<資料>
尖閣の緊張を解いて前へ


                   井出孫六(作家)


 安倍首相訪米そもそもの目的は尖閣諸島を巡る日中一触即発の危機に対するSOSを、米大統領に訴えようとすることにあったと見受けられる。だがその着想に、思慮が不足していたのではなかったろうか。

 1972年、田中角栄、周恩来という老練の政治家が話し合って知恵が出ぬまま、問題を後世に譲った。78年ケ小平と園田直という2人の知恵者が知恵出しあっても、後世に任せようと結論したことを、石原前都知事に煽られた野田前首相が苦し紛れに国有化という乱暴な処置をしてしまったことを、まず安倍氏はじっくり考えてみるべきだった。

 その上でワシントンではなく北京に飛んで、この群島を歴史的、国際法的レベルで再検討する委員会を日中両国で設置してみることを提案するのが、最も理性的な対処の仕方だったのではないだろうか。

 先週金曜(日本時間土曜=2/23)ワシントンで行われた日米首脳会談はいつしか主題がTPP(環太平洋連携協定)加入問題になっていて、尖閣問題は消えていた。土曜夜、長野に出かけたわたしは本誌日曜紙面でようやく日米会談の全体像を知った。

 ---訪米に先立つ米紙のインタビューで首相は、尖閣国有化後に緊張関係が続く中国に対し「力で領海や領土を奪うことはできないと認識させねばならない」として、日米連携で対処する重要性を指摘した。

 これに対し首脳会談後の記者会見では「対話の窓は常に開けている。問題をエスカレートさせるつもりはない」と慎重な語り口に終始---

 同じ紙面に、中国の習近平指導部が駐日大使を務めた日本通の王毅氏を次期外相に起用するとの北京電が大きく伝えられていた。対日関係改善のためいち早く窓を開いたのは中国側だ。尖閣問題の解決で日中の関係を大きく前に進めるときだ。

  (2013.2.28信濃毎日新聞夕刊<今日の視角>)

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