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米中最前線<身構える日本>-軍事競争時代終結へ知恵を
               
                          福田康夫元首相に聞く

 中国は21世紀に入ってから世界史的に例がない急速な発展を遂げた。米国はその変化を目の当たりにし、焦りを感じているように見える。この両大国の間に、すでに経済発展の曲がり角を迎えた日本が位置する。米中紛争が起きれば、我が国はひとたまりもない。だからこそ、そうした事態を防ぐための真剣な努力が日本に求められる。地球温暖化など人類共通の危機を乗り切るための協力を日米中が一致して推進し、軍事力強化で競い合う時代を終わらせるといった知恵が必要だ。

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 中国の猛追に対する米国の警戒感は新型コロナウイルスによる経済停滞でさらに強まった。ただ中国の成長は阻止できない。米中の一層の対立と混乱を招き、米国はその威信を失いかねないからだ。バイデン米大統領の厳しい対中発言は、長期的見地というより議会対策など目先のことに基づいたものであってほしい。

 米国は2030年を待たずに経済トップの座を中国に譲り渡すかもしれないが、たとえ経済で中国に逆転されても民主主義諸国のリーダーであり続けることに変わりはない。何も動じる必要はなく、米国には堂々として、世界の安定に苦心する大国であってほしい。

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 中国は順調に経済成長を続けている。貧しかった中国国民は豊かさを実感し「世界一の大国になれる」という夢を抱き始めた。その夢を牽引する習近平国家主席への期待が大きくても不思議はない。

 全体主義的と言われる中国の体制を支えているのは、14億の中国国民だ。その中国では、スマホやSNS(会員制交流サイト)が社会を変えている。指導層が国内ネット世論を気にせざるを得ないのは、私たちと同じだ。自国である程度の評価を得られている中国の体制について、日米は批判するだけでなく、民主国家の良さを行動で示すべきではないか。

 だが中国も、環境問題を解決しなければ立ち行かない。世界自体が存続できなくなるからだ。地球温暖化でシベリアなどの永久凍土が解けると二酸化炭素(CO2)が大量に放出され、爆発的な気温上昇をもたらすといわれる。未知のウイルスが解き放たれる可能性もある。成長すれば良い時代は終わったのだ。

 国際社会は、結束して立ち向かわなければいけない喫緊の課題を目の前にしている。これは危機だ。覇権や勢力争いをしている余裕はない。

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 このような中で日本はどう振る舞うべきか。まずアジアと世界の安定を目指すため、日米同盟をさらに深化させ、新しい時代への方向性を見せる協力をすべきだ。中国は近隣に位置する大国で日本と切っても切れない関係にあるのだから、敵対関係はあり得ない。相互理解を深めながら協力を強める必要がある。温暖化対策で米中から理解が得られれば、危機を乗り越えるための「鬼に金棒」の布陣が出来上がる。対立から協力へと向かわせる指導力が必要だ。

 大切なのは首脳間の信頼だ。大きな問題解決には首脳間の腹蔵のない話し合いが必要だ。「対中包囲網」が取りざたされる中、中国の首脳と信頼を築けるか心配だ。日本には長い将来を見据えた責任ある取り組みが求められている。    (信濃毎日新聞2012.6,25)

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