第35巻第5号                2022/2/2
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行 [発行責任者:守 一雄]
(kazuo.mori[at-sign]t.matsu.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html


 思えば34年前の1987年12月の『DOHC月報』第1巻第3号に「論文の書き方・作文技術の本」という特集をしました。当時の信州大学教育学部では卒業研究の締切が年明けすぐでしたので、12月の初めに「論文の書き方」についての本を紹介するのがタイムリーだったのでしょう。学生にも読みやすい新書か文庫に絞って全部で9冊を紹介した中で「一番のオススメ」は、
木下是雄『理科系の作文技術』中公新書 ¥560(当時の定価)
でした。この本は今も「論理的文章の書き方」の本として推奨されています。初版は1981年9月ですので、なんと40年以上もこの本が「論理的文章の書き方」の定番だったことになります。

 この私のリストの中に、梅棹忠夫『知的生産の技術』岩波新書があり、私の評価は「古典的名著だがさすがに古い。」というものでした。ところが、この本は初版が1969年7月ですから、10年ちょっと古いだけだったわけです。確かに梅棹さんの本は、まだ「パソコンで文章を書く前の時代」の文章法の本でした。カードで情報を整理したり、カタカナタイプライターの活用が推奨されたりしていました。そう考えると、『理科系の…』の方だって、もうその何倍も古い本ということになります。『理科系の…』は、1978年に登場した東芝のワープロの後の本でしたが、パソコンで使える『一太郎』などが普及したのは1985年くらいからでしたから、そう大きな違いはなかったはずです。しかも、その後のデジタル化の進展はめざましく、何よりも、インターネットがまだない時代に書かれた本でした。

 結局、『理科系の…』が文章法の定番であり続けたのは、良い「後継本」がなかったからだろうと思います。そして、やっとその「後継本」が出版されました。木下是雄さんは物理学者でしたが、黒木さんは医学者、どちらも理系の研究者です。「文系」の研究者はいったい何をしているのでしょうか。(守 一雄)

(c)岩波書店
 

【これは絶対面白い】

黒木登志夫 『知的文章術入門』

岩波新書 (¥946)

 著者の黒木さんは1935年1月生まれ、86歳であるが、研究者として現役であり、この本ではオンライン授業にまで言及している。こんな本が欲しかった。「英語の時代ではあっても日本語を大切にしよう」という主張や、「分かりやすい文章を書こう」、「インターネットを活用しよう」、「それでも英語を学び、日常的に使おう」など、私も授業でずっと主張してきたことがそのまま述べられている。読みながら、何度も「こんな本を書きたかった」とさえ思った。

 英語へのスタンスも同感するところが多い。英語は、フランス語やドイツ語と比べると、「無邪気で鈍感な」言語である。だから、世界中で使われるようになったわけで、要は世界の人々の多くにとって「英語が一番易しい」言葉なのだ。ところが、日本語は英語よりもさらに「いい加減な」ところがある言語なので、日本人には英語が難しく感じられる。「細かいことは気にせずにどんどん使う」のが上達への一番の近道である。

 『理科系の…』に足りなかった新しさが、この本には全部含まれている。来年度の授業の課題図書にしたいところであるが、もう授業がないのが残念である。ま、私が課題図書にしなくても、全国の多くの大学でたくさんの教員がこの本を課題図書にするだろう。なにしろ、岩波新書である。

 と、こう書きながら、この本が『理科系の…』のような定番の地位を30年も維持できるかは疑問である。というのも、「課題図書を読ませてレポートを書かせることで文章の書き方を教える」という大学での授業スタイルそのものが、この先10年も続かないように思うからだ。私が知らないだけで、文章の書き方を分かりやすく教えてくれるYouTubeビデオがあるのではないか。この本が「定番」にならないような、斬新な未来の到来に期待したい。(守 一雄)

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