『JAF-MATE』書評(99.10月号)

曽根英二『ゴミが降る島--香川・豊島 産廃との「20年戦争」』

日本経済新聞社\1,700

評者 信州大学教授 守 一雄

ういう結果を生んだのは、
まず第一に車を作った人たちがい
る。で、車に乗って楽しんだ人た
ちがいる、つまり我々です。」香
川県豊島(てしま)に野積みにさ
れたシュレッダーダストの上を歩
きながら、「ニュース23」の筑
紫キャスターはこう述べたという。
 毎日便利に使っている車もいず
れは廃車の時期が来る。では、廃
車になった車はどうなるのだろう
か?ボディやエンジンなど金属の
多くはリサイクルされる。しかし、
いろいろな材質が複雑に組み合わ
されて作られるシート、内装など
車の大部分は細かく粉砕され「産
廃(産業廃棄物)」として処分さ
れることになる。これがシュレッ
ダーダストである。
 シュレッダーダストはどこかに
埋め立て処分する以外に今のとこ
ろ有効な処理の方法がない。では、
どこに処分するか?瀬戸内海に浮
かぶ自然に恵まれた小さな島・豊
島には、こうしたシュレッダーダ
ストなどの産廃が50万トンも運び
込まれ、「ゴミの降る島」になっ
てしまった。
この本は豊島の住民とそれを支
える弁護士の20年間の闘いの記録
である。直接に責任を問われてい
るのは産廃を不法に持ち込んだ業
者であり、それを黙認してきた香
川県であるが、もちろんその背後
には冒頭の筑紫キャスターの言葉
にあるように車社会に暮らす我々
がいる。新車もいずれ廃車になり、
廃車になる車があるかぎり、行き
場のないシュレッダーダストも生
まれ続ける。問題の根はきわめて
深いのである。かくして、私は11
年目に入った愛車をまだ廃車にで
きず乗り続けている。