第12号                          1988/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]


 長かった夏休みも終わり、前期もあと1カ月を残すだけになりました。DOHC月報も今月でちょうど1年分の発行を終えることになります。ご愛読ありがとうございました。DOHC1年目の最終号を飾る本は、もう数カ月前から、この本にしようと決めていたものです。(私事で恐縮ですが、今月、我が家に新しいメンバーが加わることもこの本を選んだ理由の一つです。) (守 一雄)

【これは絶対面白い】

下條信輔『まなざしの誕生:赤ちゃん学革命』

新曜社 \2200


 読書をしながらいつも思うことは、面白い本はこんなにもたくさんあるのに、心理学の本はどれもあまり面白くないということである。しかし、久しぶりに、わくわくするほど面白い心理学の本に出会った。「専門外の人に面白がってもらえないようなら、本当の学問ではない」という確信に基づいて書いたと「まえがき」に書かれている。これだけのことを「まえがき」に書く自信も大したものだが、確かに著者の自信のとおりのできばえである。本当に面白い。
 つい最近まで、赤ちゃんは何もできない無能なもので、まわりからの働きかけ(これを教育と呼ぶ)によって、いろいろな能力を獲得していくのだと考えられていた。この本は、一言で言えば、こうした考え方が間違っていて、赤ちゃんは生まれたときから実に多くのことができるのだということを巧みな実験と推理とによって示してみせたものである。著者の専門は、赤ちゃんの視覚の実験研究である。そこで、表題にもあるように、視覚の話題が多くなるが、この本の面白さは、視覚の研究を越えた著者の人間観にあると思う。こうした人間観があるからこそ、単に実験結果を紹介するに留まらない、著者の主張が生き生きと感じられる本になったのである。
 著者の下條信輔クンは、若干33歳。素晴らしい本を読み終わったあと、その著者が自分より若いことに気づいたときの気持ちは大変複雑である。(守 一雄)
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