第10巻第6号              1997/3/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/dohc/dohchp-j.html
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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 1987年の10月から発行を始めたこのDOHC月報の初期の頃に私が最も力を注いでいたのは反原発運動でした。今回紹介する広瀬隆氏も第5巻までに5回も登場し、その代表的な本である『危険な話』を1990年1月号(vol.3-4)で「1980年代の1冊」にまでしています。
 その反原発運動にも一部明るさが見えてきました。市民の多くが原発の危険性を知り、新潟県巻町の住民投票のように住民がハッキリと「ノー」を突きつけることができるようになりました。もんじゅは予想通りに事故を起こし、2年前の阪神淡路大震災で、「耐震構造」などというものがまったくあてにならないことも証明されてしまいました。国・科学技術庁・電力会社などの原発推進側は袋小路へ追いつめられています。このように、原発推進側との闘いは近いうちに反原発派の勝利に終わることがほぼ確実です。
 しかし、この本を読んで事態の深刻さを改めて認識しました。そもそも推進側に勝利しても問題の解決にはならないのです。もうすでに取り返しのつかないほど原発は「推進」されてきてしまっているからです。今までに私たちが浪費した電力が生み出したたくさんの核のゴミが日本中に50基もある原子力発電所のプールに溢れています。「再処理」という、いかにもゴミを解消するかのようなネーミングでいて、その実、「核のゴミの中からさらにやっかいなプルトニウムを分離するだけ」の処理を何兆円ものお金を払ってフランスに委託してきましたが、そのプルトニウムと残りのゴミもどんどん日本に送り返されてきます。追いつめられた推進派は、余ったプルトニウムをウランに混ぜて燃料にするというさらに危険な道を選ぼうとしています。
 ここで重要なことは、一部の人々の個人的な利益のために日本中が危険に晒され、それを止めることもできないままの状態が今も続いているということです。その陰には、政治家・官僚・大企業幹部・学者の黒い結びつきがあります。実は、同じことは、エイズ薬害問題にもありました。そして、この本ではその両方にまったく同じ人物が関わっていることを暴いて見せています。政治家・官僚・大企業幹部・学者の黒いつながりが閨閥(近親関係)によって作られていたことを14枚の詳細な系図によって明らかにしているのがこの本の特徴です。(もっとも人間関係の連鎖を辿っていくとわずかの連鎖で日本人すべてに広がりますから、この系図をあまり重視するのも考えものです。)
 ここまでひどい実状を知ると、「もう僕らには何もやれることがない。そのうちなるようになるしかないんじゃないの。」となげやりな気持ちになります。できてしまった核のゴミは何万年も管理しなければなりません。政治家や官僚や裁判官のデタラメぶりも現行の選挙制度や裁判官罷免制度では正しようがありません。もう、どうしようもないのです。しかし、あきらめてはいけません。こうした無力感に陥ったとき、私はいつもこう考えることにしています。
 「私には私にできる範囲のデタラメを改めるよう行動する。たとえば学部の授業の改善でもいい。学会誌審査のデタラメを正すことでもいい。そして、日本中の一人一人がデタラメを正すという行動をそれぞれの持ち場で実行すれば、いつかいろいろなデタラメが正されるようになる。もっと大きな不正があるじゃないかと言って、小さな不正を見逃すのではなく、大きな不正を正すためにこそ身の回りの小さな不正を正す努力をする。電力会社の上層部の不正を止めることは私にはできないが、学部教授会で電気の節約を提案することはできる。そうした提案だって、学生にはできないことなのだ。」
 薬害エイズの問題が明らかになったとき、同じ心理学者である私の知人は、かつて自分が分担執筆した本の監修者がこの当事者・郡司篤晃であることを知り、自分の分担執筆部分を削除するよう出版社に内容証明郵便を送っています。誰にでも何かができるはずです。
 まずこの本を読んで下さい。そして、怒りを具体的な行動にあらわして下さい。 (守 一雄)

【これは絶対面白い】

広瀬隆『腐蝕の連鎖』

集英社\1500


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