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中国は日本の敵ではない―中国なしに日本経済は成り立たない

     
                                         神奈川県日中友好協会 名誉顧問 久保孝雄

 トランプからバイデンに代わって米国はより冷静で理性的な国になると思ったが、幻想だった。トランプ以上ともいえる対中強硬策を見れば明らかだ。トランプは経済が重点で貿易戦争をしかけたが、バイデンは反中急進派のペンス、ポンぺオに劣らず台湾、ウイグルなど中国の核心的利益に触れる内政干渉を強めるとともに、民主主義対専制主義という体制問題や価値観にまで対立を拡大し、西側同盟で対決するという。

 バイデンはウイグルを「ジェノサイド」と認定したが、これは大国の大統領が軽々に口にすべき言葉ではない。複数の米メディアも「ウイグル・ジェノサイドは今世紀最大の嘘だ」「根拠なき攻撃をやめよ」(「グレーゾーン」など)と声を上げ始めた。台湾についても高官派遣や武器輸出、空母巡行など「一つの中国を」無視するあからさまな台湾擁護、介入策を進めている。
 
 それほどバイデンの危機感が強いということだが、それには二つの要因がある。一つは中国の台頭によって百年続いてきた米国の一極支配が崩れ、多くの分野で世界NO.1の地位を失いかけていることだ。購買力平価GDPはすでに2014年に中国がNO.1になっているが、為替レートでも2028年に中国が世界一になると予測されている(英国シンクタンク)。科学技術、ハイテク分野のみならず、アジア、アフリカ、中南米などへの影響力、東アジアの軍事力でも中国に後れをとり始めている。これまで百年、米国の世界NO.1を脅かす国は皆無だったので、中国台頭が米国に与える衝撃は大きい。

 第二は、もはや米国単独では中国に対抗できず、西側同盟の結束で対抗するしかなくなっていることだ。このため日米豪印(QUAD)、日米韓、更にASEANやEUも巻き込んで中国包囲網を構築しようとしているが、インドもASEANも中国包囲に反対だし、豪も中国への輸出でメシを食う国だ。ニューヨークタイムズがいうようにQUADは「架空の同盟」になりかねない。EUにも足並みの乱れがある。

 トランプの同盟軽視に比べ国際協調、多国間主義に復帰したように見えるが、すべては中国包囲のためであり、世界がバイデンに期待した国際協調への復帰ではない。中国、ロシアを除いた多国間主義もない。この中国包囲網の中核に擬せられているのが日本だ。中国の隣国であり、第三の経済大国で、米軍基地も多く、最も米国に従順で、国民の反中意識も高い日本(世論調査では国民の8割が反中、嫌中意識を持つ)が最適だと見られている。国務、国防長官の初外遊が日本との2+2だったりバイデンの初の対面首脳会談に菅首相が選ばれたり、異例の日本重視が演じられたが、何としても日本を反中最前線に立たせたい米国の周到な計画によるものだ。

 「ルビコンを渡った」と2+2の関係者が語った(日経)が、この協議で日本は初めて中国を名指しで非難し、台湾問題への懸念と関与の可能性を明記した。中国は激しく反発し、日中共同声明に抵触する背信行為であり、米国の戦略的従属国であることを示した、と批判のトーンを上げた。この中国の反発を受け、首脳会談では中国名指しや台湾言及は避けられると思ったが、2+2の合意がそのまま反映され、対中政策では米日一体化が合意された。

 特に台湾に触れたことは中国人の憤激を呼び起こしかねない。台湾は清国が西洋列強に襲われ弱体化しているのに乗じて日清戦争を起こして勝利し、2億テール(当時の国家予算の2年分と言われる)の賠償金、遼東半島(のち三国干渉により返還)、澎湖諸島とともに清国から分捕ったもので、中国にとって屈辱の島だ。ここに旧宗主国の日本が手を出すことがあれば、何が起こるかわからないほど危険だ。

 日米首脳会談の時、菅総理の脳裏には日中間の歴史問題は無かったのか。「国家百年の計」はおろか「十年の計」もなかったのではないか。十年後、経済力でも世界への影響力でも米中が逆転していることは確実だ。十年後の米国政権が、世界の構造変化を冷静に見て政策転換を図っている可能性もある。

 バイデンは経済面でもデカップリングを考えているが、不可能だ。世界経済発展への中国の寄与率は3割を超えている。在中国米企業がつくる米商工会の調査では8割の企業が中国市場と離れる気はないと回答しており、貿易戦争のさなかでも中国の対米輸出は伸びている。経済の絆は政治の絆より強い。

 3万3千社の在中国日本企業もサプライチェーンみなおしの政府誘導で中国を離れたのは87社、99%が中国を離れる考えはないとしている。日本の輸出の23%が中国で中国は日本経済の命綱になっている。安全保障は米国、経済は中国という政策を米国は今後も激しく責めてくるだろうが、1億国民のメシの種、経済の命綱をたやすく手放せるものではない。孔大使も日米安保と日中友好は両立可能と言っている。

 菅政権が日米同盟の強化、中国敵視を進めるほど、政治と経済の乖離、政府から民間の離反が進んでいく。民衆の声やメシの種を作る民間企業の意向を無視する政治は長く続かない。中国にも「民をもって官を促す」という言葉がある。今こそ民の力を発揮すべき時だ。日本はマスコミの影響で反中意識の強い国だが、5割超の国民が「日中協力は重要」と考えている。民の声のキーワードは「中国は日本の敵ではない。中国なしに日本経済は成り立たない」だと私は思う。

 欧州外交評議会が西欧11カ国で行った世論調査によると、安全保障政策では「米国から自立せよ」が67%、「十年後中国が世界NO.1になる」が59%、「米中、米露対立に巻き込まれるな」も過半数を占めた。クールな欧州に学ぶべきだ。          (神奈川県日中友好協会会報「日中友好の輪」2021.7.1)



*(参考)日本の世論調査結果について本稿での数字は昨年秋の言論NPOのものと思われるが、同時期の日本政府内閣府外交に関する世論調査(発表は本年2月19日)によると、中国に親しみを感ずる22,0%(感じない77.3%)、中国を日本にとって重要な国と考える78.2%となっている。

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