差別的であるなしに疑いがもたれたとき,議論のあり方など,出版社としての選択判断の道のあり方を提案する)ということで相違ありません。

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(貴会の1通めのお手紙)−6

六、貴社は当該図書を出版するに際して、絵本「ちびくろサンボ」の類書が日本人の多くにいかなる影響を与え今日に至っているかを具体的によく確認し把握されたものか、お伺い致します。この数年、再び黒人差別商品が市中に出回るようになってきました。今年には絵本「ちびくろサンボ」商品も出現してきましたが、それらを製造販売しているのは、かつて子どもの頃にこのような絵本等にふれて育った大人たちです。いままた貴社が、同様の商品を送り出すに際して、その影響がどのようなものであるかをどれ程確認されたものか、お伺い致します。

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(小社からのお答え6) 絵本「ちびくろサンボ」の類書が日本人の多くにいかなる影響を与え今日に至っているかについては,小社として自ら「具体的によく確認し把握」できておりません。実際にこのことを徹底して行ない,因果関係を検証することは誰(貴会も含みます)にとってもたいへん困難なことと思われます。

 『チビクロさんぽ』の影響については,改作者および小社の周辺での関係者や何人かの児童文学者へのヒアリングをするにとどまりました。特にこの絵本そのものが差別問題に関して根本的な問題点をもっているとの指摘は受けませんでした。

 小社として,貴会にご一考いだきたいことは,図書にしてもグッズにしても「何を」問題とすべきなのだろうか,ということです。「何」が問題であるのかを大人たちも子どもたちも考え,知り,それをあらためていくことこそが必要なのではないでしょうか。たとえば,絵本の内容の場合,問題が「サンボ」などということばなのか,黒人の特徴をデフォルメ誇張した絵なのか,黒人を特定してさげすむストーリーなのか,あるいは黒人を扱った商品そのものなのか。「何」が差別なのか・・・。小社はたんにこの絵本の「おもしろさや楽しさ」をよみがえらせる意図だけでなく,このような問題についての認識を深め,議論を深められる素材としての商品(出版物)を意識して出版いたしました。『チビクロさんぽ』は,貴会が定義されるような「黒人差別商品」と同様の商品(出版物)に該当していないものと確信いたしております。

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(貴会の1通めのお手紙)−7

以上につき、貴職(社)の誠意あるところを貴職名により書面をもって一九九七年一一月二二日迄に一日も早くご回答下さいますよう衷心よりお願い申し上げます。

                                                       敬具

一九九七年一一月二日

五九九 堺市大美野一二七−一八
黒人差別をなくす会
会長 有田 喜美子

六○三 京都市北区千本通北大路下る
株式会社 北大路書房
代表取締役社長
小森 公明 様

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(貴会の2通めのお手紙)−全文

復啓

 貴職(社)一九九七年一一月五日付書状拝誦致しました。これにつき、以下、申し添えます。

 貴社が製造販売した「チビクロさんぽ」は貴社及び改作者の文章添付にもかかわらず、その内実は「The Story of Little Black Sambo ByHELEN BANNERMAN」そのものであり、これまでに日本で出版された類書に一冊を加えたにすぎません。ご回答にあたっては、貴社(職)の誠意ある改善をあわせてお示し下さいますよう衷心よりお願い申し上げます。

なお、本書(前便を含む)は、当該商品を営利とする貴社(職)に改善を提言するものであり、かかる貴社の営業を利する貴社の出版物・商品その他への利用及び使用はお断わり申し上げます。

                                                          敬具

一九九七年一一月一〇日

五九九 堺市大美野一二七−一八
黒人差別をなくす会
会長 有田 喜美子

六○三 京都市北区紫野十二坊町一二−八
株式会社 北大路書房
代表取締役社長 丸山 一夫 様

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(小社からのお答え7) このお手紙の中で「ご回答にあたっては、貴社(職)の誠意ある改善をあわせてお示し下さい」とありますが,小社といたしまして,「改善すべき内容」は,特にないと判断いたしております。また,貴会からの2通のお手紙全文について検討いたしましたが,貴会から「具体的な改善すべき内容のご指摘」は示していただいていないと理解しております。

 なお,「公開」の意義につきましては,このお手紙の後段部分「小社としての問題提起と貴会への質問」の文中で述べるつもりでおります。「公開」そのものは,黒人差別をなくす活動をされている貴会におかれましても意義あることと拝察いたしますし,貴会が言われる「貴社の営業を利する貴社の出版物・商品その他への利用及び使用」を目的とした「公開」は考えておりません。小社の言っております「公開」についてのご理解とご了解を重ねてお願いするしだいです。

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以上,貴会からの2通のお手紙について,小社としてのお答えをしてまいりました。しかしながらこの絵本についての貴会のお考えと小社の考えの間には基本的な違いが大きくあるように思われ,一通り回答させていただいたものの,その返答の内容が貴会にとりまして十分納得の得られるものになっていないのではという危惧の念をもっております。この基本的な違いとはどこから生じているものなのだろうか・・・について,小社なりに考えてみました。

 「黒人差別は現に存在している。それらの差別には反対であるし,その差別を助長するようなことにも反対である」といった立場・考え方は,貴会と小社のみならず,万人に合意でき,共通認識のもてるものであるはずです。そして,原作および日本での今までの類書についても「差別的である」という結論としての判断は,貴会と小社は同じであるはずです。ところが,『チビクロさんぽ』という1冊の絵本をめぐっては,両者の考えは正反対となっているのです。しかし,考えの対立をたんに対立のままにするのではなく,その両者それぞれが努力し相手の考えをまず理解し合うというところから,実りある議論が始められるのだと思います。そして,かみ合った議論の中でこそ,今後も差別や差別表現の問題をよく知り,よく考え続けていけることに結びついていくと考えるわけです。そのためにはまず,両者の考えの違いを明確にしておくことが必要であると考えます。そこで小社として,今後の議論についての具体的な提案と,それに基づいた貴会への質問を示したいと思います。

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(小社としての問題提起と貴会への質問)

 小社としては,貴会の核とされているご主張について,いただいたお手紙2通全体から読みとるべく努力いたしました。そして,おそらく次のような内容であろうと理解しました。

   『チビクロさんぽ』は「『ちびくろサンボ』の原作および日本での今までの類書」の内容をそのまま継承するものとなっており,当然差別的内容をも継承していることになり,問題を含んでいる絵本である。したがって,『チビクロさんぽ』には改善が必要である。

 小社は,貴会のこのご主張(提言)の論拠を理解できないままでいます。このようになぜ主張(提言)できるのか,貴会の論理がわからない・・・,ということでいろいろ検討してみました。おそらく,貴会のご主張(提言)の論理は次の内容だと考えました。

   @「原作および日本での今までの類書」には,○○の問題点がある。
   A『チビクロさんぽ』には,○○の問題点がある。
   B『チビクロさんぽ』と「原作および日本での今までの類書」は,共通に○○の問題点がある。
   C○○の問題点のある「原作および日本での今までの類書」は,絶版処置も含め,「改善」がすでになされている。
   D○○の問題点のある『チビクロさんぽ』は,○○について「改善」が必要である。
    (まだ改善がなされていないので,改善するよう提言する)

 貴会のご主張(提言)の論理をこのように考えてみますと,小社といたしましてもよく理解できるはずではないか,と考えました。実際,よく理解できそうです。つまり,@〜Dそれぞれの文中の○○に共通にあてはまる「問題点」が,「何」であるのかが,はっきりすればよいだけです。それが「何」にあたるのかを,小社として考えてみました。結果は,@については,これだろうという答えが出せました。再掲となりますが,次の通りです。

   *「サンボおよびジャンボ・マンボ」などの黒人蔑称のことば
   *イラストに使用されていたステレオタイプ的な黒人像
   *黒人を野蛮人として描いているかのようなストーリー

しかし,上の*印の3点はABCDには,それぞれあてはまるのでしょうか。1つずつ確かめてみます。

 Aでは,小社は*印の3点の問題が含まれないように『チビクロさんぽ』をつくったので,あてはまりません。

 Bでは,主語部分に『チビクロさんぽ』を含むので,*印3点は,あてはまりません。

 Cでは,*印3点があてはまりそうです。

 DもAと同じで,*印の3点の問題が含まれないように『チビクロさんぽ』をつくったので,あてはまりません。

 Cのあてはめの際に,小社として考えましたことですが,現在でも「ちびくろサンボはおもしろいお話だし,なぜ絶版になったのかその理由がわからない」といった率直な思いを表明される方に少なからず出会います。日本での今までの類書は,このような素朴な疑問にはっきりした答えを示さないままに,絶版になった経緯があるからではないかと考えます。しかし,こういった「問題点」の議論とその理解こそ,万人に開かれていることがとても大切だと思うのです。たとえば,@〜Dに共通した○○が「何」であるかが明確となり,それを多くの方が理解・支持されれば,誰(小社も含めてですが)も『チビクロさんぽ』を売ろうとも読もうともしなくなることもあり得ますし,貴会のご主張(提言)も実現することになるかもしれません。いずれにしても小社は,私たち(貴会と小社)の議論を「公開」していくことによって,多くの方々が貴会と小社の考えや主張を知っていただくことになり,この絵本について,黒人差別について,差別問題全般についての理解・考え方を豊かにしていっていただけるのだと考えているのです。この意味で私たち(貴会と小社)のやりとりの「公開」はたいへん重要なことだと考えています。

 さて,貴会にぜひお示しいただきたいのは,上の@〜Dの文中の○○に共通にあてはまる「問題点」です。どうかお答えをお願い申し上げます。

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 貴会におかれましては「議論だけをしていてもだめなのだ。現に問題のあるもの(該当する書籍などその商品)をそのままで存在させておくわけにはいかないのだ」とのお考えももたれているのではないかとは存じますが,小社としては,意見の違う者どうしがいかに話し合いの中でよりよい方向を見つけ出していくか,そして,それを自ら実行していくことそのものが大切なのではと考えているしだいです。

 前述の「小社としての問題提起と貴会への質問」につきましては,貴会のご返答にあたり,貴会としてすでに明確にもたれているはずのお考えであると思いますし,お答えくださるのに特別なお手を煩わす性質のものではないと認識しております。12月8日までにお答えくださいますよう重ねてお願い申し上げます。

 お答えがたいへん長文となり,恐縮に存じておりますが,以上をもちまして小社の返答とさせていただきます。

                                                          敬具

追伸 なお,確認のため小社からすでに郵送いたしております,2通の「受け取り状」を掲載しておきます。おあらためください。

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                                    1997年11月5日

黒人差別をなくす会会長
   有田 喜美子 様

                                    竃k大路書房代表取締役社長
                                    丸山 一夫

拝復

 貴会におかれましては,ますますご清祥のことと拝察申しあげます。

さて,貴会よりご郵送の「平成9年11月2日付第176−38−51781−6号書留内容証明郵便物」ですが,11月4日に確かに受け取りましたので,まずはお知らせ申し上げます。

 いただきましたお手紙につきましては,小社絵本『チビクロさんぽ』についての「ご質問状」と認識しております。小社にとりましては,出版後初めて公式にいただきました「ご質問状」です。貴会ご指定の1997年11月22日迄に1日も早く誠意をもって回答させていただく所存でおります。

また,小社に公式にいただきましたご意見・ご指摘・ご批判等につきましては,原則的にすべて公開させていただくつもりでおります。したがいまして貴会の今回のお手紙と小社のご返事ともに公開させていただくつもりです。この点ご了解くださいますようお願い申しあげます。

なお,本年5月22日より小社の代表は,丸山になっておりますのでご了解くださいますようお願い申しあげます。

                                                   敬具

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                                    1997年11月13日

黒人差別をなくす会会長
   有田 喜美子 様

                                    竃k大路書房代表取締役社長
                                    丸山 一夫

拝復

 貴会におかれましては,ますますご清祥のことと拝察申しあげます。

さて,貴会よりご郵送の「平成9年11月10日付第176−38−51906−5号書留内容証明郵便物」ですが,11月11日に確かに受け取りましたので,お知らせ申し上げます。


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