毎月1日発行 [発行責任者:守 一雄]
(kazuo.mori[at-sign]t.matsu.ac.jp)
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この私のリストの中に、梅棹忠夫『知的生産の技術』岩波新書があり、私の評価は「古典的名著だがさすがに古い。」というものでした。ところが、この本は初版が1969年7月ですから、10年ちょっと古いだけだったわけです。確かに梅棹さんの本は、まだ「パソコンで文章を書く前の時代」の文章法の本でした。カードで情報を整理したり、カタカナタイプライターの活用が推奨されたりしていました。そう考えると、『理科系の…』の方だって、もうその何倍も古い本ということになります。『理科系の…』は、1978年に登場した東芝のワープロの後の本でしたが、パソコンで使える『一太郎』などが普及したのは1985年くらいからでしたから、そう大きな違いはなかったはずです。しかも、その後のデジタル化の進展はめざましく、何よりも、インターネットがまだない時代に書かれた本でした。
結局、『理科系の…』が文章法の定番であり続けたのは、良い「後継本」がなかったからだろうと思います。そして、やっとその「後継本」が出版されました。木下是雄さんは物理学者でしたが、黒木さんは医学者、どちらも理系の研究者です。「文系」の研究者はいったい何をしているのでしょうか。(守 一雄)
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英語へのスタンスも同感するところが多い。英語は、フランス語やドイツ語と比べると、「無邪気で鈍感な」言語である。だから、世界中で使われるようになったわけで、要は世界の人々の多くにとって「英語が一番易しい」言葉なのだ。ところが、日本語は英語よりもさらに「いい加減な」ところがある言語なので、日本人には英語が難しく感じられる。「細かいことは気にせずにどんどん使う」のが上達への一番の近道である。
『理科系の…』に足りなかった新しさが、この本には全部含まれている。来年度の授業の課題図書にしたいところであるが、もう授業がないのが残念である。ま、私が課題図書にしなくても、全国の多くの大学でたくさんの教員がこの本を課題図書にするだろう。なにしろ、岩波新書である。
と、こう書きながら、この本が『理科系の…』のような定番の地位を30年も維持できるかは疑問である。というのも、「課題図書を読ませてレポートを書かせることで文章の書き方を教える」という大学での授業スタイルそのものが、この先10年も続かないように思うからだ。私が知らないだけで、文章の書き方を分かりやすく教えてくれるYouTubeビデオがあるのではないか。この本が「定番」にならないような、斬新な未来の到来に期待したい。(守 一雄)