(朝日新聞8/13)
参拝すれば国益損う
ジョセフ・ナイ米元国務次官補


 クリントン米前政権で日米安保再定義に中心的役割を果たしたジョセフ・ナイ米元国務次官補(現ハーバード大ケネデイ行政大学院長)は、朝日新聞記者とのインタビューで、小泉純一浪首相の靖国神社参拝について、「日本の利益にならない」と指摘した。また、「多くの米国人は当惑している」とも語った。靖国神問題について、ブッシュ政権はコメントを控えているが、政権内外の専門家の間では、日本の国際的立場を損ねるとの声が出ている。米国の外交指導者層の代表的存在であるナイ氏の発言は、こうした懸念を代弁したものといえる。
 インタビューの要旨は次の通り。

●参拝の影響
 「すべての国は、経済力や軍事力のようなハードパワーのほかに、文化的、思想的な魅力といったソフトパワーも備えている。日本が過去の問題に取り組まず隣国との関係を悪化すれば、日本自身のソフトパワーを弱める。歴史教科書問題や靖国神社参拝は、日本自身の利益にならない」
 「日米関係には、直接大きな影響はない思う。しかし、日本と韓国、中国との関係への影響があり、米国は日韓の良好な関係を望んでいるのだから、その点で米国の利益にも影響は出る。しかし、それ以上に、米国は、日本が自らを傷つける姿を見たくない」
●首相のこだわり
 「私は小泉首相を積極的に評価している。経済問題に真剣に取り組もうとしている。だからこそ驚いた」
 「米国人の日本人への全体的な評価はまだ肯定的。ところが、その日本が韓国や中国との関係を傷つけようとしている。(参拝は)やるだけの価値のあることだろうかと、多くの米国民は当惑している。国内的に得るものより、国際的な代価の方が恐らく高くつく」
●戦死者をどう悼むか
 「戦死者への敬意は払うべきだ。しかし、30年代の出来事に責任のある人々(A級戦犯)が合祀されたことで、靖国神社がある種のシンボルにった。そこに問題がある。戦争犯罪人が恐ろしいことをやってないとするのは誤りだ。戦死者と戦争犯罪人が同じところにいることが問題だ」
●中韓の反発と日本のナショナリズム
 「過去の歴史を利用して日本に圧力をかけようとする勢力があるのは事実。しかし、だからといって、彼らの主張する歴史がまったく間違っているわけではない」
 「現在の日本は30年代の日本とはまたっく違った文化がある。自分の国にある程度の誇りを持つことは健全なこと。しかし、他者の見方を排斥し、自らだけに価値があると考えると、不健全なものになる」
 「今後については私は悲観的ではない。日本は歴史問題で隣国と折り合いをつけるだろう。それが日本自身の国益にかなっているからだ」

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