日・中マスコミ時評 

 《悪質な報道には毅然たる態度を》

                                       北海道大学大学院広報メディア研究科教授 高井潔司
                                                『日本と中国』2001年4月5日号掲載

 本誌をはじめ友好団体の機関紙はこのところ産経新聞の報道や歴史教科書問題を批判するキャンペーンを続けている。
 本欄でもここ数回、一連の問題を取り上げた。その際、産経掲載の「日中再考」について、必ずしも内容すべてがウソではないだろうし、過剰な反応は慎んだほうが良いと書いた。
  しかし、本誌や国際貿易促進協会の機関紙『国際貿易』の反論を読んでみると、産経連載はずさんな取材と思い込みによって、事実をねじ曲げ、「無責任な伝聞記事」が多い。
  筆者もかつて新聞記者だったので、まさかここまで悪質とは思いも寄らなかった。
  例えば、産経連載は、国貿促の中田理事長について「日本人の子供として終戦を迎え、その後、中国共産党組織に加わり、八路軍の兵士となって戦った経歴を持つとされる。そうした経歴の人物たちが率いる組織の連なりが友好7団体として交流の管理フィルターとなっているのがまだまだ日中間の現実のようなのである」と書く。
  『国際貿易』は次のように反論する。「名前を挙げて記事にしながら、本人への取材も確認もせず、『・・・とされる』、『・・・のようである』と伝聞形式で文を結ぶやり方。もう一つは、こういうやり方では必然的に発生する記述の誤りである」
  中田理事長は「少年学生の身にもかかわらずソ連軍の捕虜収容所に3度監禁された」が、「中国共産党」うんぬんも「八路軍兵士」も事実でなく、「一方的なペンの暴力による人権侵害に等しい記述」だという。そうだとしたら、やはり産経に正式に抗議し、訂正を求めるべきだし、法的措置を含め様々な場を通し、反論していく必要があろう。
  教科書問題では16日付朝日の「私のメディア批評」が指摘しているように「社論の差」が際立った。産経は2度にわたり、朝日新聞を中国や韓国からの外圧を引き出す「ご注進」メディアと決めつける解説記事を掲載した。品のない記事だが、朝日は正面から反論せず、1面で「日本の予感ー2001年のナショナリズム」を連載し、やんわりと反論を展開している。
  さすがに横綱相撲と見る向きもあろうが、メディア批評の筆者、姜尚中東大教授も「他社の社説に対して反駁すべき事があれば、自社の社説で積極的に反論を展開しても良かったのではないか」と述べている。前言を翻すようだが、悪質な報道には毅然たる態度が必要だ。


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