『JAF-MATE』書評(2000.3月号)

山本寛 『さようならエンジン燃料電池こんにちは』

日本経済新聞社\1,600

評者 信州大学教授 守 一雄

リントン大統領は、自動車
   の燃費を三倍改善するよう
な画期的な動力源を二〇〇四年ま
でに開発するプロジェクトを推し
進めているという。既存のエンジ
ンを改良することでこの目標が達
成できるのか?それともまったく
新しい動力源を開発する必要があ
るのか?
 この本によれば、その答は後者
であり、「エンジンは二〇一〇年
には自動車用原動機の主役の座を
燃料電池に明け渡すことになる 」
とまで予言されている。
 燃料電池というのは、水素と酸
素を化合させることによって発電
する仕組みのことである。「燃料」
と言っても、水素を燃やすのでは
なく、触媒によって酸素と化合さ
せる。そこで、余分な熱を発生さ
せない分、エネルギーを有効に使
えるのだ。燃費を三倍にできる秘
密もここにある。
 燃料電池には、環境を汚さない
という利点もある。燃料の水素を
大気中の酸素と化合させるだけな
ので、排気ガスがまったく出ない。
窒素酸化物や硫黄酸化物はもちろ
ん、炭酸ガス(Co2)さえ発生さ
せないのだ。
 燃料の水素をどう作り出し、ど
う供給するか、そして、車にどう
貯蔵するか、など解決しなければ
ならない問題も数多く残されてい
るが、二一世紀には燃料電池が主
役になることはまちがいないこと
のようだ。この本の予言が正しい
とすれば、私たちが次に買う自動
車にはもうエンジンが付いていな
いかもしれない。