中国の現状と中日経済協力
劉鳳華・中国国際貿易促進委員会駐日代表処首席代表
(2003年6月17日長野県日中経済交流促進協議会総会にて)
長野県日中経済交流促進協議会総会の開催に当たり、わたしは中国国際貿易促進委員会にかわりまして心からお祝いを申し上げる次第でございます。また、本日のこの機会に数多くの長野県の関係者及び古い友人の方々とお会いできて、非常にうれしく思っております。思えば、長野県とのかかわりは20数年にもさかのぼり、北京で長野県経済ミッションを迎えたのがきっかけでした。私が初めて長野県を訪れたのは冬のオリンピックの時でした。心温まるおもてなしを受けながら、ホームステイを初めて体験させて頂きました。その時のこと未だに私の記憶の中に新しいものがあります。2度目は去年の9月伊那自動車教習所での2週間の勉強生活でした。おかげさまで、その後の東京都運転免許試験で一発合格したのも教習所の教えが非常に良かったのではないかと思います。そういうことがありまして長野県は非常に親しみを感じる所でございます。時間の関係で、今の話が今日長長と話すテーマでもないので、冒頭のご挨拶とさていただきます。
このたび、協議会事務局から「協議会の総会もあり、会員が大勢いらっしゃるので、中国の現状と中日経済協力について是非講演をしてほしい」といわれ、私は大変喜んでお招きを受け入れたのではありますが、非常に心配することが二つあります。一つは、私の日本語は少し話せる程度で、日本語で講演することは非常に難しいことです。表現は正確にできません。ご在席の皆様には大変申し訳ないのがその一つであります。二つ目は、日本語のレベルよりももっと重要なのは講演の内容で、皆様のご期待に充分添えることができるかどうかです。お招きを受け入れた以上、責任の重さを実感しながら、今日敢えて私なりの感想と考え方をお話したいと思
います。
では、まず中国の現状についてお話したいと思います。
去年は中国の社会と経済発展にとって特別な意義を持つ一年でした。中国共産党第16回代表大会は11月北京で成功裏に開催され、今世紀の最初の20年間における新たな奮闘の目標を打ち出され、2020年にGDPを4倍増させ、全面的に「ゆとりのある社会」を作り上げることを提示されました。具体的な中身は以下の四つになるでしょう。その一つはGDPを2020年まで2000年に比べて4倍増にし、基本的に工業化を実現し、都市人口の比重が比較的大幅に向上し、社会保障体制も健全になり、人民がより裕福な暮らしができるようにします。第二に社会主義民主が一層完全なものとなり、社会主義法制がさらに完備され、法律によって国を治めるという基本的な方策が全面的に実施され、人民の政治、経済、文化の権益が着実に尊重され、保障されるようにします。第三に民族全体の思想、道徳素質、科学、文化素質や健康素質を著しく向上させることです。四つ目は持続可能な発展能力が絶えず増強し、生態環境が改善され、資源の利用の効率が著しく引き上げられるようにすることです。この奮闘目標は広大であると同時に、相当厳しい目標でもあります。目標を実現するためには、中国は先例や習慣で固められた古い殻を徹底的に打ち破り、そこから新しい時代の進路を切り開かなければならない。改革、開放には新しい局面がなければならない。社会全体の諸活動は新たな措置を打ち出さなければならない。以上の四つは今後20年間において中国人が努力するものです。中国が全面的にゆとりのある社会を実現すれば、社会経済が一層繁栄し、人民の生活がより充実し、国際社会に対する貢献も一層大きくなるでしょう。
それから、今回の大会は中国共産党の中央機関を調整し、すなわち胡錦涛氏を総書記とする党中央が選出されたわけです。皆様ご承知のように、中国共産党中央委員は198人で、投票によって決まりました。激しい競争の中で、一部の人は落選され、一部の人は当選されることは言うまでもないが、今回の人事調整は大幅な若返りができたことを、わたしは実感します。まさにこうした若返りから中国の未来と望みが見えてくるような気がします。朱容基さんは精華大学の出身です。今度、江沢民さんの跡を引き継ぐ胡錦涛さんも精華大学の出身です。中国はこういう科学技術系の人が最高指導者になっていくところに最近の特色と言えましょう。
少し余談ですが、中国共産党には四枚の旗印があります。先ずはマルクス主義。その次は革命時代の毛沢東思想。そして三枚目の旗印はケ小平理論と申します。四枚目は「三つの代表」という重要思想、これは江沢民さんが打ち出したものです。この「三つの代表」というのは、すなわち中国共産党は中国の先進的な生産力の発展の要請を代表し、中国の先進的な文化の前進方向を代表し、中国の最も広範な人民の根本利益を代表するものであります。今後の20年において中国は主にこの重要思想に従って中国の現代化建設に取り組んでいくことでしょう。
次に中国の経済について少しお話したいと思います。
2002年中国のGDPは既に1.2兆米ドルを超え、1979年より4倍近く増えました。年平均伸び率は9.3%で、人々の生活は衣食問題を一応解決し、ゆとりのあるレベルへと歴史的飛躍を成し遂げました。中国の市場は過去の売り手市場から現在の買い手市場へと変わってきています。社会主義市場経済体制の確立によって、市場が資源の配置の中で基幹的役割を果たすようになり、90%の商品やサービスの価格が市場によって決まります。多種類の所有制の経済が共同に発展する構図が既に形成されており、非公有制経済が勢いよく発展し、国民経済を支える重要な力となっています。
市場規模も絶えず拡大され、1978年から2002年までに中国社会の消費物資小売り総額は年平均で8.2%増え、2002年にはそれが4兆元(4819億ドル)を突破しました。中国の市場規模は既に世界でも上位に上がり、今後の20年依然として巨大な発展の潜在力が備えられています。2002年中国の鋼材消費量は世界生産高の4分の1に相当し、セメント使用料は世界生産高の40パーセント以上を占めました。高速道路は2.5万キロまで増加し、世界で第二位;固定電話の加入件数も四億件を超え世界第一位;インターネット利用数は5910万人で世界の第二位です。中国経済発展は内需拡大に頼るところが大きく、世界経済の波風に強いところがあると言えましょう。
WTO加盟一年生の中国経済は世界経済との結びつきがより一層密接になりました。輸出入総額は2002年に既に6200億米ドルに登り、世界第5位;外か準備高は2500億ドルに達し、世界第2位となりました。外資導入の面においては、9年間連続して発展途上国の第一位となっています。2002年は527.4億米ドル。2002年までに累計2万件、契約金額8280.6億米ドル、実質金額は4479.66億米ドル。
三峡ダム水力発電所、西の天然ガスを東に送るパイプライン、チベットに入る鉄道、南の揚子江の水を北に引き込むいわゆる「南水北調」を代表する一連の資源を開発する世界級のプロジェクトが全面的に発足しております。これらのプロジェクトの建設は、中国経済発展のネックをなくし、更なる発展の基盤を保証するものです。科学技術教育による国家振興政策、中西部大開発、そして持続可能な発展という3大戦略が実施され、著しい効果を挙げるようになっております。
こうした国情にかんがみて、中国は今世紀の最初の20年間における4倍増の目標を打ち出しました。これは中国の市場規模が4倍増の基礎の下に確立されるのでありましょう。言うまでもなく、中国は確かに世界で最も大きな市場の潜在力を有している国であります。市場の潜在力を決定する要素は三つあると思います。
第一は人口です。これは市場規模の基盤です。中国には13億の人口があり、世界最大の市場となり得ると思います。
第二は、経済成長率です。これは潜在的な市場が現実の市場に変わる速度を決定するものです。これまでの20年間、中国経済は高度成長を維持してきましたが、ここ2年間、世界経済は低迷に追いやられている中で、中国経済の順調な発展は、世界経済の発展に大きな活力を注いでいます。海外の専門家の推測では、2002年の世界経済総量の17.5%は中国経済の増量によるもので、その貢献度合いは、アメリカに次ぎ二番目となっています。また、世界貿易の増加率への中国の寄与度は29%にまで達したといわれています。
第三は、経済貿易政策です。これは市場が世界経済に寄与する度合いを決定するものです。閉鎖的な政策を取っている限り、どんなに人口が多くても、またどんなに経済成長率が高くても、世界経済に対して重要な貢献をすることはできません。中国政府は過去20年間断固として改革開放政策を実施し、モノ・資本・技術と人的資源を世界に求めてきました。1978年の輸入総額は100億ドルぐらいでしたが、97年には1500億ドルまで増え、昨年は3000億ドルに近づきました。世界に対してますます大きな市場を提供し、中国の発展を国際経済関係におけるポジティブな要素としてきたのであります。
過去の20年間において、中国経済は確かに大きく発展してきました。しかし現在、中国のGDPはわずか日本の4分の1、アメリカの8分の1に過ぎません。そして中国の一人あたりのGDPは日本の2.3%に過ぎません。従って、我々は中国自身が経済建設で収めた成果に対しては大変冷静な見方を持っております。中国の現代化の実現はまだ長い道のりがあり、中国はさらに努力しなければなりません。その過程で日本の皆様とこれまでの経済協力の経験を生かし、更に広い分野での協力を強め、大きな成果を求めていきたいと思います。それは中国経済の発展のみならず、日本の発展にも繋がるのでございます。
さて、次に中日経済協力についてお話を続けたいと思います。
2002年は、中国がWTO加盟後の一年目に当たり、中日経済交流に新たな特徴が見られるようになりました。
中日貿易の全体が成長し、中国の対日輸出の増加が緩んだものの、日本からの輸入が大幅に増加し、中国は日本の対外貿易に占める割合が高くなり、日本の重要な相手国になりつつあります。
中国はWTO加盟後、市場アクセスがし易くなり、日本からの輸入は多岐にわたる分野へと広がり、金額も増加し、勢いを増しているのが特徴であります。日本の対外貿易が減少している中、中国への輸出額の増大が大きな明るいポイントとなっています。これも、中国のWTO加盟により市場アクセスが潤滑化する中、日本が大いに利益をうけていることを意味しています。
貿易額で見ると、2002年は2001年より、141.6億米ドル増え、初めて1000億米ドルの記録を突破しました。そのうち、中国の輸入増は106.7億ドル、輸出額は34.9億ドルで、明らかに2002年の貿易増加は中国の輸入増によるところが大きいと言えます。
輸出と輸入の品目で見ると、中国の対日輸入商品のうち、機械設備と輸送用機器が最も多く、全体の60%弱を占めています。増加率で見ると、鋼材が41.9%増、集積回路(IC)と電子部品が29.3%増、自動車が74.8%増、自動データ処理機器の部品が29.4%増と、大幅に増加した品目は数多くありました。
2002年は日本企業の中国投資規模拡大や投資目的の多様化がみられています。今まで日本の主な対中投資形態は加工貿易でした。中国経済の急速な発展と市場消費レベルの向上およびWTO加盟による市場アクセスによって、より沢山の企業が中国国内での販売を目的とした投資に移行しています。自動車と自動車用鋼板案件(プロジェクト)は、現在著しく成長を遂げている中国市場に目をつけた投資であると言えます。
家庭用電機業界は日本が早くから対中投資を始めた分野です。中国国内生産水準の引き上げと、日本国内の競争力低下につれて、大手家電メーカーは多数中国に生産拠点を置き、ある程度産業すみわけの形が形成されつつあります。その上に、需要の高い地域で、開発を進める動向も出ています。北京、上海、蘇州に研究開発機関を設けて、テレビの開発や、デジタルカメラ、エアコン、洗濯機、冷蔵庫などの開発を進めています。
自動車産業の投資がスタートし、関連企業の投資もつられて展開されています。中国がWTO加盟後、自動車マーケットも著しく発展しています。個人所有の自動車需要の高まりが、当初の予想をはるかに超え、約600万台になっております。日本の自動車メーカーは中国のWTO加盟を機に市場参入の準備が早くからなされており、成果をあげています。大手メーカーは相次いで中国の自動車メーカーと連携し、多品種の生産を計画し、中国の自動車市場での遅れを取り戻し、相当のシェアの確保を求めているのです。中国の市場を目標にする基本的な戦略がもう出来上がっていると言えます。
中日間の経済交流は全般で言えば、順調に発展していますが、正しく認識、検討すべき問題もいくつかあります。
(1)今後の中日経済協力の発展方向を分析するに当たり、先ず認識しなければならないのは、経済のグローバル化時代には、いかなる国の発展にも、他国との協力が不可欠であります。相手の発展により生じたチャンスをうまく利用し、共存を求めることは、今後の長期にわたる中日協力の基本であります。いままでの中日協力はWIN・WIN効果が証明されてきました。今後の協力は各自の経済発展に従来以上に役立つものとなりましょう。
アジア通貨危機と去年の情勢も証明したように中国の経済発展は世界市場の一層の拡大と世界経済地域経済の安定要因の増加を意味しています。中国が更に発展し、裕福になればこそ、中国市場はより現実的ビジネス価値が持たれるでしょう。即ち、中国経済の持続的な高度成長は対日輸入拡大の前提であります。中国に投資し、現地で生産することも両国の経済環境とコスト競争力による自然の流れであり、日本製品の競争力の確保に重要であり、両国間の貿易の拡大に寄与するものであります。
(2)中国のWTO加盟は、中国にとってチャンスであると同時に、挑戦の意味も大きい。世界にとって中国のWTO加盟を機にもたらされたチャンスは最も重要な歴史的なチャンスであり、逃しては2度と戻せない好機であります。当面、先進諸国にせよ、発展途上国にせよ、中国の主要貿易相手国にせよ、そうでない国にせよ、皆それぞれ違った角度と次元のから中国のWTO加盟によってもたらされたビジネスチャンスの利用を研究しています。
日本は中国最大の貿易パートナーであります。世界銀行の報告によりますと、西側の諸国のうち、日本は中国のWTO加盟で最も恵まれる国であります。貿易分野を挙げますと、当面の日本の対中輸出構造を分析すれば、中国の関税引き下げと市場アクセス拡大の対象品目には、日本の競争力の強い品目が大半であり、日本の対中輸出の拡大は当然のことであります。しかし、チャンスは確かに存在しているが、うまく利用できるかどうかは、人間の努力によるものであります。というのは、WTO加盟後の中国市場では、競争と挑戦が一層激しくなり、外国企業と中国企業との間の競争もあれば、外国企業同士の競争もあります。競争は発展を促進すると同時に、弱肉強食(強いものの成功と弱いものの敗退)も加速させます。中国と日本の経済協力の歴史は長く、協力の基盤はしっかりできており、人的交流も頻繁で広範囲に及びます。中日両国が密接に連携し、不信を回避し、一層開拓、健闘しさえすれば、中国のWTO加盟後の中日経済協力が更に深みをもとめて発展できると固く信じます。
(3)中日間の貿易摩擦についてですが、中日貿易は、規模の拡大と構造調整の中、貿易トラブルもしくは摩擦が生じることは不可避なものであります。しかし、全体から見れば、中日経済協力の舞台は競争より大きいと言えます。私がここで強調したいのは、中日経済協力には鮮明な特徴もあります。中国製品の対日輸出の増加は日本企業の対中投資、技術指導、原料持込み加工によりだんだん拡大してきた経緯があり、両国間の貿易摩擦の解決に当たり、それを十分に配慮すべきだと思います。十分に協議し、双方の納得する解決案を求めなければならない。両国の協力にはいかなるトラブル、摩擦や問題が生じても、双方が大局を重んじ、相互理解さえすれば、いずれも解決できるものと信じます。
長年の努力により、中日両国の経済協力は既に満足すべき成果をあげ、経験も積み、艶やかな「ハネムーン」からしっかりした「成熟した関係を築く時期」へと転換を果たしました。今後の協力は更に広い分野と深みのある次元で展開されるでしょう。両国は、産業のすみわけ・協力、地域協力といった課題を積極的に検討し、地域経済における役割を十分に果たし、地域協力を促進すると共に、自国の発展を図るべきではないかと思います。
(サーズについて)
新型肺炎(サーズ)の影響についてですが、サーズは人類がまだ完全には認識していない伝染病で、発生当初、中国政府は感染の重大性に対する認識が足りず、公衆衛生システム欠陥があり、対策が一定期間、受身の状態でした。
中国政府はサーズの挑戦性をすぐに認識し、困難に敢然と立ち向かい、強く責任を負う政府として、一連の措置を迅速かつ果断にとりました。現在中国の対策は基本的に秩序ある軌道に乗っています。感染状況は比較的安定し、おちついてきています。中国は人口が多く、移動も多く、その困難性、複雑性、反復性を深く認識しており、決して油断することはないでしょう。
今月の3日、中日韓三国と東南アジア諸国衛生当局者と専門家らは北京でサーズに関する国際シンポジウムを開きました。このシンポジウムでの情報交換によって、治療法やワクチン開発が加速されると信じています。
時間が参りましたので、終わりに長野県のますますのご発展を心からお祈りして、私の話を終わらせていただきます。最後までご静聴ありがとうございました。
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