第25巻第3号                2011/12/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kaz-mori[at-mark]cc.tuat.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html

 今年の『DOHC月報』3月号でひきこもり問題の解決法の一つとして期待できる「レンタルお姉さん」の試みと、それを始めた二神能基さんの『暴力は親に向かう』を紹介しました。その本の中に、親が「勝ち組志向」でいるかぎり、子どものひきこもり問題は解決しないという指摘があり、2人の息子を持つ親として自分の身に置き換えてみて、確かにそうだと感じたものでした。『暴力は親に向かう』の本は授業で学生にも紹介し、私自身も「勝ち組志向」を捨てきれないので、実は私自身も同じような境遇になったら、この問題に対してどうすればいいのかの解答を見つけられないままだというような話をしました。

 ところが、この本にはあっと驚くような解決策が書いてありました。ひきこもりから脱出しようとするのではなく、ひきこもりのまま楽しく生きればいいじゃないか、というのです。よくある「逆転の発想」ってやつですが、考えてみると確かにそのとおりです。ひきこもりという生き方を積極的に肯定すれば、問題は解決します。自分の不幸な境遇に悩んだり、苦しんだりするのではなく、容姿が醜くても、貧乏でも、頭が悪くても、重い病気に罹っていても、それをあるがままに受け入れて、そんな自分を愛して生きるべきだというのは、幸せな人生を送るための「究極の教え」ではありませんか。

(c)太田出版
 
 そう、この本の表紙には煩悩を捨て、ゆっくりと寝そべる涅槃仏が描かれているのです。さらに、この本の冒頭には「ずっと、ひきこもっているとどうなるのか?」という問があり、その答えが書かれています。そう、ずっとひきこもっていれば涅槃仏になれるのです。

 「そんなはずはない。ひきこもっていてどうやって食べていくのだ。今は親のスネをかじっていられるが、将来はどうするのだ。」という声が聞こえてきそうですが、お釈迦様がそうであったように、ひきこもりの人はもともと物欲が少ないので、1日500円もあれば幸せなのだそうです。(そういえば、私が人生の師と仰ぐナマケモノという動物も、徹底的に省エネの生き方をすることで、ごくわずかの食料だけで生きています。寝る間も惜しんで、ちょこちょことエサを探して動き回り、エサを食べ続けるネズミのように生きるか、ゆっくりと木にぶら下がって生きるか、の違いだけです。)収入を増やすことを考えるのではなく、支出(物欲)を減らすよう心がけるのです。(ブータンの「GNPよりGHP」という政策も同じことですね。)

 「では、その500円をどうやって稼ぐのか。」自動販売機の下に落ちているお金や、釣り銭受けに取り忘れたお金を探せばそれくらいは手に入るそうです。さらに著者はもっと安定した収入源も紹介してくれます。障害年金です。障害年金をもらうためには障害者として認定を受けなければなりませんが、精神科に1年6ヶ月以上通っても「ひきこもり」が治らないと、精神障害者の基準を満たしますので、立派に障害者となり、障害年金がもらえるわけです。ひきこもりを続けていれば、誰でも精神障害者になれますから、お金の心配はいらないのです。2級の場合、2か月に一度月額約6万7千円がもらえるそうです。月額6万円もあれば、安心してひきこもりライフが楽しめます。

 「それでは結婚もできないし、子どもも作れない。遺伝子を残すという人生の大事な目標が果たせないではないか。」という難問が最後に残ります。著者の勝山氏はこの難問にもちゃんと答えを用意しています。「おまけ」という章が終わりの方にあって、その中で甥っ子と楽しく遊ぶ勝山おじさんの様子が描かれています。そうです、ハミルトンの血縁選択説です。自分で子どもを作って遺伝子を残さなくても、甥っ子や姪っ子、あるいは従兄弟やハトコを通してちゃんと自分の遺伝子は引継がれていっているのです。なんの心配もいりません。安心してひきこもりライフを楽しみましょう。(守 一雄)


【これは絶対面白い】

勝山 実『安心ひきこもりライフ』

太田出版(¥1,470)

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