<主張
     産経新聞「日中再考」への反論<上> 
        
日本国際貿易促進協会専務理事 片寄浩紀

  民間の定期交流は必要 中国へ率直に問題提起

 産経新聞の前北京総局長古森義久氏が今年2月6日から「日中再考」第二部−友好の虚実−という記事を同紙で11回連載した。その中で当協会について極めて不正確な言及があるので本紙で反論したい。
 第一に、2月10日の記事「時代錯誤の友好人士」に以下の記述がある。
 「国貿促はソ連や中国という共産主義諸国との貿易促進を目的に1954年に設立され、日本共産党の影響下にあった。だが、66年の日中両共産党の関係断絶で社会党の影響下に入り、国交のまだなかった67年の友好貿易促進の合意では『米帝国主義、日本反動派、ソ連修正主義などを日中共通の敵とする』という議定書にサインするほどの政治性を発揮した」、(訪中代表団に関して)「日本企業のトップを動員しての訪中団を組織して、参勤交代もどきに中国を訪れ、中国側指導者たちと会見し、『友好』によるコネを利用しながら、ビジネスを進めるという対中商法を展開する」、(会費に関して)「国貿促は企業の資本金額や従業員数に比例させるので、大企業では年間500万円とか800万円という額にもなるという」
 ここの部分の事実は以下の通りである。当協会は成立以来今日までに村田省蔵、山本熊一、石橋湛山、藤山愛一郎、櫻内義雄の5人の会長を迎えた。いずれも政財界の指導者、とりわけ自民党の政治家が多い。もちろん中国との関係改善に積極的な政治家とは党派を問わず連絡があるが、特定の単独政党の影響下に入ったことはない。
 重要なことは、当協会が東西冷戦構造のなかで、国交正常化のはるか前から日中貿易の拡大と国交正常化のために努力してきたことである。議定書もこのような情勢の産物であった。
 また、1972年の国交正常化以来、毎年会長を団長とする訪中団を派遣し、中国の指導者たちと会見していることは事実である。だが、これは「友好」を売り物にしているわけではなく、経済協力関係促進のための定期交流であり、その時期に解決すべき問題点についても率直に提起している。古森氏は「参勤交代」と皮肉るが、民間ベースにおいても長期的に定期交流を維持することは、日中関係の安定発展にとって必要なことである。
 会費についても、かつては資本金と貿易総額(従業員数ではない)に比例した時期もあったが、現在では資本金に応じて年額24万円から180万円の範囲で会員の協力を得ている。
 さらに古森氏は、日本企業のある代表の言葉として「国貿促のような対中友好組織はもうその歴史的な使命を終えたのだ、という声はありますね。・・・友好人士は、とにかく中国側との間で問題を起こすことを避けているという傾向があります。日本側として当然主張すべきことも中国側の反発を恐れて口にしない」と書く。
 これも事実に反する。当協会は中国との友好的な経済関係を促進する立場から、誰にもまして中国に率直に問題提起を行ってきた。古くは80年台の中国のプラントキャンセル問題でも、当時の藤山会長が自ら訪中し、解決の道を開いた。最近では日中合弁リース会社のリース債権未払い問題で櫻内会長が朱総理に解決を要請している。



     産経新聞「日中再考」への反論<下> 
                             専務理事 片寄浩紀

  
多い無責任な伝聞記事 政治問題でも見識表明


 第二に、2月8日の記事で当協会の中田理事長の経歴に触れ、以下のように書いている。
 「国貿促の中田氏といえば、日中友好では伝説的な人物である。日本人の子供として終戦を中国で迎え、その後、中国共産党組織に加わり、八路軍兵士となって戦った経歴を持つとされる。そうした経歴の人物たちが率いる組織の連なりが友好七団体として交流の管理フィルターとなっているのが、まだまだ日中間の現実のようなのである。」
 批判すべき点は二つ。一つは、名前を挙げて記事にしながら、本人への取材も確認もせず、「・・・とされる」、「・・・のようである」と伝聞形式で文を結ぶやり方。もう一つは、こういうやり方では必然的に発生する記述の誤りである。
 中田理事長は1945年の5月、当時のわが国の国策により、京都の学校から国家のために動員され、14歳で「満蒙開拓青少年義勇隊」員として黒龍江省の訓練所に入り、敗戦で少年学生の身にもかかわらずソ連軍の捕虜収容所に三度監禁された。
 その後九死に一生を得て、中国農村と延吉、吉林化学工廠で働き、経済復興事業に参加。戦争孤児を探し出し祖国日本へ送り返す仕事もしたし、上海の復旦大学で学んだ後、1958年に帰国した。その後は日中貿易と経済交流に従事し、戦後半世紀にわたり日中民間協力を身をもって実行してきた。「凍土の青春」等の自著も出版している。「中国共産党」も、「八路軍兵士」も事実に反する。これは一方的なペンの暴力による人権侵害に等しい記述である。
 さらに、当協会が日中双方の信頼を得ていることは確かだが、年間百万人以上の日本人が訪中し、二万社に近い日本企業が中国で事業を展開している今日、「交流の管理フィルター」などあり得ない。
 これまで見てきたように古森氏の記事は、名前を明かさない人からの間接取材に頼った不正確、不誠実な文章である。事実に基づく公正な報道をするという新聞記者の基本から大きく外れている。
 ちなみに、同氏は、昨年12月7日の記事で「日中友好森林公園」の「植樹の四割が立ち枯れている」と書いた。これに対し、日本大使館が現状を確認したところ、公園内樹木の活着率は80%であった。こうした誤った記事が百万人以上の読者に配布されていることは恐ろしい。 古森氏は別の記事でも「国貿促とはその名から判断すれば、日中間の貿易を促進するための組織のはずだ。だがその最高責任者は歴史問題では組織として中国側と同じ認識を分かちあうことをためらわずに断言するのである」と述べる。
 しかし、今や経済のグローバル化が進み、異文化圏との交流が深まっている。そして政治(含む歴史)と経済は密接に影響しあう。現在我が国の経済人にとって最も要求されているのは、経済以外の重要問題についても堂々と所論を述べることだと思う。
 経済人に対しても経済の知識だけでなく、全人格と見識が問われる時代になっている。政治問題に対して、中国と我々との認識が一致したからといって、それを批判するのはまさに時代錯誤ではないだろうか。


戻る