2010.11新刊
 (歴史哲学関係)
「渋沢栄一 」明日の不安を消すにはどうすればいいか?
 
大下英治著(三笠書房)
渋沢の父親市郎右衛門は、渋沢が六歳のころからみずから読み書きを教えた。儒教の「大学」、「中庸」、「論語」。また、尾高惇忠の指導のもと「小学」、「四書」、「五経」、「史記」、「漢書」、「十八史略」、「日本外史」などを読んだ。尾高は渋沢になんでもおもしろいと思う本を読むことを教えた。渋沢は後に論語の教えに注釈を加えた「渋沢論語」ともいうべき『論語講義』を出すほど深い教養を有していた。
 渋沢は、これから世に立つ青年たちに心得を語っている。学校を卒業してはじめて実社会に立つ青年たちは、最初の仕事に不満を抱く。「自分はもっとできるのに、こんな仕事しかさせてもらえない」、「自分には、つまらない仕事しか与えられない」。 十人のうち九人の共通する思いである。一度不満を抱けば、どんなところに行っても不平が生じる。つまり、不平というものは、人の心を怠慢にするだけでなく、怨嗟、愚痴に陥らせる。抱けば抱くほど、自分を逆境に陥らせる。それが不平である。一方、不平なく順調に身を処している青年はどうか。渋沢が見てきた中では、そのような人は、万事が自分の思うままになると勘違いし、調子に乗ってしまうことが往々にしてある。それが油断につながったり、努力を怠ったりする原因になる。「名をなすは、すべてに窮苦の日にあり。事を敗るるは多く得意の時による」
 青年は、つねに心を引き締め、どのような逆境に立とうとも動ぜず、上り調子になっても驕らない。『論語』にある「貧してへつらわず、富んで礼儀を好む」の精神を実行することを心がけるのが大事なことである。