時評(2001年6月12日 国際貿易)

新教科書は反国益的

              自己総括し世界へ発信を

  年初以来、中学用「新しい歴史教科書」(扶桑社)をめぐって国内外で議論が起こった。韓国、中国からは検定合格後の内容に具体的な修正要求が出された。8月中旬までに全国の学校は8種類の中から来年どれを採用するか決定する。6月4日、この教科書の「市販本」が前例を破り全国の書店で発売された。
  これを一読して感じたことは、@天皇を重視する思想、A自民族中心主義、B過去の無批判な正当化の3点である。
  @については、本文の「日本の神話」の節で国土生成から神武天皇に至伝承を記述。さらに「神武天皇の東征」、「日本武尊と弟橘媛」、「源の頼朝と足利義満」(天皇への態度が対照的だった)、「昭和天皇ー国民とともに歩まれた生涯」といったコラムで天皇の姿を強調している。
  Aについては、古代では「遣隋使は隋にとっては朝貢使だが、太子は国書の文面で対等の立場を強調することで、隋には決して服属しないという決意表明を行った」としながら、朝鮮からの使節来日については「新羅と百済が日本に朝貢した」と断定している。
  中世の倭寇に関しては「日本人のほかに朝鮮人も多く含まれていた」、「再び倭寇の活動が盛んになったが、構成員のほとんどは中国人だった」と書き、倭寇発生の背景や原因の説明はない。
  明治維新後の不平等条約改正の苦闘は詳細に説明するが、明治初期に結ばれた「日朝修好条規」は「朝鮮側に不平等な条約だった」と一言で片付けている。
  このような日本が国益を守ることを口実に、西欧列強と肩を並べてアジアでの勢力を拡大し、戦争に突入した段階で、「大東亜共栄圏」のスローガンを掲げても、アジアの人々が賛同しないものは自明の理である。それを「日本の緒戦の勝利は東南アジアやインドの人々に独立への夢と勇気を育んだ」と記述する。
  この@とAの基調は当然B過去の無批判な正当化に帰結する。巻頭で「歴史を学ぶとは、今の時代の基準から見て、過去の不正や不公平を裁いたり、告発したりすることと同じではない」と書いているが、これは謬論だ。過去の遺産の中から、今の基準からみて良いものを継承し、悪いものははっきりと否定し、より良い未来への基礎とすることこそ歴史を学ぶ意義であろう。
  21世紀の今日、社会のあらゆる面でグローバル化が進み、国際協調と各国内での外国人との共生が求められている。未来の日本を背負う青年を育む教材がこのような独りよがりのものでは困る。こういう教科書は国益に反するものと言わざるを得ない。
  今、日本人自身が20世紀の日本の歴史について真剣に議論し、何が良くて何が悪かったかについて共通認識を形成し、それを内外に明示すべきである。
  根本問題を徹底的に議論しないからこそ、教科書や国連の平和維持活動等で諸外国の不信感を引き起こす。今回の参議員選挙候補者は少なくともこれらについて自己の見解を明確に表明するべきだと思う。(K・K)
       
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