第14巻第3号              2000/12/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)

 世の中、「嫌煙(「厭煙」が正しい日本語の造語法だそうですが・・・)」派がどんどん増え、愛煙家には暮らしにくい時代になりました。私も嫌煙派で、研究室も実験室も禁煙にしています。今年の卒業研究に、自分自身の禁煙体験をケース研究としてまとめてみようという学生がいて、一緒に「国際禁煙年の長野フォーラム」に出席したり、種々の禁煙方法について調べたりしてきました。この本は、日本心理学会で京都へ行った帰りに駅のキヨスクで見つけて列車の中で読んだものです。      (守 一雄)


【これは絶対面白い】

アレン・カー『禁煙セラピー』

KKロングセラーズ\900


 タイトルの前には「読むだけで絶対やめられる」と書かれている。「セラピー」といっても、特別な治療法や訓練法を用いるのではなく、本当にただ「読むだけ」なのである。著者のカー氏は、もともとは会計士だったそうで、禁煙治療を専門とする医者でもなければ、心理学者でもない。カー氏は、自分自身が33年間もヘビースモーカーだったのだが、ある日この「奇跡の禁煙法」を見つけたのだという。それは、眠っていた人が目を覚ますのと同じように、「喫煙するよう『洗脳』されている状態」から目覚めることだったのだ。(こういったエピソードは、新興宗教によく似ている。「教祖はある日突然、世界を救う方法を思いつき、それを世の中に知らしめるための活動を始める」というお決まりのパターンである。そこで、「眉につば」をしながら読んでいったのだが、どうやら「宗教」だとしてもこの宗教は「ご利益」がありそうである。)

 本当は、このセラピーのためには、この本を全部読まなければいけないのだが、あえてこの本のエッセンスを述べてしまうと、次の2行になる。

たったこれだけのことだが、この2行を心の底から納得できれば、禁煙も成功するにちがいない。著者はこの本を通じて、禁煙を試みる読者にこの2点を説得しているのだ。

 心理療法の分類にしたがえば、このやり方はエリス(A.Ellis)の「論理療法(rational emotive therapy)」に該当するのではないだろうか。喫煙習慣という問題は、「タバコはおいしい」とか「タバコはリラックスさせてくれる」とか「タバコは集中力を高める」とかいう誤った信念(irrational belief)が引き起こしているのであって、その信念を徹底的に論駁して、正しい信念に変えてやれば、問題は解決するというわけである。誤った信念を修正するだけなのだから、本を読むだけでいいのである。

 そして、もう一つのポイントはポジティブシンキング(positive thinking)である。多くの喫煙者は、「禁煙はつらいものだ」という誤った信念も持っている。「禁煙とはガマンを続けることであり、そのガマンに耐えられた人だけが、禁煙に成功する」と信じているのだ。しかし、カー氏はそうではないと主張する。こうした「禁煙がつらいものだ」という考えそのものが「洗脳」の結果なのであって、「洗脳」から目覚めれば「禁煙」への恐怖もなくなるというのだ。確かに、私たち非喫煙者はタバコなしで楽しく暮らしている。「タバコなしの生活」がつらいものであるはずがないではないか。

 この本だけではまだ「洗脳」が完全に解けないという人には、ダメ押しとして、山村修『禁煙の愉しみ』(新潮OH!文庫)も読むことを薦めておこう。私も学生時代には不良ぶって大人への対抗心のようなつもりでタバコを吸ったりもしていた。しかし、不良になるなら、タバコを吸うよりも、本を読む方がいい。(この辺の論理は、永江朗『不良のための読書術』(ちくま文庫)を参照のこと。)だから、今は、喫煙者ではないが、禁煙がこんなに楽しいものなら、「もう一度喫煙者になって禁煙をしてみようかしらん」と思ったりしたほどだ。  (守 一雄)


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