<資料>

 日本国際貿易促進協会(河野洋平会長)は4月21日会員フォーラム「多角的に観る最新の中国」を開催した。孔鉉佑大使が基調講演を行い、続いて、遠藤和也外務省アジア大洋州参事官他、柯隆東京財団政策研究所主席研究員、岡野寿彦NTTデーター経営研究所主幹、丸山知雄東京大学社会科学研究所教授が講演した。(詳細は同協会発行の「国際貿易」5月25日号に掲載されている。)
 日中関係が米中対立激化の影響を受けて、困難に直面している中で、孔大使の基調講演及び遠藤参事官、丸山知雄東大教授の講演内容は情勢を理解する上で大いに参考になると思われるので、<資料>としてここに紹介したい。


中日間の基本的信義尊重を、中国は平和的発展堅持

                  孔鉉佑・中華人民共和国駐日特命全権大使 

 中日両国は、互いに重要な協力パートナーである。1972年の国交正常化以来、多くの波風を経験してきたが、双方の努力によって常に、「平和、友好、協力」という大きな方向性を維持しつつ発展してきた。両国の協力分野の広さ、利益融合の深さは、他にはない稀に見る関係である。
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 昨年9月、習近平主席は、菅総理との電話会談で、双方は「新しい時代に相応しい中日関係を構築していく」ことで重要な合意に達した。4月初めには、王毅国務委員兼外交部長と茂木外務大臣との電話会談で、中日関係の安定した発展を推進する前向きなの意欲を改めて相互に確認した。ところが最近、消極的な動きがみられ、新たな複雑な情勢に直面している。この状況を好転させ、関係の持続的かつ健全で安定した発展を促進するためにはどうしたらよいのか?

 私なりの考えを3点にまとめた。1点目はより前向きで理性的な姿勢でお互いを見ること、2点目は中日の「4つの政治文書」の原則を守りながらお互いの矛盾や相違に対処すること、3点目は長期的大局的な観点から中日関係を進めていくことである。

 1点目:良好な国家間関係は何よりもまず、お互いに対する客観的な位置づけと理性的な認識の上に初めて成り立つ。中国と日本、それぞれの発展と変化に伴い、お互いの認識にズレが生じてきたことは確かだ。日本ではここ数年、中国脅威論が再び台頭している。中国では、日本が中国を仮想のライバルとすることについて多くの人が疑念を抱いている。戦略的相互信頼の欠如が、中日関係の脆弱性と不安定性を際立たせていると思われれる。

 ここで強調したいのは、中国はどんなに発展しても平和的発展という鄧小平氏が自ら決断した基本国策を堅持し、決して覇権を求めたり、拡張したり、自分が経験した苦痛を他国に押し付けたりすることは絶対にない。国民に良い暮らしを提供し、国家の復興を実現するために取り組むとともに地域の安定と繁栄の促進にも絶えず力を尽くしてきた。今後もこの方向に向かって尽力していく決意である。

 日本の指導者は近年、「中国の平和的発展は日本と世界にとってチャンスである、両国関係の安定的発展を促進したい」と重ねて表明してきた。是非、このような発言を具体的な政策に反映させ、実際の行動で第4の政治文書で確立された「互いにパートナーであり、脅威とならず」という政治的合意を履行し、ゼロサム的な意識を捨てて、互恵とウインウインをはかっていくことを期待している。

 2点目:中日4つの政治文書で確立された諸原則は、中日関係の政治的基礎を構成するものであり、両国関係の発展にとって重要な指導的意義がある。中でも中日共同声明の第6条には、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、「両国間の恒久的平和友好関係を確立することに合意する」と明記されている。これは双方の政治的公約であり、現在の状況で改めて見つめる価値のある政治的智慧でもあると思う。矛盾や相違に対応する際、双方はこの精神を揺るぎなく堅持する必要がある。
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 中日両国は領土や海洋問題で食い違いが存在している。日本側の一部正体不明の漁船が釣魚島(編集者注:尖閣諸島)海域で活動するのに対し、異なる立場をもつ中国側としてはやむを得ず必要な対応を行い、最大限の自制をしてきた。中国の海警法は、アメリカ、日本、東南アジア諸国あるいはヨーロッパ海洋国の同種の法律と本質的な違いはない。中国の海洋政策や行動パターンにも変化はない。我々はこれまで誠意と善意をもって日本側の懸念事項について、関連周辺国に対するよりも真剣かつ詳細に繰り返し説明してきた。日本側は状況を客観的かつ冷静に認識し、中国側とともに2014年の四項目の共通認識に基づいて、引き続き海洋の情勢を適切にマネージし、対話と協議を通じて関連問題に対処していただきたい。
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 香港問題も新疆問題も明らかに中国の内部の事情である。中国政府としては主権と安全を確保し、関連地域を外国勢力によるテロ、過激派、分離主義から確実に守る責任と義務がある。香港のビジネス環境がより安定し、秩序あるものになることは日本を含む各国の香港への投資利益を守るうえでも望ましいはずだ。

 新疆問題については、現地政府が法律に基づいて犯罪を取り締まっている。人々が自らの意思でより良い生活を追及できるように教育や訓練を行っている。そうしてこそ安全と安定した環境の中で、人々は平和で幸せな暮らしを手にすることができる。

 訓練施設や教育施設の運営は、中国だけではない。今日に至るまでヨーロッパでも随所に設けられている。日本は、ダブルスタンダードではなく、ヨーロッパの関連施設、関連の問題を含めて客観的かつ適切に態度を表明すべきだ。コロナ終息後に、是非新疆に直接赴き自身の目で真の姿を見ていただきたい。
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 3点目:万事長い目で見ることが大事である。来年は中日国交正常化50周年の大きな節目を迎える。これを機会に過去半世紀の実績や経験、教訓を振り返り、次なる50年間の関係を展望することが重要だ。

 さらに、視点をグローバルに拡大すると、新型コロナの流行は世界の未曽有の大変革を加速させている。ポストコロナの世界はどうなるのか?公衆衛生問題、気候変動などの課題に、これから人類社会はどう向き合うべきか?我々にはどんな地域秩序やグローバルガバナンスが必要なのか?これらの質問に答えていかなければならない。
 
 中国と日本は国際社会の重要な一員として、様々な分野で交流と協力を更に深め、両国民に幸福をもたらす責任がある。更に時代の流れに順応し、多国間主義を堅持し、公正と正義を擁護し、対立や紛争がより少なく、協調と協力がより多く、疑念や不満がより少なく、善意と寛容がより多い世界を築き上げていく責任があるのではないか。
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 東京オリンピック開催まであと100日をきった。来年中国は北京冬季オリンピックを開催する。五輪開催の相互支援は両国指導者間の重要な約束の一つで、両国関係を更に発展させていくチャンスである。我々は東京大会の成功を引き続き支援し、オリンピック聖火が2年連続して東アジアでリレーされる機会を活用し、双方の各分野での交流と協力がコロナ禍を克服し、さらに活性化されることに強く期待している。
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 今年は中国共産党創立100周年の大きな節目にあたる。中国の社会主義現代国家の全面的建設という新たな道のりが始まる年でもある。今年の全国人民代表大会では、第14次5ヵ年計画計画及び2035年長期目標が採択され、中国の質の高い経済発展の方向性がさらに鮮明に示された。

 日本は中国の改革開放に深く関与した国として、中国が新たな発展段階に入っても、引き続き重要なパートナーとなることが大事だ。イノベーション、知的財産権の保護、貿易、投資、金融、財政、医療・ヘルスケア、高齢社会、省エネ、環境保護、観光等の分野で互恵協力を強化する両国首脳のコンセンサスをともに実行し、第14次5カ年計画がもたらす質の高い発展の利益を日本と共有していきたい。中日間の経済貿易協力では、いくつかのマイナス要因を双方で克服する必要がある。中国の発展を阻害するために、ごく一部の国は国家安全保障の概念を乱用して、中国の脅威や人権問題までをもでっち上げ、一方的で違法な制裁やロングアーム管轄を加え、他国に中国とのデカップリングを強要してきた。経済のグローバル化時代に、公然と市場原理を破り、公権力を使い世界の産業チェーンの安定性や強靭性を損なうことは有害無益である。

 日本側は、国益と国際秩序を守る観点から、関連の経済貿易問題に正しく対応し、市場原理と自由貿易ルールを尊重し、在日中国企業に公平、公正、透明で差別のないビジネス環境を提供し、世界の産業チェーン、サプライチェーンの安定性、信頼性、安全性を維持していただきたい。
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 ここ数年、米国政府は中国を不当にたたきつけ、中国の合法的権益を損害し、中米関係に深刻な困難をもたらし、両国及び世界に悪影響を及ぼしている。ここに強調したいのは、中国自身の核心的利益を守る決意は揺るぎないもので、両国の首脳電話会談で合意した精神に則って米国との対話等意思疎通の維持、互恵協力の推進、それに誤解と誤算、対立と衝突を防ぎ、中米関係の健全で安定した発展を促進する用意が我々には十分にある。先般、中米両国が気候変動に関する共同声明を発表したこと自体、双方が連携して共通の挑戦に対応する決意と将来性を示すものだと思っている。
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 菅総理の訪米による日米首脳会談、共同声明でちゅごく関連の基調は極めて残念なことに。非常にネガティブで、中国の内省に深刻に干渉し、中国の利益を損なうものが見られる。中日関係はひいては地域情勢の基本方向や中日間の基本的信義に係る問題における日本側のやり方に、我々としてはそれなりの強い不満と懸念を感じている。日本は米国の同盟国だが、中国との間にも履行すべき政治的公約があるということを常に忘れないで頂きたい。

 日本側には信義を重んじ、中日4つの政治文書の諸原則と関連の約束を守り、真に戦略的自主性を実現し、大国の対抗に巻き込まれないよう実際の行動で2国間関係、そして地域の平和と安定の大局を守るよう期待している。(2021.4.21)


中国をめぐる情勢と日中関係

                  遠藤和也・外務省アジア大洋州局参事官

 孔大使から言及のあった、①お互いを理性的、客観的に認識する、②日中間のこれまでの諸合意の基礎の上に日中関係を発展させる、③長期的かつ大局的に日中関係を考えるという総論について、日本側としても異論はない。一方、海洋、香港、新疆ウイグル、日米関係等、立場や考え方の違いもある。様々な懸案はあるが、日中間でハイラベルを含む様々な対話を重ねて懸案を一つ一つ解決し、中国側に具体的な行動を求めていくという日本の基本方針は変わっていない。
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 米中、日米、日中の順で申し上げたい。本日ちょうど発足3カ月となるバイデン政権の対中政策については、政権成立前から様々な推測がなされてきたが、予想通り、バイデン大統領らしく、中国の競争と挑戦を真正面から真摯に受け止めている。同時に、プロフェッショナルなチャンネルを駆使しつつ、同盟国、同志国とも連携しながら、国際秩序安定への課題に向き合っている。その課題には、①東シナ海、南シナ海をはじめとする海洋秩序の維持、、②技術、サプライチェーンの再構築等の経済の安全の保障、③香港、新疆ウイグル自治区の問題をはじめとする普遍的価値の擁護があり、④北朝鮮のミサイル問題をはじめとする地域の安全保障、⑤気候変動、感染症対策をはじめとする地球規模の問題への対処等もある。いずれも、大きな力をつけた中国がどういう行動をとるか、各国が中国の前向きな対応をどのように促していけるかが、秩序の安定性、持続可能性に大きく影響を及ぼす課題である。これら諸課題に、バイデン政権は米国の力、信頼、国際指導力を取り戻すこと、力の源泉の一つである同盟国、同志国とのネットワークを強化することで、対処しようとしている。そのうえで、中国とは必要であれば競争し、可能であれば協力し、そうしなければならない場合は対抗するという方針で臨んでいる。いわば「是々非々」の姿勢であり、前政権のように、貿易赤字といった特定の課題のみを突出させる、あるいは米国だけで中国と対峙することはせず、複合的な政策目標を立て、重層的に対応しようとしている。

 バイデン政権は3月3日に「外交安全保障の暫定戦略指針」を発表し、同日、ブリンケン国務長官が「米国国民のための外交戦略」という政策演説を行っている。その演説の冒頭では、現在の米国の環境はオバマ政権の時とは異なっており、当然外交的アプローチも異なるとし、国内政策と外交政策の垣根がこれまでになく低くなっている、としている。演説で言及される優先分野8つは、例えば、経済再生、技術に関するリーダーシップ、民主主義の刷新等、いずれも国内政策でもあり外交政策でもある。国際的リーダーシップの発揮と国内政策の推進がまさに一体となっており、米国を復活させることが現下の最大の外交政策との認識である。実は中国に関する外交課題も中国自身の国内政策、内政と密接不可分である。国内政策と外交政策の垣根がかつてなく低い、というのは米中両大国共通である。

 8つの優先課題の中で、唯一あげられている二国間関係が、米中関係の管理であり、米中関係はオバマ政権当時と大きく異なっている。その違いには、①オバマ政権発足時の中国のGDPは米国の3割だったのが今は7割等米中両国の総体的国力の変化、②競争激化による経済・技術と政治・安全保障との密接不可分化、③体制の相違の一層の顕在化、④競争的政策への米中両国国内における超党派的支持等、上げられよう。
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 こうした中、先週、菅総理が最初の外国首脳としてワシントンDCを訪れ、日米首脳会談を行い共同声明が発出された。3点申し上げる。第一に今回の会談はインド太平洋地域の平和、繁栄の基礎である日米同盟を強化し、自由で開かれたインド太平洋に向けた協力を幅広く強化していくことに主眼が置かれたという点である。中国関連に目が行きがちだと思うが、共同声明全体で中国に言及しているのは1割程度であり、幅広い協力に言及されている。第二に、中国に関しては、一方的な現状変更の試みへの反対や経済的なもの及び他の方法による威圧等に言及したうえで、中国との率直な対話の重要性が指摘され、国際関係に安定を追及することでも一致している。また、協働でできる分野では一緒に取り組んでいく必要性も言及されている。第三に、台湾への言及に関心が集まったが、台湾海峡の平和と安定は隣国にとって当然重要だし、両岸問題の平和的解決への期待は日本の一貫した立場である。72年の日中共同声明の立場と変わることはなく、今回の日米共同声明によって変更された事実はない。
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 では今後の日中関係をどのように推進していくのか。まず、中国は経済のみならず政治、技術、軍事等、様々な分野で国際社会への影響を増している。日々繰り返される尖閣諸島周辺海域での活動等の一方的な現状変更の試みには、冷静かつ毅然と対応していく。軍事バランスや基本的価値に係る懸念は、中国側にしっかり伝え、一つ一つ対処していく。また、中国が「世界最大の発展途上国」であることを理由に独自の制度を維持していくことがよいのかは、議論し、適切に対応していく必要があろう。

 そのうえで、日中関係は二国間のみならず国際社会にとっても重要であり、首脳会談や外相会談等のハイレベルの交流を含めた協議を通じて率直な対話を行い、懸案を一つ一つ前進させ、中国側の具体的行動を求めるとともに、中国との安定した関係を築き、地域、国際社会にともに貢献していきたい。今回の日米首脳会談も、このような日中関係に関する基本的な考えを基礎として、組み立てられている。もちろん、協力が必要だからといって主権や普遍的価値について譲るというようなことはなく、難しいかじ取りではある。

 しかし、皆様が長年努力されている日中間の強い経済的結びつきがあり、地方創生にも隣国・中国は不可欠である。欧米にとっても中国経済は重要であり、日米首脳会談と同じ週の13日には、李国強総理と米国ビジネストップとのテレビ会談が行われていた。こうした現実から乖離した日中関係も考え難い。

 個人的視点で、今後の留意点を3点申し上げる。第一に、孔鉉佑大使の話ではないが中国に対する理解を根源から深めていくべきである。例えば、中国の拡大の必然性、中国は米国にとって代わると言った見方への評価、中国と国際秩序との関係性等常に根源に立ち返りながら、隣国中国への理解を深めていく必要があろう。第二に、いくつかの点で適切なバランスを取りながら、日中関係を考えていくべきと考える。①ウインウイン的協調とゼロサム的競争、②短期的安定と長期的課題前進、③相互主義的縮小均衡と国益確保、④一貫性の確保と変化に応じた柔軟な対応、⑤国内的な強い声と相手との関係で結果を求める戦略性等、バランスに配慮すべき観点はいくつもある。第三に、幅広く見渡し、長い耳をもって行動していく必要性である。中国に限らず、国境を超えるビジネスは、機微技術の扱い、サプライチェーン、過度の依存回避、ビジネスと人権等、各方面に留意していく必要がある。

 日本が、同盟国、・米国と緊密な連携をするのは当然であり、今回の日米首脳会談は大きな成果を生んだ。同時に、域内外の多くの国が、中国という大きな存在への日本の向き合い方を、高い関心をもって注視している。引き続き、日中経済交流の適切な進化、また当面は来年の日中国交正常化50周年の交流拡大に向けて、皆様とともに努力していきたい。(2021.4.21)


米中競争時代を平和に生き抜くには

                  丸山知雄・東京大学教授

 2020年1月に、米中で第一段階の合意があり、激しい貿易戦争も幕引きに入ったかと思われたが、この1年、米中関係はどんどん悪くなり、毎日のようにニュースで「中国の攻勢」「クワッドによる封じ込め」といった話題が報じられる。米中の関係がこれほど悪くなったのはコロナが原因だ。昨年の3月までは、中国の一人負けだった。3月2日時点で世界のコロナによる死者の90%を中国が占めていた。アメリカはこれをあざ笑っていたが、今は逆の立場になり、米中が人類共通の敵であるウイルスの前で仲たがいしている。

 中国は経済の落ち込みに見舞われたが、効率的に立て直した。GDPの6%に相当する財政赤字だったが、GDP成長率はプラス2.3%だった。日本はGDPの20%の財政赤字を出したものの、マイナス成長。アメリカも同様である。IMF統計によると、中国だけはコロナ前に予想されていた成長トレンドに戻っているが、他の国は戻っていない。2021年の成長目標は「6%以上」としているが、おそらく8~9%になるだろう。トランプ大統領は中国のキャッチアップを阻止すべく、追加関税や中国ハイテク企業の追放等あらゆる手段をとってきたが、彼が大統領に選出された2016年に中国のGDPはアメリカの60%が、任期の最終年には70%になった。今年は76%となるだろう。
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 2030年までには中国のGDPはアメリカに追いつくと思うが、その後の中国の成長はさらに鈍化する。国連の予測では中国の人口は2031年がピークだがアメリカはその後も増え続け、もし移民政策を緩めればさらに増える。国連によれば2040年時点では中国の方がアメリカより高齢化する。したがって、中国がナンバーワンになったとしても、その後アメリカとの差をどんどん広げていくという展開にはならない。

 米中のGDPを購買力平価で比較するとすでに2017年から中国がアメリカを追い抜いたというのが世界銀行の見立てだ。中国の貿易総額がアメリカをやや上回っている。世界213カ国・地域のうち、対米貿易額より対中貿易額の方が多いのは日本など143カ国・地域で70カ国・地域はアメリカの方が多い。対外直接投資の金額でも中国と日米は肩を並べているが、日米の方が対外投資のストックは多い。外貨準備額は圧倒的に中国が多いものの、アメリカは基軸通貨国の特権があるため、外貨準備がそもそも必要ない。工業製品の生産量では圧倒的に中国の方が多く、粗鋼などは2ケタ多い。科学技術論文数や国際特許出願数など科学技術の指標でも中国はアメリカと肩を並べている。ただ、軍事支出ではアメリカは中国の3倍であり、経済と軍事のアンバランスが起きている。

 2位国が首位国を激しく追い上げるとき、多くの場合戦争になるという「ツキディデスの罠」の議論があるが、最近のバイデン大統領の発言は米中がまさに罠にはまりつつあることを示唆している。「中国は世界を主導し、世界で最も力のある国になることを目標としている。だが私はそんなことは許さない」。ただバイデン発言に希望が持てる部分があるとしたら、その後に「アメリカも成長し続けるからだ」と続けていることだ。この宣言通りアメリカが自国に投資してくれればいいのだが、中国への攻撃もやめていない。一方、2位国の中国はアメリカを追い抜いてやると意気込んでいるかというとそうではない。
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 今年、第14次5カ年計画が決まったが、驚くべきことに成長率目標がなかった。目標を掲げると「アメリカ打倒宣言だ!」といわれそうな情勢のため、これまで5か年計画の中核的目標であった成長率を敢えて出さなかったのだろう。またトランプ政権が非難してきた「中国製造2025」の言及もない。公式に取り下げると表明してはいないものの、取り下げたものと理解してよいだろう。「TPP11」の参加を真剣に検討すると言明したことも注目される。第14次5カ年計画の精神を表すフレーズは「自分のことをしっかりやる」というもの。新型インフラと称して国内での5Gネットワークの建設を急ピッチで進め、5G加入者は昨年末に3億人以上に達した。おそらく世界の9割ぐらいを占めており、今後5Gを利用したイノベーションは中国から起きるだろう。

 アメリカはファーウェイを目の敵として、国内の通信網や政府調達から排除し、アメリカ企業がファーウェイに部品や技術を得るのも許可制とし、さらに外国企業であるTSMCなどに対してもファーウェイとの取引を禁じるなど販売と部品・技術の調達の両面から封じ込めようとした。しかし、そんな全面的攻撃の中でもファーウェイは昨年も増収増益を実現した。アメリカが全力を傾注してもファーウェイ1社を減収に追い込むことさえできない。まして中国の台頭を抑えようとしても必ず失敗し、中国は10年の内に世界最大の経済大国になるだろう。ただその後に中国が世界の覇権国になるかというとそれも難しい。アメリカとは圧倒的な軍事力の差があり、頼りになる同盟国もなく、イデオロギー面での優位性もなく、ソフトパワーもだいぶ見劣りする。そのため、今後不安定な過渡期が長く続く。日本はアメリカの尻馬に載って中国の台頭を阻止しようとしても失敗しそれによって日本の選択肢を狭めることになる。香港や新疆の人権問題に関して、中国は内政干渉するなというが、この言い分はグローバル化が進んだ今日の世界では通用しない。防疫や投資を通じて我々も中国の人権状況にかかわっているからだ。ただ、圧力をかけて人権状況がよくなるわけもなく、対話を通じて人権状況を改善するよう誘導するしかない。(2021.4.21)

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