日・中マスコミ時評
 偏見でなく、現場の感覚を
  
−ブッシュ大統領訪中に思う
      ■北海道大学大学院国際広報メディア研究科教授 高井潔司

 ブッシュ米大統領が日本に続いて韓国、中国を歴訪した。2月22日の日本各紙は1面だけでなく、3面、国際面を使って報道した。率直に言って1面の本文記事が地味なわりに、解説原稿は対立点ばかりを取り上げバランスを欠いていた。
 1面の扱いが小さかったのは、ブッシュ大統領が昨年10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)に出席し、米中両国首脳が顔合わせを済ませ、テロ対策での協力など協調の方向がすでに見えているからといえよう。
 ならば、なぜ本文記事を受ける解説原稿がそろいもそろって「ズレも鮮明『悪の枢軸』、反テロ戦争、人権問題…」(読売)「米中すれ違い」(朝日)「友好と緊張交錯」(毎日)と、後ろ向きの側面ばかりを強調するのか。
 おそらく、記者の間に、テロや人権で米国に協力しない中国を、遅れた体制、強圧的な体制と見なし、「将来的なアジアの覇権をめぐる深い疑念が残り続ける」(朝日)との見方があるからだろう。
 もちろん対立の側面はある。だが、米中関係を「競争的関係」と決めつけたブッシュ政権の誕生時にこのような和解の旅をこれほど早く迎えると、誰が予想できただろうか。江沢民国家主席の後継者と目される胡錦涛副主席の早期訪米、また江沢民自身の訪米も決まり、長期的な対話のレールが敷かれた。「両国関係の長期的安定を目指していくことを表向き強調した」(読売)の見方こそ「表面的」ではないか。
 そもそもブッシュ大統領の「悪の枢軸」論など黙って聞いている国は、世界でも日本くらいのもの。中国が支持しないからといって、両国にズレがあるという論調こそズレている。米中両国の経済補完関係は明らかであり、中国には「過度の依存は不安」(朝日)の声があるほどだ。ズレがあっても、ブッシュ大統領が北京を訪問し、両首脳の共同記者会見や清華大学でのブッシュ大統領の講演がそのままテレビを通じて、中国国内で中継された事実の意味の方が重い。
 こんな論調だから清華大学での講演記事も、中国紙が台湾問題などでの中国批判を伝えなかったという記事がメーンになってしまう。
 むしろ東京新聞のように「米大統領演説に学生反発」「自画自賛過ぎる 価値観押し付け」といった現場の声を聞きたい。中国人としては「中国は確かに遅れた面もあるが、バカにされるいわれはなく特色もある」が正常な感覚だろう。


戻る