第20巻第5号                  2007/2/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@shinshu-u.ac.jp)

 先月、同じ著者の『累犯障害者』を紹介しましたが、デビュー作の『獄窓記』も読んでみたら、想像以上に衝撃的で面白い本でした。2ヶ月連続になりますが、この本も絶対のオススメです。女性を産む機械に例えたことで理不尽な批判にさらされている柳沢大臣を例の調子で批判している辻元清美議員をテレビで見ましたが、同じ罪を犯しながら、恥知らずの彼女が議員に復帰していて、罪を真摯に受け止めた山本譲司氏が政治家を辞めてしまったのが残念でなりません。


  
(c)ポプラ社
 

【これは絶対面白い】

山本譲司『獄窓記』

ポプラ社¥1,575


 この本の著者、山本譲司氏は民主党の衆議院議員であったが、2000年の9月に政策秘書給与不正受給が発覚し、議員を辞めることになった。政治家の不祥事が見つかると、まずは党を離脱し、じっとほとぼりが冷めるのを待つか、それでは収まらず議員を辞めるようなことがあったとしても、次の選挙ではちゃっかりまた当選を果たして、上に述べた辻元氏のように「禊ぎを済ませた」などといって再登場してくるのが常である。年配の議員の場合では、そうした不祥事を期に政界を引退してしまい、しばらくしてから寂しく死亡記事が伝えられるという例も多いようだ。いずれにしても、不祥事がマスコミで騒がれている間は世間の注目を集めても、その後その政治家がどうなったのかはほとんど知られることがない。

 そうした中で、この山本氏は議員辞職後に実刑判決を受け、1年2ヶ月の服役を体験し、その経緯を詳細に本にまとめて出版した珍しいケースである。実際に読んでみるまでは、少し冷ややかな先入観を持っていた。おそらく次の選挙に出馬するためのパフォーマンスとして服役し、その「自虐的潔癖さ」を自己宣伝に使って、あわせて秘書給与不正受給行為に対する自己弁護をしたものだろうと考えていたからだ。

 だから、この本だけだったら買って読もうとは思わなかったにちがいない。しかし、先月号で紹介した『累犯障害者』を読んだ後には、迷わずこの本も買って読もうと思った。そして、実際に読んでみて、想像していたような自己弁護の本ではなかったことを知り、同時にそうした疑いをもっていたことを著者にお詫びしないといけないと思った。山本さんごめんなさい。政治家なんてみんな辻元さんのようだろうと思っていたが、政治家に対する偏見も少し考え直すことにしようと思う。

 刑務所内の様子を面白おかしく書いたものとしては、安部譲二の『塀の中・・・』(文春文庫)シリーズとか、詳細なマンガで描写した花輪和一『刑務所の中』(青林工藝社)とかを読んだことがあったが、この本はそれらとは違う面で新たな驚きの連続だった。そうした意味で、刑務所実録ものとしても貴重なドキュメンタリーであると思う。

 特に衝撃的だったのは、刑務所には痴呆症の高齢者や身体障害者・精神障害者が数多く収容されていて、山本氏のような受刑者の一部が「指導補助」としてそうした障害をもった受刑者の世話を担当させられているということだった。痴呆が進んだ高齢受刑者や障害者の中には、排泄もまともにできない者もいる。「指導補助」はそうした受刑者のおむつを替えたり、大便をふき取ったりもするのである。ゴム手袋をしたりマスクをしたりしている余裕はない。素手で便器までぞうきん掛けをしなければならない。痔疾の精神障害者の入浴の補助の際には、肛門の周りを手の指で洗ってやるのである。

 その様子を読んでいると、刑務所の中というよりも、福祉施設のようである。皮肉なことに、こうした障害をもった受刑者にとっては、刑務所の中にいる方がよっぽど幸せなのだ。そして、こうした経験が山本氏の次の本『累犯障害者』へとつながっていく。私は両書を逆の順番で読んでしまったが、どちらを先に読むのでもいい、ぜひ両方とも多くの人に読んでもらいたいと思う。   (守 一雄)

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