第18巻第5号              2005/2/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 
(c)早川書房


【これは絶対面白い】

J.R.ハリス『子育ての大誤解』

子どもの性格を決定するものは何か

早川書房\2,500


夫(かなり変わり者の心理学者) ねえ、ちょっと、この本知ってる。

妻(夫ほどではないがそれでもやっぱり変わり者の心理学者) なあに『子育ての大誤解』? 育児のハウツー本にしてはずいぶん厚い本じゃない。「子育ての誤解」なんて、新しい育児書を売るために、発達心理学者と小児科医が5年ごとくらいに繰り返してきているけど、今度は何が誤解だったって言うの?

 「親の育児の仕方が子どもの人格形成に影響する」っていうこと自体が誤解だって言うんだ。生まれてすぐに新生児を抱っこした方がいいとか、アタッチメントがどうとかこうとかはみんな嘘っぱちってことさ。

 おっ、それは面白いじゃない。つまり、結局は環境より遺伝ってことでしょ。

 そう単純ではない。環境の影響だって無視はできないさ。この間の『やわらかな遺伝子』でも、そう書いてあったろう。遺伝子がどう働くかは環境に影響されるんだから。

 じゃ、親の育児方法っていう環境要因だって遺伝子を通して子育てに影響するんじゃないの?環境要因がゼロじゃないのなら、親の育児の影響もゼロじゃないでしょ。

 ボクもそう思ってたさ。ところが、この本によれば、環境要因としての親の影響力はないと言うんだ。子どもに影響する環境要因は、その子どもがどんな社会集団の中で育つかなんだって。つまりは、友達の方が親より重要ってことだな。

 なるほど、それはそうかもしれない。ウチの子どもたちだって、私たちの言うことより学校の友達の言うことを聞くしね。私はまだしも、アナタとは話も合わないもんね。

 ・・・(泣)

 でも、小さい頃は2人ともあんなによくなついてたのにねえ。パパのヒザの上に座らなくなったのいつ頃からだろ。つい最近までそうだったようだけど・・・

 あの頃しっかりインプリンティングしたはずだったんだけどなあ・・・で、この本に戻るけど、だからたとえばいろいろな子どもの性格の違いが100あるとすれば、そのうちの50は遺伝子によって説明ができる。これは前から僕らもそう思っていたとおりだ。だけど、残りの50の環境要因の影響のところで、親の影響がほとんどゼロだっていうのがこの本の新しいところだな。今まで親の影響と思われていたものは遺伝の影響を考慮してこなかったからで、その要因を取り除くと、環境としての親の影響はゼロなんだってさ。

 でも、このハリスって人の言ってることは信用できるの?誰、このハリスって?

 面白いことに「ただのオバさん」なんだ、このハリスって人。特にどこの大学にも所属していない。『サイコロジカルレビュー』にこの本の基になった論文が載ったときにも、著者の肩書き欄には自宅の住所だけが書いてあったんだって。でも、肩書きはなくても、『サイコロジカルレビュー』に論文が載るのはすごいことだし、あのピンカーが絶賛してるんだ。そもそも、この本を読むことにしたのも、ピンカーの最近の本(『人間の本性を考える』NHKブックス)で紹介されてたからだし・・・

 (本の奥付を見て)2000年の1月初版か、もう5年も前の本じゃない。なんで今まで気づかなかったの。

 原書は98年だからもう7年も前さ。こんな本のことも知らずに、我々心理学者は、のんきに今まで通りに発達心理学とかの授業していていいの?ってことだよ。ま、ウチの大学でもまだ発達の授業でこの本のことは話されてないと思うな。

テレビ 続いて中村七之助の逮捕を受け、父・勘九郎さんの緊急会見の様子です。

 あーあ、この本で言っていることが正しいとしても、世間がそのことを受け入れるのはまだ相当先のことだね。

 (守 一雄)


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