「見栄の検索」の誤訳
初出日2006.1.7
信州大学教育学部教授・守 一雄
- 『ザ・サーチ』のp.46に「ハリスの世論調査によると、検索の40%は『見栄の検索』と呼ばれるものだという。検索エンジンに自分の名前を打ち込んで、インデックスに載っているかどうかを探すのである。(中谷和男氏訳)」とある。
- 私もよくやるので、「へー、自分の名前で検索するのが検索全体の40%にもなるのかあ」と思ったのだが、読み進めてみると、「自分の名前以外には、20%が昔の恋人、36%が昔の友だち、また29%は家族の情報を探していた。」とあるところで、おかしいことに気づいた。だって、これじゃ、100%を越えてしまう。
- おそらく、この部分の正しい意味は、「検索をする人の40%が自分の名前での検索をしたことがあり、20%が昔の恋人の名前を検索したことがあり・・・・」ということなのだろう。
- 早速、原文をあたってみたいと思ったのだが、残念ながら原著は持っていない。そこで、元になった「ハリスの調査」を調べてみることにしたが、「ハリスの調査」というのは、ハリスという研究者が個人で行った調査ではなく、有名な調査機関が頻繁に行っている調査らしいことがわかった。「朝日新聞の世論調査」という情報だけから特定の調査結果を調べるくらい難しいことでこれは無理だろう。
- しかたないので、『ザ・サーチ』の原著者John BattelleのWebページ(ブログ)に行ってみた。しかし、「見栄の検索」の原語が何だったのかわからない。
- もう一度、原書を調べる作戦に変更し、Amazonの内容検索を試してみることにした。日本のAmazonでもこの本は売られているが、なか見検索はできない。
- アメリカのAmazonに行ってみると、目次やサンプルページの他に、訳書にはなかった索引が見られることがわかった。索引でHarris poll(ハリスの世論調査)を探すと、p.29だとわかる。あとは、「なんとかsearch」という項目で、p.29が含まれるものを探せばよい。検索をかけてみたが、検索機能はつかえないことがわかったので、肉眼で探すことにした。あったあった、vanity searches, 29, 191-93に間違いない。
- John Battelleのブログに戻って、vanity searchで検索してみる。
- そして、見事発見。 August 3, 2004 12:40 PMの記事の中に、Check out this new survey from Harris Interactive and MSN...39 percent of us have done a vanity search for their own name.という記述があった。やっぱり、「私たちの39%が自分の名前で見栄の検索をしたことがある」ということだ。
- と、こんなことが簡単に数分で調べられてしまうのもGoogleのおかげである。
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