『JAF-MATE』書評(99.7月号)

二木雄策『交通死--命はあがなえるか--』岩波新書\630

評者 信州大学教授 守 一雄

像したくもないことであるが、
あなたの最愛の家族が、歩行中に
信号無視して進入してきた車には
ねられて死んでしまったとしよう。
あなたはどうするだろうか?
 この本は、最愛の娘を交通事故
でなくした父親の怒りの問題提起
の本である。著者の娘さんは、信
号無視して進入してきた車にはね
られて死んだ。悲しみに耐えて臨
んだ、刑事裁判、賠償交渉、民事
訴訟などを通して、著者は現代社
会が加害者にきわめて甘いシステ
ムであることを痛感する。
 「まったく罪のない一人の人間
を一方的に殺してしまった」とい
う重大な過失に対して、加害者に
科せられる責任は驚くほど軽いの
である。刑事罰はこうした場合で
も懲役2年執行猶予3年が普通で
あり「実刑」はない。民事罰も保
険会社が代行するため、ないも同
然である。加害者は「示談への参
加」や「裁判への出頭」さえ免れ
ることができるのだ。誰もがハン
ドルを握る現代の車社会では「自
分もいつかは加害者になるかもし
れない」ということから、社会そ
のものが加害者側に有利にできあ
がってしまっているのである。
 加害者に甘いシステムである限
り、交通事故はなくならないだろ
う。交通死をきちんと被害者の側
から捉え、被害者の視点から現代
の車社会を見直す必要がある。こ
の本は、私たちに「自分自身や自
分の最愛の家族がいつかは被害者
になるかもしれない」ことをもう
一度真剣に考えるべきであること
を教えてくれる。