【 教育心理学会口頭発表(1995)】          編集委員会はなぜ論争を忌避するのか          『教育心理学研究』誌の論文審査の問題点              守 一雄 (信州大学) 1.はじめに う編集委員会宛に18項目の質問状を送付し  本稿は『教育心理学研究』誌に投稿され た(1994年6月15日)が、「回答する必要がな た守(1994)論文に対する編集委員会の審査 い(1995年3月18日)」という返答。 過程について@審査の実状をありのままに 編集委員会への質問項目の例: 報告し、さらにA審査における問題点を指 質問P(「社会問題にもなったシリアスな 摘したものである。同じような趣旨の論文 問題にも関心を持ち、それについて教育心 に麓(1986)がある。本稿や麓(1986)のよう 理学の立場からも発言しようとする積極的 な問題提起が、学会誌編集の「体質改善」 な姿勢には共感を覚えます。しかし、その にいくらかでも役に立てば幸いである。  場合のメッセージは、教育心理学会の外側 に向けて発せられるべきではないでしょう 2.守(1994)論文の概要 か。[だから「不採択」だ。]」という審  『ちびくろサンボ』は差別本であるとい 査委員C氏のコメント([]内守加筆)に う理由で日本語版のすべてが絶版となった。 関して)「こうしたメッセージは教育心理 その主たる理由は、西欧社会において歴史 学会の外側に向けて発せられるべき」とい 的に黒人の蔑称であったとされる「サンボ」 うこの審査者C氏の見解は、貴編集委員会 という言葉が使われていることであった。 の見解と受け取っていいのですか?もしそ 一方で、この物語が日本では大変親しまれ うだとすれば、どういう理由でそう考える てきたことから絶版を惜しむ声も多い。そ のですか?また、これは日本教育心理学会 こで、「サンボ」という蔑称を使わずに、 の機関誌の性格を決める重大な発言でもあ 主人公を「チビクロ」という名の犬に置き りますので、そうした合意がいつ得られた 換えた改話『チビクロさんぽ』を作った。 のかについても照会いたしたく存じます。 さらに、4歳児54名を被験者にして、この 編集委員会は本当にこうした質問に「回 改話と原話とのおもしろさを比較した。そ 答する必要がない」のだろうか。 の結果、改話が原話のおもしろさを著しく 損ねた(w=.50)という対立仮説は95%以上の 4.何が問題なのか:結論 確率で棄却されることがわかった(Cohen, 結局、編集委員会が投稿者・審査者間の 1988の検定力分析法による)。       議論を忌避することこそが問題なのである。 3.編集委員会とのやりとりの概要 5.引用文献 @1993年3月中旬に投稿し、わずか1ケ月後 Cohen(1988) Statistical Power Analysis の4月22日には審査結果「不採択」と審査者3 for the Behavioral Sciences(2nd ed.) 名のコメントが送られてくる。(なんと見 Academic Press. 事なスピード審査!!!) 麓 信義(1986)「もう少し学問的な議論を A各審査者への反論を添えて審査結果への −体育学研究の論文審査に対する疑問−」 異議申し立てを2回行ったが、「審査者全 『体育の科学』1986.2月号pp.161-164. 員が不採択と判断したのだから最終結果は 守 一雄(1994)『ちびくろサンボ』と『チ 不採択だ」という的外れな返答が繰り返さ ビクロさんぽ』−差別表現をもつ絵本と れるだけ。(1994年1月27日〜5月21日) その改話とのおもしろさの比較−『季刊 B論点を整理して個々の論点に回答するよ 窓』第22号pp.41-53.