差別をとっぱらって

再登場なんだ、ワン!

『週刊金曜日』1998.1.23号「自薦」原稿


 ボクの名前はチビクロです。えーっと、犬です、ワン。ボクが出てくる新しい絵本の紹介をします。この絵本は、ボクが新しい服を着てジャングルに散歩に行ったときのお話です。恐いトラがつぎつぎに出てきて、食べられそうになりますが、服や傘をトラにあげてうまく逃れます。でも、そのトラたちがケンカをしている隙に取られた服や傘を取り返しちゃうんです。しかも、トラたちは木の周りをグルグル回っているうちに溶けてバターになっちゃうので、それでおいしいホットケーキを焼いて食べます。こんなにおいしいホットケーキは今まで食べたことがありませんでした。

 えっ、どこかで聞いたことがある話だって?ええ、実は、昔、同じことが人間の子どもでもあったそうです。でも、その子どもの名前が黒人差別の忌まわしい過去を背負ったものだったことなどから、そのお話は絶版にされちゃったんだそうです。そこで、ボクの登場ということになったわけです。だから、主人公以外はお話の展開がまったく同じなんです。

 このお話、もともとはイギリス人のヘレン=バナマンさんという人が作った絵本なのですが、日本では原作と違う版が広く出回っていたことも問題視されていました。インドの子どものお話だったのに、アメリカの黒人のように絵が描かれたりして、いっそう黒人差別的になっちゃっていたのです。

 今度のボクの話は、バナマンさんが作った絵本とできるだけ同じになるよう工夫されています。左ページに文章、右ページに絵というレイアウトやスリリングな場面展開にあわせたページ送りなども、原作通りにしてあります。主人公は、ボクがやることになりましたが、ちゃんと原作の版権継承者からその許可ももらっているんです。

 そうそう、ボクが主人公でも、前のお話と同じくらい面白いということが、心理学実験によって確認されてもいるんだそうです。でも、ボクのせいじゃなくて、どうやらトラさんたちの「活躍」のおかげらしいんですけどね。

 


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