第8巻第4号              1995/1/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくご愛読下さい。
  「一年の計は元旦にあり」と言います。年頭にあたって、鈴木孝夫『人にはどれだけの物が必要か』(飛鳥新社)を皆さんに是非お勧めしたく思います。
 鈴木孝夫さんは本来は社会言語学者で、すでに一度このDOHC月報でも『日本語と外国語』(岩波新書)をはじめとする全著作を紹介しています(第3巻12号、1990.9)。実は、この本は言語学とは無関係で、鈴木さんの生き方を述べたものです。『人にはどれだけの物が必要か』という表題は、トルストイの寓話『人にはどれだけの土地が必要か』をもじったもので、「買わずに拾い、捨てずに直す」という物欲にとらわれない生き方の秘訣がユーモアたっぷりに書かれています。
 他人のことは言えませんが、大学教授というのはつくづく変人が多いなと思います。鈴木孝夫さんは長い間慶応大学の言語文化研究所教授でしたが、「マージャン、トランプ、パチンコといった娯楽は殆どした覚えがないし、碁も将棋も経験なし、ゴルフや野球を始めとするスポーツは、自分でするのも他人の競技を見るのも全く興味がない。自分から進んでバーに行ったことはなく、赤提灯や縄暖簾をくぐったことなし、カラオケ未体験、喉自慢や紅白歌合戦など見るのも嫌、温泉旅行団体旅行は真平御免、ダンスもディスコも無関係、競輪、競馬、宝くじといった賭事一切興味なし」「そんなわけだから私には自分の好きなことをやる時間がたっぷりある」のだそうで、大変な変人ぶりです。そして、そのたっぷりとある時間を使って、毎朝愛犬を散歩させながら空き缶を拾い、新聞・雑誌などの紙を集め、ゴミの山から愛犬の食べ物を探すのだそうです。曰く、「家畜には草、ペットには残飯を」
 それでも、この本はけっして、「ケチのすすめ」とか美徳としての「清貧の思想」を述べたものではありません。発想の転換をすれば、楽しく、しかも環境を守る生き方ができるのだということを著者自身の例をもとに具体的に述べたものです。なかでも面白いのは、地球環境を守るために欲望を制限するのではなく、反対に極限にまで拡大することによって、「この地球すべてが自分のものだ」と思ってしまうという発想です。自分の部屋や自分の家を大事にするように、地球そのものを大事にする、だって自分のものだから。
 2年前のお正月に槌田敦『エントロピーとエコロジー』(ダイヤモンド社)を紹介した際に、「環境問題の根はここまで深かった。私はショックでしばらく鬱になりそうである。」と書きました。そして、本当にしばらく軽い鬱になりました。その後、忙しさにまぎれて、というより環境問題を直視するのを避けることによって自分自身をだまして、鬱を抜け出しましたが、いつまでもだましきれるものではありません。やっぱりいつかは資源やエネルギーを浪費する生き方を変えなければならないのです。しかし、そうした生き方を「悲壮感を漂わせて」するのでは、つらすぎます。暗すぎます。惨めすぎます。そこで、結局、「ええい、なるようになれ」と消費社会の一員に戻ってしまっていたのです。
 鈴木孝夫さんの生き方は、もっと明るく楽しいものです。自分が変人であることを積極的に評価し、「自分が人並みでない」ことをマイナスと考えない。今世紀もあと6年で終わりです。私も今年こそ、鈴木さんの提唱する「地救(球)原理」を理解し、実践する年にしたいと思います。それでも鈴木さんほどの変人にはなりきれませんが。 (守 一雄)

【これは絶対面白い】

鈴木孝夫『人にはどれだけの物が必要か』

飛鳥新社\1,600



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