日中国交正常化40周年講演と祝賀のつどい開催、高原明生先生を講師に尖閣問題を考える(10/4)

 長野県日中友好協会・県日中経済交流促進協議会・県日中学術交流委員会は10月4日、日中国交正常化40周年にあたり講演と祝賀のつどいを長野市内のホテル犀北館で開きました。講演会には、170名が出席。新日中友好21世紀委員会日本側事務局長で東京大学大学院教授(現代中国政治)の高原明生先生が「国交正常化40周年と日中関係の課題」と題して記念講演しました。講演終了後、先生を囲んでのパネルディスカッションと祝賀パーティーがおこなわれました。尖閣問題で厳しい試練にさらされている日中関係の現状を冷静に見つめるとともに、今後の展望と友好の意義を再確認できた有意義な1日となりました。

 山根敏郎・県日中経済交流促進協議会副会長の開会のあいさつに続き、井出正一・県日中友好協会会長が主催者を代表して「国交正常化40周年にあたり尖閣をめぐる激しい対立が続き、この40年間最大の危機を迎えていることは誠に残念だ。日中両国は引越しのできない間柄にあり長い交流の歴史を持ち、経済における相互依存関係は極めて深い。日中は好き嫌いでなく正面から付き合っていかなくてはならない。民間交流の大切さも実感している。高原先生の貴重なお話をいただき、改めて日中関係の重要性を認識する機会としたい」とあいさつしました。

 高原先生は「本来なら40周年をともに祝うはずであったが、尖閣問題によって、大変厳しい状況に陥ってしまった。しかしそれで終わらせず、ピンチをチャンスに変えて行く機会としたい。どうすればこの難局を乗り越えていけるか。今だからこそできることがある。節目の年に当たり、40年を振り返って見る必要がある。日中関係史のなかから強靭性と脆弱性を抽出して見て行くことが必要だ」と述べ、1.日中関係の諸要因、2.過去40年の日中関係、3.日中関係の現状-戦略的互恵関係の強靭性と脆弱性、4.今後の課題と話を進めました。

1.日中関係を律する4つの要因として①国民の認識・感情②経済利益③国内政治④国際環境・主権・安全保障がある。

2.過去40年の日中関係は前半の20年と後半の20年に分けられる。1972年~92年は冷戦体制と日本の台頭の時代であり、92年から2012年はグローバル化と中国の台頭の時代といえる。このことを踏まえて、各要因を見ていきたい。
 ①国民の認識・感情にも大きな変化があった。前半はパンダやシルクロードなどのブームがあり、7~8割の日本国民が中国に親しみを持った。中国でも鄧小平の改革開放政策に乗って日本の文化も次々と紹介され日本に対する関心を高めた。後半は89年の六四事件、90年代の核実験・ミサイル演習、00年代の海上行動の活発化・反日デモ、さらに中国人犯罪やギョーザ事件報道などが国民意識に影響を与えるとともに、バブル崩壊後の日本人の自信喪失・中国への劣等感、世代交代による贖罪意識の薄れなどによって親しみを感ずる比率が下がった。中国においては、当初は日本が近代化のモデルであったが次第に欧米も中国に進出、日本の魅力が薄れ、また鄧小平後の愛国主義教育の強化により、被害者意識(反日意識)が再生産された。一方、近年は文化交流が盛んで日本のアニメやコスプレが中国の若者の関心を呼んでいる。観光客が増加しインターネットでの情報も多く入るようになった。(インターネットはネット右翼も多く悪影響もある)
 ②経済利益では、当初エネルギー資源への期待そして労働力更に市場への期待へと変化してきた。技術(生産)、資本への期待から技術(省エネ・環境保護)への期待に変化してきた。相互依存は増大したが日本にとって中国は第1の貿易相手国、中国にとって日本は第2の相手国であり相手の重要度は日本で向上、中国では低下した。しかし、日本なしでは無理でもある。
 ③国内政治の面から見ると日本では当初親台湾派の勢力が強かったが、80年代の改革開放に伴い、関係は緊密になった。2000年代に入ると小泉首相の靖国参拝に反発し、アジアサッカー事件、反日デモが起こり、それを受けて急速に嫌中感、対中脅威感が高まった。中国では、対日政策は敏感な政治問題であり、政権の安定度を測るリトマス試験紙でもある。90年代以降、国民統合と支配の正統性のためナショナリズムの重要性が上昇した。だが内政と外交の連動が強まっている現在、外交面では桎梏になっている。
 ④国際環境・主権・安全保障の面から見ると、中国にとって安全保障と主権は常に再優先課題だが、日本にとっては経済が最優先課題。ソ連の解体以後中国の関心は海へむけられるようになり、尖閣政策の変更(92年領海法で釣魚島を明記)が明らかとなり、日本は初めて潜在的脅威を感じるようになった。日本は冷戦後、日米同盟強化の道を選択、中国は日本の「普通の国化」(軍事大国化)を警戒するようになる。一方90年代後半からは、地域統合が競争と協力の契機になってきている。

3.日中関係の現状-戦略的互恵関係の強靭性と脆弱性
 ①日中関係の強靭性としてあげられるのはまず、経済相互依存関係の拡大深化だ。昨年の日中貿易は31.1兆円で日米貿易15.9兆円を圧倒している。また朝鮮半島の核危機、東シナ海問題、海賊やテロの脅威への対処など安全保障領域での協力の必要性も存在している。社会交流・文化交流の分野では強い基盤があり拡大深化している。
 ②日中関係の脆弱性としてあげられるのは、歴史・領土・安全保障問題等の相互不信、相手に対する消極的イメージがあり、更に将来の日中関係や東アジア秩序の不確実性、相互コンプレックス、ナショナリズムなどがあげられる。
 強靭性を強化し、脆弱性の解消を目指すべきだ。日中関係の強靭性の柱となっている経済・文化領域を攻撃することはおろかで許されない。

4.今後の課題
 ①尖閣問題の沈静化をはかる為、平穏で安定した状態へ復帰させる。「主権問題をパンドラの箱に戻す、神棚に上げる」こと。すなわち主権問題を棚上げにして解決する知恵を持たなければならない。2012年コンセンサスを作ること。すなわち主権に触れず72年以来の状態を維持し、海上行動原則に合意し、2008年の東シナ海の共同開発合意を実施推進すること。
 ②安保対話と防衛交流を促進し日米中の戦略的共存に向けて、3カ国協議を始動させ危機管理メカニズムを構築すること。
 ③排他的ナショナリズムを抑制すること。歴史をもって鑑とする。日本では近代史教育、中国では現代史教育の強化をはかるべきだと思う。日本が得た歴史的教訓を語るべきだ。
 ④「和諧社会」構築への協力。日中プラス韓、華人が協力して、「東アジア戦略的互恵基金」を創設できたら素晴らしい。
 ⑤国力がなければメッセージも届かないので日本のソフトパワーの強化をはかるべき。教育を重視し、科学技術を振興し、移民も積極的に受け入れる。またお互いに相手に関する情報の量・種類・質の増加と向上をはかる。外交センスなき民族は滅ぶといわれる。外交に関する情報を増やし、インテリジェンスを強化する。

◎講演後に、高原先生を囲んで西堀正司・県日中友好協会理事長の司会でパネルディスカッションが行われました。
 
 県日中学術交流委員会副会長の上條宏之・長野県短期大学学長は「河北大学や中国国際放送局と交流関係を持っている。客員研究員だった方から長野での体験や実感を周りの人に伝え友好を大切にしたいとの手紙が届き嬉しかった。石原発言に端を発して大変な事態になったが、尖閣問題は沖縄問題に深くかかわりを持っており、日本の近現代史を学ぶ必要がある。アメリカの責任も大きい」と述べました。
 
 河原進・満蒙開拓平和記念館準備会代表(飯田日中友好協会長)は「満蒙開拓平和記念館はようやく9月着工式を行うことができた。ご協力に感謝したい。歴史を風化させないために努力していきたい。領土問題の解決はなかなか難しいが、日系企業には300万人が働いており政治力がもっと前に出て解決してほしい。貿易をもっと増やせば、島の問題は小さくなるのではないか」と語りました。
 
 西堀理事長は尖閣問題の経緯を振り返った上で「日本軍国主義と日本人民を区別した周恩来総理の知恵に立ち返るべきだ」と語りました。

 高原先生は「韓国にも反日はあるが破壊活動はなかった。心が通い合う関係を築くのは侵略の歴史がある中で大変難しい問題だ。政治家に強い信念がないとやりきることができない。信念を持った政治家が必要とされる」と語りました。

 会場からもメディアのあり方や尖閣問題の解決法などの質問が出されました。高原先生は「メディアの取り上げ方にも問題がありそれに過剰反応して問題がこじれてしまった面もある。中国の実情を知り発言すべきであり、メディア人は特に慎重にすべきだと思う」などと答えました。

 第1部の締めくくりで島田力夫・長野大学理事長が「人と人との交流を通じて信頼を築いて行くことも教育の果たすべき役割だ。日中友好の大切さを心から願っている」と閉会あいさつをしました。
 
 第2部の祝賀パーティーでは、井出会長のあいさつに続き、村石正郎・県議会前議長、鄧徳花・中国国際放送局日本語部・長野ラジオ孔子学堂中国側責任者から祝辞をいただいた後、王昌勝・県華僑総会会長の音頭で乾杯しました。会場では困難な中にあっても友好の大切さを思い激励しあう姿が見受けられ、和やかな交流が行なわれました。女性委員会の皆さんが最近完成したばかりの『虹の架け橋-県女性委員会の歩みⅢ』を披露するとともに、「ふるさと」と「大海啊故郷」を歌い大きな拍手を受けました。最後に岡村重信・県経営者協会事務局長の音頭で日中友好万歳で締めくくりました。

 若林健太・参議院議員(代)、堀場秀孝・県議、白井千尋・県信用保証協会会長、木藤暢夫・県商工会議所常務理事、井出康弘・県中小企業団体中央会事務局長、細野邦俊・県商工会連合会専務理事、埋橋茂人・JA全農県本部長、須田孝徳・JA長野中央会総合役員室課長、西藤千代子・部落解放同盟県連委員長、川原一祐・松本歯科大学常務理事、曲渕文昭・㈱八十二銀行専務、穂苅甲子男・信州葫蘆島友の会会長など各界来賓が出席しました。講演会には、吉田博美・参議院議員(代)、小島康晴・県議、白鳥博昭・県国際課長、比田井正弘・県観光交流推進課長、岡田荘史・長野市日中議連会長、日台和子・長野市国際室長、高橋博久・県平和人権環境労組会議議長らも出席しました。

*高原先生の発言についての文責は編集部にあります。

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