第9巻第10号      【全面広告】        1996/7/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



  例年のことですが、信州大学教育学部は一足早い夏休みに入って、キャンパスはすっかり静かになりました。(3年生は全員教育実習に行き、4年生は採用試験の勉強というわけで、2年生だけに授業してもしょうがないからなのでしょうか、6月下旬から夏休みになってしまうのです。松本にいる1年生向けの授業はやっています。)というわけで、この「DOHC月報」も授業で配ることもなく、学内に掲示しても見る人も少ないことになります。そこで、今月号はパソコン通信による全国の読者に的を絞った本の選択をしました。(とかなんとか言って、結局は6月25日発売の自著の宣伝をしようというわけです。)

【これは絶対面白い(ハズである)】

守 一雄 『やさしいPDPモデルの話』

新曜社¥1,545


 「PDPモデル」というのは、アメリカの心理学者ラメルハートとマクレランドらが提唱している「並列分散処理(Parallel Distributed Processing)モデル」のことである。それでも、「PDPモデルって何」と思う読者のために、「文系読者のためのニューラルネットワーク理論入門」という副題がついている。「じゃ、ニューラルネットワーク理論って何」という問いには、「脳神経系からヒントを得た情報処理の理論的モデルで、プロダクションシステムに代わる新しい心理学のモデルである」という答えがなされる。すると、「えっ、プロダクションシステムって何」って聞きたくなるだろう。実は、プロダクションシステムというのはコンピュータの働きからヒントを得た情報処理のモデルで、S−Rモデルの限界を克服すべく登場した心理学のモデルだったのである。つまり、この本では、心理学者に長い間親しまれてきたS−Rモデルの後継モデルであるプロダクションシステムモデルのそのまた後継モデルであるPDPモデルがやさしく説明されているのである。(「S−Rモデルって何」っていう質問はとりあえず「却下」する。)
 ここで重要なポイントが2つある。1つは、PDPモデルがS−Rモデルと対比されるような心理学のモデルであるという位置づけがなされていることである。もう一つの重要なポイントは、S−Rモデルがもう2世代も前のモデルになってしまったことがハッキリと述べられているということである。副題では「文系読者のための・・・」となっているが、実は、いまだに「S−Rモデルのシンパであり続ける多くの心理学者」に向けて書かれた強いメッセージを含んでいる。「PDPモデルは工学者や知覚研究者の一部が研究しているもので、心理学全体には関係ない」というのは誤解であり、PDPモデルは心理学の全ての分野に関わるモデルなのである。さあ、あなたもPDPシンパになろう。
  この本の第2の特徴は「PDPモデルは難しい」という誤解の解消を目指していることである。PDPモデルが心理学全体にとって重要なモデルであるにも関わらず、今まであまり注目されてこなかった最大の理由は、多くの心理学者にとってPDPモデルが難しかったからである。しかし、「PDPモデルは難しい」というのは食わず嫌いの典型のようなものである。この本を読めば、誰もが「なあーんだ、PDPモデルってそういうことだったのか」とわかってくれるはずである。さあ、これであなたもPDPシンパになれる。
  著者本人がいくらこの本はわかりやすいと主張しても信じてもらえないであろう。そこで、いくつか実例を紹介しよう。先月号で紹介した国際シンポジウムで慶應義塾大学の大津由紀雄さんに会ったときに、原稿を渡して読んでもらった。大津さんは1日目2日目の夜ホテルで原稿を読んで3日目のマクレランドの発表を聞いたところ、今までになくマクレランドの話がよく分かったと喜んでくれた。静岡大学の村越真さんや専修大学の山下清美さんにも原稿を読んでいただいた。お二人の感想は、一言で言って「わかりやすく面白いけど、物足りない」というものだった。しかし、この感想はひっくり返せば「物足りなく思えるほどに、わかりやすい」ということである。さあ、もうあなたはこの本を読んでPDPシンパになるしかない。 (守 一雄)


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