「日本と中国」3月5日号より
    「侵略」美化する中学歴史教科書問題

                              高嶋伸欣・琉球大学教授に聞く


 
「新しい歴史をつくる会」主導の白表紙本
 教科書問題が重要局面に


 2002年度から使用される教科書の文部科学省による検定作業が最終段階に入っている。検定の対象となっているのは数十社の教科書発行者から申請された「白表紙本」。そのなかで、現行の歴史教科書を「自虐的」などと批判してきた「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」)の主導で編集された中学歴史教科書に対し、各界から強い危惧の声があがっている。また、韓国や中国などからも批判がでいている。問題のポイントはどこにあるのか、教科書問題に詳しい高嶋伸欣・琉球大学教授(教育学)に話を聞いた。

大詰めを迎えた教科書検定作業
 文部科学省は2002年度から導入する新しい学習指導要領を定め、これに基づく教科書検定の作業が大詰めを迎えています。
 2002年度から使われる教科書は昨年4月に文部大臣(当時)に検定申請が行われ、ほぼ1年間をかけて検定作業が行われてきました。
 3月中には検定の合否が決定し、今年4月から見本本が配布され、7月中には各地の採択地区で、どの会社の教科書を採択するかを集約することになります。これによって、各教科書会社が印刷製造にとりかかるわけです。

「つくる会」歴史教科書が新規参入
 これまで教科書発行会社は、ほぼ決まった顔触れだったのですが、昨年異変が起きました。「新しい歴史教科書をつくる会」の主要メンバーが執筆・編集した中学歴史・公民教科書が検定申請にはじめて名乗りを上げたのです。この教科書の問題は大きくいって二つあります。一つは、この教科書の記述内容自体。もう一つは、「つくる会」が自分達の教科書を採用させるためになりふり構わぬ違法行為まがいのやり方で各地の教育委員会に圧力をかけていることです。

アジア侵略に反省ない歴史観
 例えば、昨年4月の検定申請の段階で、この歴史教科書には、太平洋戦争をアジア解放を目指した「大東亜戦争」としたほか、韓国併合について、「東アジアを安定させる政策として欧米列強から支持された」などと記述しています。つまり、この教科書は、戦前の「皇国史観」を復活させ、アジア侵略への無反省史と大国主義的利己主義と人権・平和感覚の欠如に彩られたもので、そこに内外からの批判が高まっています。

採択狙う異常で危険な政治運動
 それに加えて、この教科書を検定通過−−採択させようと全国に強大な組織が作られ、中央−−地方の政治家や議会を動かし、また発行を推進してきた産経新聞社自らマスコミとして働き、世論を喚起し、ついに昨年末には自分達の意に添わない検定審議会委員の更迭までさせました。
こうした異常な政治的動きには、民主主義に対する脅威を感じざるを得ません。本来、学術研究による専門的な判断や教育実践の積み重ねにより自律的に発展させられるべき教育の営みが、政治運動によって強引にねじ曲げられる危険があるからです。

市民の力で不採択の運動を全国に
 私は今年1月25日と2月19日の2度、「教科書業における特定の不公平な取引方法」の規定に基づいて、この教科書の執筆・編集から出版・採択・販売までの事業を進めている産業経済新聞社・扶桑社・新しい歴史教科書をつくる会の三者に対して、公正取引委員会が厳格な措置を採るよう強く求める申告をしました。
 一方、仙台市では、この歴史教科書採択を狙い、行政に圧力をかけようとして「日本会議」(旧称「日本を守る国民会議」)が市議会に提出した請願書を、昨年12月に市民運動の力で取り下げさせることに成功しました。その際に、友好都市関係にある長春市との友好関係を大事に守るかどうかが、市議会議員に判断を迫る大きなポイントになったそうです。
 この歴史教科書が検定に合格するかどうかは予断を許しませんが、万一そのよう状況になっても、この歴史教科書を実際に使用するかどうかは各地の地方自治体の判断に委ねられているのです。この意味から、仙台市の経験が全国に広がることを期待しています。(談)

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