第3巻第9号                    1990/6/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY


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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, dmori@c1shin.cs.shinshu-u.junet)



  「論語読みの論語知らず」という諺がありますが、「心理学者の心理知らず」と皮肉を言う人もあるくらい、心理学的研究はなかなか人の心理に迫ることができないままです。そのためもあってか、このDOHC MONTHLYでも「心理学の面白い本」を紹介することがほとんどありません。そうしたなかで、ほんとうに久しぶりに、心理学の本が登場します。(1988年9月号の下條信輔『まなざしの誕生』以来、実に1年9カ月ぶりです。)

【これは絶対面白い】  

須賀哲夫『理論心理学アドベンチャー』 

新曜社 \1,957(税込み) 


 「理論心理学のテキストがどこにも見当らないのはまったく奇妙なことである。」「本書の論点は、心理学にこうした理論的方法を取り戻そうということにある。」
 出だしのこの2つの文だけで、アドベンチャー小説を読むときのようなワクワクする気分が起こってきた。その他、ハッとするような鋭い指摘にウーンとうならされる。例えば、「[すぐれた研究には2つあって、]その第一は、目の覚めるような事実を確定すること[であり、その第二は、]ありふれた事実に対して、目の覚めるような説明を与えることである。」とか、「実験的な手口で収集されてくる事実をビーズ玉にたとえるならば、そのビーズ玉は糸に通してまとめられることもなく、ただ手のひらに積みあげられていくのみで、そのつど古い玉がこぼれ落ちていく[のが現在の心理学的研究の]状況である。」といった記述である。
 確かに、本書を読んでいくと、バラバラであったビーズ玉に一本の糸が通されていく様子が実感される。その糸とは、「ヒトという種の任意の特性が生得的なものであるかどうかの基準を一般的に定めること」である。心理学のすぐれた研究が第一のタイプに偏りがちな中で、第二のタイプの研究の復権を目指すこの本は、それ自身がすぐれた第二のタイプの研究になっている。

景山民夫『虎口からの脱出』

新潮文庫 \427(税込み)


 難しい理論心理学のアドベンチャーで疲れた頭には、痛快アドベンチャー小説が最適である。本当は、6月1日から3日の日本心理学会の前に『理論心理学...』を読み終えて、このDOHC MONTHLY6月号を学会で配るつもりだったのだが、すこし難しいところにくるたびに、『虎口...』を読んだりしているうちに、間に合わなくなってしまった。もちろん、理論心理学とは無関係にこの本は面白いが、両方を読むと、悪しき実証主義で武装した軍団に埋め尽くされた心理学砂漠を走り抜ける須賀教授に、西少尉のイメージが重なって3倍面白いのだ。(ヒドイこじつけ)。 (守 一雄)
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html化1996.5.18