陳健前駐日大使  朝日新聞「私の視点」に寄稿

中国と日本ーー障害あるが前途悲観せずー

帰国を前に日本での3年間を振りかえる

  光陰矢のごとし。私が日本に来てから、あっという間に3年が過ぎた。まもなくの離任に際し、長年に渡って中日関係の発展を支持してきた日本各界の友人に心から謝意を表したい。
  日本は私に忘れ難い印象を残した。2月の梅、4月の桜、秋風にそよぐ紅葉。自然は美しく、気候は穏やか。料理や温泉といった文化は世界でも独特だ。人々は礼儀正しく、きめ細かく、勤勉だ。こうした流儀は学ぶべき点が多い。
  中日関係を巡り私は時に喜び、時に憂えた。3年来、両国の指導者は頻繁に会談し、平和と発展のための友好協力のパートナーシップを確かなものにした。経済、貿易協力はかつてない規模に成長し、去年の中日貿易は史上最高の831億6000万ドルに達した。人材交流は多様、広範で、去年は日本から5000人の交流使節団が北京を訪れた。両国の対話は安保などの分野に広がり、地域と国際レベルの協調も拡大している。
  だが、近頃の中日関係は、その政治的基礎といえる歴史問題と台湾問題をめぐり深刻な障害が持ち上がり、政治状況を悪化させている。なぜ戦後50年も経った今、日本が軍国主義を粉飾する歴史教科書の出版を認め、A級戦犯がまつられている靖国神社に首相が参拝するといった問題が浮上するのか、中国人には理解できない。
  中国の反発は日本への内政干渉だとの声がある。両国の人々の感情は少しずつ遠のき始めている。こうした状況は残念でならない。
  こうした問題にはさまざまな原因がある。私が日本を観察した3年の間に、日本国内のナショナリズムが高まったことは事実だ。経済のグローバル化が加速する中で、ナショナリズムの上昇はグローバル化に対する反動である。確かに民族の文化を大切にせず、優れた伝統を盛り立てていかなければ、グローバル化は世界の米国化を招くだろう。
  ただし、民族の伝統には真偽と優劣の区分が必要で、すべてを肯定すべきではない。愛国精神を発揚する際は同時に国際協調への注意が必要だ。自国の民族感情を重視する時は隣国の民族感情への配慮も必要だ。行き過ぎた偏狭な民族主義は避けなければならない。
  最近、ブッシュ米政権による対中政策の調整と、それが日本に及ぼす影響に関心が高まっている。ブッシュ政権は中国を戦略的競争相手と位置付けている。報道によると、米国務省と国防総省の高官が与党3党の幹事長に、中国はアジア太平洋安保にとって最大の潜在的な不安定要素であり、中国問題で態度を明確にするよう求めたという。小泉首相は近く訪米するが、日米首脳会談で中・米・日3カ国関係に絡んだこの重大な問題においていかなる選択をしようと、中日関係に長期的影響を及ぼす。
  中日両国は一衣帯水の隣人関係にあり、これは永久に不変だ。平和的な付き合い、友好と協力は両国の人々の利益になるし、アジア太平洋地域の平和と繁栄にもつながる。それは結局のところ米国の人々の利益とも符合するのだ。
  私は中日関係の前途を悲観していない。双方は次のことを心がけるべきだ。政治上、お互いの民族感情を重視し、尊重する。安保上、お互いがアジア太平洋地域の平和と安定にとってプラスの存在であると見なす。経済上、地域の繁栄と発展のために協力するパートナーとなる。
  これが中日両国の有志の人たちが、今後ともに努力していく時の着眼点だと私は思う。
(2001年6月19日付け朝日新聞より)

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