第20巻第12号               2007/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kaz-mori[at-mark]cc.tuat.ac.jp)

http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html


【祝20周年】 1987年10月から発行を始めたこの『DOHC月報』は今月号で丸20年間の発行となりました。皆様のご愛読に感謝いたします。

 さて、その20周年記念号の発行が遅れています。遅れた言い訳を述べつつ、近況の報告をします。7月末にメイン州Lewistonで開催されたSARMAC(Society for Applied Research in Memory and Cognition:記憶認知応用研究学会)において、次回2009年のSARMACを日本に招致する提案をして、無事理事会の承認が得られました。ひょんなことから招致の責任者になって、宣伝のためのお揃いの法被を作って、理事会でプロポーザルを発表したり、最終のパーティで出席者全員の前で日本開催の案内をしたりと、準備から本番までの1ヶ月近くをハイテンション状態で過ごしました。帰国後はその反動からか何もやる気が起きなくなり、8月の前半をぼーっと過ごしました。お盆が過ぎまでの異常な猛暑も原因の一つかも知れません。一方、お盆明け頃からは「修正再審査」で戻ってきたまま放ってあった論文の改稿に取りかかる意欲が突然湧いてきて、8月後半の2週間は、2つの論文の改稿に集中しました。せっかく論文を書く気になっているのに、『DOHC月報』なんか構っていられるかというわけで、発行が遅れちゃったというわけです。

 さて、今月紹介する本は、結合双生児についての本です。20周年を振り返って、昔紹介した本のリストを見直していたら、2001年2月に『マーシャとダーシャ』というロシアの結合双生児の本を見つけ、この2人のその後をネットで調べたり、同じような本が他にないかを検索したりしていたら、この本と『運命の双子』(D.ストラウス著/角川書店)の2冊が見つかりました。『運命の双子』の方は「シャム双生児」という呼び名の元となった1811年生まれの男の結合双生児の一生を記したものです。シャム双生児のチャンとエンはショービジネスで人気者となり、アメリカ人の姉妹と結婚して多くの子孫も残した「成功者」であったことや、黒人の奴隷を使って農園を経営していたこと、彼らがアメリカ人と結婚する際に周囲で一番問題とされたのが、結合双生児であることではなく、アジア人であることだった(障害者差別よりも人種差別の方が強かった)ことなど、こちらも驚きが一杯の本です。

 それでも、チャンとエンの話は過去のことです。これに対し、ドレガーの本は、特定の結合双生児についての本ではなく、結合双生児を含むいろいろな身体の「異常」を私たちがどう考えるべきかについて問い直しを迫る本なのです。たとえば、私たち「単生者」は、結合双生児に分離手術を施すことが善であると勝手に思い込んでいます。しかし、この本によれば、多くの結合双生児の中で、今までに自ら望んで分離手術を受けた者は1例しかなく、ほとんどの結合双生児は分離を望んでいないこと、にもかかわらず本人たちの意思に反して分離手術が施されてきているのだそうです。そして、ドレガーが私たちに問いかける根本的な問いは、身体の「正常」とはいったい何なのかということです。

 書名の『私たちの仲間』は、1932年に制作された映画『フリークス(Freaks)』の中の台詞から取られています。結合双生児や小人症など身体「異常」者たちに交じって金儲けを企む「正常」な美人の悪事がばれて、最後には「身体障害者」にされてしまうのですが、そのとき、彼らが繰り返す台詞が「私たちの仲間、私たちの仲間」なのです。(この映画自体も驚きのものです。1932年の作品ですから、もちろん特撮などではなく、結合双生児などがホントに出演しているのです。『YouTube』で一部が見られます。)

(守 一雄)

  
(c)緑風出版
 


【これは絶対面白い】

A.D.ドレガー『私たちの仲間』

(針間克己訳)
緑風出版(¥2,520)


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