「ピュア ジャングル!」
さて、いよいよ最終日だ。昨日のSSショートカットとそつ無い走りが功を奏し、なんと俺は総合3位じゃないか!
ゲゲッ!マジかよ!俺はそんな速い人じゃないぞ!
順位を見た瞬間いつもの脳天気な青沼さんはどっかにいって、ナーバスな無口な青沼さんに変わってしまった。
本日の一本目のSSはビーチクRUNだ。
総合1位はチームダートフリークの高山という若造。2位は“真珠”(極道の顔付きはそれを埋め込んでそー)
と一方的にアダ名を付けた中島明彦。
で、ギンギンのコンペライダーと4台一斉スタート。
固くしまった路面は130Km/hで巡航できる。 そしてスタート後3km地点で悲劇は起きた。
ビーチを横切る川に全開に近い状態で突っ込んだ途端、水しぶきとエンジンから
沸き上がる蒸気で前が見えなくなった。
そして次の瞬間、ブォ、ブォ、ボ、ボ、ボ、…・とエンジンが止まった。
「エッ、エッ、ウソ、マジ?」って感じで、キックしても全然ダメ。
スタンドをたてキックを試みるが、砂地である為
埋まってしまい力が入らない。
取りあえずスタンドの下に敷く石か何かを探すことにし、見渡すと20m程先に
何かあった。
必死こいてそこまでバイクを押していくと、それは石なんかじゃなく、ゲッ、…鮫の死骸だった。
そうこうしている間にもガンガン抜かれまくり、結局エアーエレメントを外し、
プラグを外し、やっと復帰できた時には
最後尾スタートの軍曹が奇声をあげつつ抜いていった。
つかの間のしあわせだった。 表彰台が羽をはやしてパタパタと青い空の彼方に飛んでいく。
などとボーッと考えつつ、最終SSに向かう。先ほどまで青い空が広がっていたはずなのにみるみるうちに雲行き怪しくなり、
上空は暗雲がのしかかり今にも泣き出しそうである。遠雷がゴロゴロと響く。
今朝、コースディレクターに「今日はどんなSSなんですか?」と質問した時に、目をチカーンと光らせ
「ピュア、ジャングル!」
とひとことだけ言ったSSへと向かう。

このSSはトップスタートである。緊張でアドレナリンが爆発しそうだ。
ハットリさんがそばに来て 「青ちゃんらしく走ればいいんだよ、青ちゃんらしく」と声をかけてくれた。
さすが、わかっていらっしゃる。ありがてえ。
雷鳴轟く中、スタートをきり、巨大な葉っぱが重なり覆いかぶさるジャングルへと
飛び込んだ。
主催者のおおせの通り、確かにたいした密林だ。
いつトラが飛び出してきてもおかしくないような、人の匂いのまったくしない鬱蒼とした密林の超廃道がコースである。
そして案の定、突然スコールがやってきた。
どしゃぶりとかそんな次元じゃない、たらいの水をぶちまけたようだ。前がまったく見えない。
口の中にガンガン雨水が吹き込む。
ウオッシュアウトしたトレールは見る間に濁流と化し、下りの急な場所は滝となりドオゥドオゥと泥飛沫をあげている。
おまけに赤土の超チュルチュルが濁流の下に隠れていて、時として氷のごとく
ハンドルがとられる。
でも脳みそはエクスタシーとオルガスムスがバッコン、バッコン、FUCKして
るみたいに超ハイテンションである。
雷鳴、スコール、超廃道、このシュチエーションこそまさにCrazy Thunder Raid である。
俺が求めていた世界があった。
そして絶頂のあと、オナニーの後のむなしさがやってきた。
又もバイクが止まっちまったのである。キャブレターが水を吸ったようだ。
死ぬほどキックしてる間に又も後続に抜かれる。
やっとエンジンがかかり、走り出すと今度は前方でハットリさんが立ち往生してタンクを外していた。
電装系がリークしたようである。カステラ剥き出しとなったオンボロシートは生理ナプキン並みにスコールを吸水して
しまいずっしりと重くなっている。
そんなハットリさんを追い抜くが、その1km先で再びDRのエンジンが止まってしまった。
エアークリーナーを外しマフラーの熱で乾かす。
それから数回、走っては止まって、死ぬほどキックして、を繰り返した。キックの鬼となり何度かふくらはぎが痙攣を起した。
でもリタイアだけは絶対いやだ。
やがて嘘みたいに小雨になり、ようやくかかったエンジンを停めないように水溜まりを避けながらテレテレ走っていると、
ようやくゴールにたどり着いた。
ハットリさんがグハグハ笑いながら駆け寄ってきて「いあや、良かった、良かっ
た、青ちゃん絶対ダメかと思ったよ」
といいヘルメットをポカスカ叩いた。
夕刻、白バイの先導でクアラルンプールの独立記念広場にいくと大観衆が集まっているではないか。
ブラスバンドが大演奏を奏でる中での、広場での表彰式は今日の朝時点の暫定順位とかで、俺は総合3位の嘘順位のまま
お立ち台に立たされ、苦々しい気持ちでもってシャンペンシャワーをやるハメとなった。
そして、夜の正式表彰では6位となってまあこんなものかと喜んだと思ったらそうは問屋が卸さず、
帰りの飛行機にむかう
バス内で配られたリザルトでは総合11位となっており、しかもSSごとのタイムを見るとトラブルをおこして最下位だったはず
のビーチランの走行タイムが絶対に20分はかかったにもかかわらず6分で走ったことになっていた。
個人ではハットリさんが入賞&クラス優勝。
チームでは友紀ちゃんリタイアにもかかわらず表彰され賞金もらった。
ハットリ談:このゴールは(どれも良いが)なかなか感動的であった。
どっかの日本の林道の脇みたいなところで、ぽつらぽつらと、単車が帰ってくる。
ライダーはそのあたりでウダウダしつつそれぞれの気になるあいつを待っている。
帰ってくるなり身ぶり手ぶりで相手をたたえ合い、抱き合って喜び合う。サイコーだ!!
しかし、松浦さんが来た時には、寄って北野はカメラだけで、他の人は知らんぷりでなんか哀愁をおぼえた。
そして私も事務的にカメラクルーのインタビューをいい加減に訳してあげたのだった。
「いったい俺の順位はどこなんだー!」 と、まあ3段階スライド落ちをしつつ結果なんてどうでもよくなった。
今回のマレーシア3Daysエンデューロを振り返って、ハットリさんは「インターナショナルローカルだねえ」と言って
いたが正にその通りである。
ジャングルランは良かったけど、2年前に出場したネバタラリーなんかと比べるとパンチ度に欠けるのは確かだ。
でもマレーシアという国はすこぶるご機嫌で、
また来てもいいかなとも思う。
最後にハットリさん、カリ高君(本当は右高君)、友紀ちゃん、
そしてバイクを作ってくれたガミちゃん、あぶさん、DRくん楽しい旅をありがとう。

おしまい
あとがき(はっとり談):このレースの良さは『いい加減さ』に尽きる。
タイムはいい加減、ルールはいい加減、そして走る人間もいい加減とくれば、
かえって清々しいではないか!世の中いろいろなことがあるのである。
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