日中の未来どこに
  −「新日中友好21世紀委員会」の両国座長のインタビュー

 「日中の未来どこに」という大見出しで5月11日の朝日新聞に「新日中友好21世紀委員会」の両国座長のインタビュー記事が載っていた。大局的観点に立って日中関係を考え進めて行くとの趣旨が両氏の発言から伝わってくる。今後の日中関係を考える上で貴重な提言が含まれていると思われるので、ここに紹介させていただく

日中間のギクシャクした雰囲気がなかなか収まらない。小泉首相が続ける靖国神社参拝、尖閣諸島への中国人上陸事件……。火種はつきないが、経済関係は好調だ。「未来志向の日中関係」をどこに見出せばいいのか。昨年、日中両首脳の合意で発足した「新日中友好21世紀委員会」の日中双方の座長に聞いた。

小林陽太郎氏 <歴史問題の整理が必要>
――日中双方とも個性的なメンバーが集まりましたね。
 「日本側には中国問題の専門家が少ない。向井千秋さんは中国での初会合で『宇宙から何回も見たけれど、地に足をおろすのは初めてです』と言っていた。中国側もジャーナリストが2人いる。小泉さんと胡錦涛さんの言う『日中関係にこだわらず、大局的に先を見る』意味で面白い顔ぶれだ」
――尖閣諸島の中国人上陸問題で、また日中間に波風が立ちました。
 「あの後に川口外相が訪中し、結果的に双方の当局が非常に冷静に扱ったという気がする。日中関係の成熟度は、ああいう問題を、極端な形で扱うというレベルを越しつつあるのではないか」
――小泉首相の靖国神社参拝が、日中関係を冷え込ませる原因となっていることは否めません。
 「小泉さんが『個人の思い』として参拝することに、共感を持つ人もたくさんいる。しかし首相の地位にある人が、国と国との関係で相手の政府が『考えてくれ』という問題を、『私的』と位置づけることには無理があると、私は思う」
 「官房長官の諮問を受けた懇談会で(無宗教の追悼施設が必要だとする)報告が出ている。ちゃんと結論を出す必要がある。委員会でも歴史問題もきちんと整理したい」
――両国の国民感情は複雑で、ナショナリズムがぶつかり合う構図になりがちです。
 「中国の中でも、中国政府への批判もたくさんある。それは中国がかつてに比べて極めてオープンになっていることの一つの証左で、歓迎すべきことだ。ただ逆に言えば、いろんなことが、こちらの考え方とかけ離れた形で問題になるリスクもある。」
 「昨年訪中した際、唐家旋さん(前外相)が両国関係を『政冷経熱』と言っていた。政治関係は冷えていて、経済はホットだ、と。私は『経済が政治を温めていくこともあり得るんじゃないか』と申し上げた」
――日中関係がギクシャクする一方、日米はかつてなく良好だと言われます。日米中の三角関係はしばしば、ゼロサムゲームだと言われますが。
 「中国は国連安保理常任理事国として、米国などと肩を並べる。北朝鮮の核に関する6者協議でも、米国も北朝鮮も韓国も、実は中国に期待している。なんだかんだ言いながら、中国は地域的な『仕切り役』を期待され、それができる力をだんだんつけてきている」
 「一方、米国は今後も大事なパートナーであり続ける。ただ今の米国では、『力があるうちに徹底的に使うべきだ』というやり方がギラギラと出過ぎていて、世界の多くの国々を敵に回しかねない。米国内にも『もっとバランスのとれた、ソフトパワーの発揮の仕方がある』という人も少なくない。そういう人々を視野に中国との対話を太くしていくことは、決してゼロサムではなく、新しい日米関係をつくり、日米共同で中国を後押しし、発展していくことにつながるのではないか」
 「日本も『とにかくついていきますよ』という従来型の日米関係にこだわらず、是々非々的な面を取り入れた方がはるかに生産的だし、日本の国益からも望ましいのではないか」
(聞き手=中村史郎)

鄭必堅氏 <アジアとの共存に好機>
――昨年11月に鄭さんが、周辺国に脅威を与えずに発展をめざすという「中国の平和的台頭」を提唱して以来、胡錦涛主席ら現指導部はたびたび演説で引用しています。日中関係にこの考え方をどう生かせますか。
 「『平和的台頭』は一時の思いつきではない。(中国が改革・開放政策に転じた)78年の共産党11期3中全会以来、歩んできた道だ。生産力を発展させ、経済のグローバル化と結びつき、世界やアジア太平洋地域の平和と安定をめざす勢力になろうという考え方だ」
 「日本も戦後、平和の道を歩んで来た。中日2千年の歴史で今のように両国が同時に栄えた時期はない。初めて迎えた局面でどうつき合うべきか、古い書物を見ても答えは見つからない」
 「もう一つ、新たな局面がある。アジア全体の台頭だ。我々がアジアとうまくつき合えば、千載一遇か、もっと貴重な『二千載一遇』のチャンスをものにできる。二つの新局面から読み取るべきは何か。中日関係をぜひ良くすることだ」
――歴史問題や尖閣諸島の上陸事件などで、両国の国民感情は互いに反発しています。
 「カギを握るのは政治家だ。率直に言って、国民感情が冷え込む主な原因は歴史問題だ。日本の重要な政治家が、何度もA級戦犯をまつる靖国神社に参拝し、中国人の感情をひどく傷つけている。参拝は歴史や文化、日本の内政だとは言えない。靖国神社には特殊な歴史がある。A級戦犯が中国や韓国、アジアの人々に何をし、どんな結果をもたらしたか。もう議論の必要さえないでしょう」
 「釣魚島(尖閣諸島・魚釣島の中国名)は中国固有の領土だが、主権をめぐる争いがあることも知っている。ケ小平氏は争いを棚上げして共同開発しようと言った。歴史問題も『歴史を鏡に未来に向かう』なら、解決できる。あとは実行するかしないかの問題だ」
 「メディアに望みたいのは、問題を情緒的に取り上げないことだ。両国民の不満をあおれば、火に油を注ぐことになる」
――アジア太平洋や世界で、両国はどんな役割を果たせるでしょうか。
 「平和と安定を守る勢力として互いに補い合い、利益を得て、一緒に勝つことができる。中日を自由貿易地域とする構想を持つべきだ。中日韓や、ASEAN(東南アジア諸国連合)プラス中日韓の経済協力も加われば、さらに良い」
 「また大量破壊兵器の拡散やテロ・麻薬・海賊などの犯罪への対処、朝鮮半島の安定でも、我々には共通認識がある。今の問題は大きな流れを妨げるものではない」
――安保面で、日本と同盟関係にある米国の存在はどう映りますか。
 「日米関係が我々の関係の妨げとならず、アジア太平洋地域の平和と安定を妨げない限り、言うべきことは何もない」
――鄭さんの日本観を聞かせて下さい。
 「私の最初の訪日は、83年に胡耀邦元党総書記の政治秘書として随行した時だ。日本の印象は非常に良かった。街がとても清潔だと思った。第2次大戦の破壊から時を経ず、精力を込めて発展してきたことに『ああ、日本人はとても尊敬できる』と本当に感じた」
(聞き手=北京・栗原健太郎)

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