全日本選手権に向けて


オリンピック後から、最後の大会となった全日本選手権に向けての様子を、これも父の知り合いの医師に宛てた手紙より紹介します。


 H10、2、24

いつもお世話様です。
長野オリンピックもようやく終わりまして、二男敏も個人戦では不満足だったものの、団体戦ではまずまずの力を発揮してくれました。すでに次のワールドカップ(札幌)のため、家を離れておりまして、本人も「これが仕事です」と割り切っていました。

さて、三男徹の事ですが、またまた信じられないようなことをやらかしております。
2/10 第2クールの抗ガン剤治療をして退院。オリンピック観戦などして楽しみましたが、2/11に秋までの同僚、女子モーグルで里谷多英選手が金メダルに輝いたことに刺激されたのか、本人もスキーをし始めました。
2/23には、上越国際スキー場でのモーグル大会で前走をつとめ、あのデコボコ斜面でヘリコプターという大技を成功させたというのです。
現在日本では、徹の他2〜3人しか出来ない技を、病院から出たばかりの男がやったと聞いてビックリしました。本人はケロッとしています。
そして、若干のトレーニングをした後、3/1福島県猪苗代スキー場で開催される全日本モーグル選手権に「出場する」と張り切っています。

今の状況から、出場は大丈夫そうですが、いつも軽い腹痛に悩まされているのが気になります。主治医の山田先生は、軽い腸閉塞をおこしている、と説明していますが、腸をコントロールする薬が合わないようです。

そして、3/5には第3クールの治療のために再々入院します。この第3クールで、一応のメドがたつ、という事ですが、何とか完治して欲しいものです。また、報告します。


H10、2、27

いつもこんな書き出しで、申し訳なく思っております。
今日(27日)は、少し不安な事を記して、先生の見解をお伺いしたく思います。

徹は、大変元気にしておりますが、4、5日前から妙に腹痛を訴えておりまして、本日、主治医の朝日病院副院長山田先生の診療を受けました。
私(父)も同行して話を聞きましたが、厳しい状況に変わりはない結果がわかりました。

<本日の診察の結果>
超音波(エコー)写真で、腹水が確認されました。その量も約500cc(予想)ぐらいといい、普通ではないことが起こり始めている気配です。
何らかの原因で腹水がたまって、腸全体を右下方に押しやっており、これが腹痛の原因という。
・白血球 7000 ・血液濃度も異常なし ・肝機能、腎機能も異常なし ・血色も問題なし ・蛋白が不足(?)しているので処置 ・胃カメラ検査(小腸まで)でも、異常なし。ということでした。

主治医の顔は、むずかしそうに思えました。徹本人は3/1日福島県猪苗代スキー場で行われるモーグルの全日本選手権出場のため、午後出発しました。
このことは、もしかすると「徹のラストラン」になるかも知れない含みがあって、滑らせてやりたい親心を先生が了解してくれたおかげです。
その為に、当面の治療として、・利尿剤で腹水をオシッコとして出してしまう処置 ・蛋白(リンゲル)の投与 ・痛み止めー等々
げんきんなもので、とたんに元気になりまして、友人と出かけました。明日、私(父)も1泊の予定で大会を観戦したり、迎えのため猪苗代スキー場に向かいます。

山田副院長先生も
「この2、3日のことで、今後の治療に影響することはない。出場させましょう」といってくれました。

しかし、3月2日(月)には再入院し、再び新たな治療がはじまります。
昨年9月中旬、開腹手術時には、・腹水300ccーガン細胞確認 ・腹膜播種ーリンパ節29カ中ー5ヶに転移
という状況からすると、何かカメラのレベルではわからない異常なことの発生があったと考えられます。

今日(2/27)の現状を記しました。
これから、どんな治療が適切なのか、どう対処すればいいか、不安がつのり始めております。

なお、兄敏のオリンピック応援ありがとうございました。明日(28日)札幌のワールドカップに出場します。


以上、全日本選手権まえの状況など、父の手紙より紹介しました。

見た目には、本当に元気にしていました。たぶん、痛いとき不安なときがあったと思います。その中でも明るく振る舞い、そして、全日本モーグル選手権に出場することを、こころから楽しみにしていました。
全日本選手権での滑りが、モーグル選手森徹の最後の滑りとなりました。その後、再びスキーに乗ることは出来ませんでした。もったいないです。これから、本当にこれからという選手が、強くなることを期待させてくれる選手が、スキーに乗ることさえ出来なくなってしまったことが、残念でしかたがないです。

 

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