<1997年1月24日 日中友好新春座談会>
      日中国交正常化25周年を迎えて
                        長野放送副社長・元産経新聞国際担当取締役
                                阿部 穆  先生

 日中国交正常化の際の特派員として田中総理に同行取材した関係もあり、産経新聞社の中では日中友好促進派として努力してきた一人であり友好協会の皆さんとこうしてお会いできることを光栄に思う。また、現在勤務している長野放送も北京電視台(北京テレビ局)との友好関係があり、毎年研修生受け入れを行っているなど社としても深い関わりがある。
 今年は、中国にとって大きな出来事が次々を予定されている。まず、7月1日の香港返還、秋の第15回党大会、そして日中関係で言えば国交正常化25周年などがある。香港返還は「一国二制度」の方針のもと、イギリスの植民地支配に終止符をうち、返還後大人の中国はうまく呑み込んでいくだろうと思う。また、15回党大会ではポストケ小平・21世紀に向けた指導体制づくりなどが進められていくだろう。
 日中国交正常化25周年を迎えるにあたり、今日の日中関係の発展には感慨深いものがある。日中国交正常化に尽力された方で肖向前先生という方が居られるが、最近サイマル出版から「永遠の隣国として」という本を出版された。その中には1974年に長野県を訪問したときの話なども紹介されているが、特に「水を飲むとき井戸を掘った人の事を忘れてはならない」として、周恩来・廖承志・郭沫若・孫平化の各氏、日本では村松謙三・高崎達之助・田中角栄・大平正芳氏らの業績が紹介されており、大変興味深く読んだ。25年前国交正常化が達成された陰には、周恩来総理の日中関係正常化に対する並々ならない執念があった。当時は四人組の時代であり、その執拗な嫌がらせ妨害の中にあり、更に不治の病に侵されつつあったにもかかわらず、国交正常化への執念をもって毛沢東主席の了承を取り付け、国交正常化を実現した。更に後のケ小平の改革・開放へのルートを敷いたことも、大変な功績だと思う。周恩来総理も廖承志・郭沫若・孫平化・肖向前氏ら日中友好促進に熱意を持っている人の多くが日本に留学体験のある人たちだということに留意したい。
 日中関係を考えるとき、歴史認識の問題は大変重要だ。最近、中山元外相が中国を訪問したそうだが、前回訪中したときと雰囲気が違っており、日本に対する冷たい視線を感じたと言っていた。真の相互信頼関係を築くためにはきちんとした歴史の反省を踏まえて付き合っていくことが欠かせない。
 昨年、日中間には、地下核実験問題・尖閣諸島(釣魚台)問題・靖国公式参拝問題などが次々と起こり、ぎくしゃくした雰囲気であった。11月のAPECでの橋本首相と江沢民主席との会談によってようやく両国関係は改善していくこととなった。無償援助問題などまだ残っているが、25周年の今年は明るい雰囲気の中で迎える事ができた。米中関係はというと、関係緊密化がもっと早いスピードで進みつつある。すでに江沢民主席の訪米が決まっている。アメリカは今まで対中国で5Tが問題だとしてきた。台湾問題・チベット問題・貿易(TRADE)摩擦・天安門(人権問題)・テクノロジー(ミサイルなどのハイテク兵器のパキスタンなどへの供与)がそれであり、特に議会でこれを問題にしてきたが、クリントン政権はこのところ、中国が東アジア−−北朝鮮・カンボジア・ミヤンマー・イラン・イラク更に核も含めて、安定の鍵を握っているという認識にたって関係改善に動いている。経済関係促進の要望が背景に有ると思われるが、注目される動きといえよう。
 日米中のこの三角関係が「三国志」のような駆け引きと騙しあいの関係にならず、三国が協力していかなければならない。日米安保も中国敵視ではないということを充分説明し、不信を抱かれないように行動する必要があろう。朝鮮半島やアジア太平洋の安定平和にとって、日米中の協力は必要不可欠である。そういった意味からもWTO(世界貿易機構)への中国加盟が実現する事が望ましい。
 かつて、大平総理は、隣国は選択できないと言ったことがある。日本と中国は隣国同士であり、引っ越していくことはできず、お互いに尊重しあって協力してく事が賢明だ。日本は集中や深みがあり、中国は広がりと潜在力がある。お互いの長所を活かして付き合っていく事が必要だと思う。
 最後に、先に触れた肖向前先生の本の中で1974年長野県を訪問したときの印象のところを紹介したい。−−(略)−−これは中国人の中にも日本事情を理解している人がいることを示している。お互いが相手を理解することに努め、信頼関係を深めるべく努力していくことが大切だ。友好協会の皆様の地道な努力に敬意を表し話を終えたい。(以上)

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