学習の手引き


【この本で認知心理学を学習しようとする読者へ】
 本書は7つの章から構成されている。第1章・第2章は認知心理学の全体に関わる歴史 と方法についての章である。そこで、認知心理学の具体的内容を早く知りたいと思う読者 は、第3章から読みはじめ、必要に応じて第1・2章に戻ってくるのでもよい。第3章か ら第6章までは記憶・イメージ・言語・学習と思考の各領域についてそれぞれ代表的なモ デルを一つずつ紹介しているが、第3章は他の3つの章の導入にもなっているので、第3 章ははじめに読むことを薦める。また、第6章は本書で提示する記号処理モデル全体のま とめにもなっている。最終の第7章は、第6章までのアプローチと対立するまったく新し いアプローチに基づくモデルが紹介されている。そこで、第6章と第7章は他の章を読み 終わってから読んでいただきたい。
 本書の各章は「扉(その章の概略・その章の中心的人物の写真)」「本文」「囲み記事 」「まとめ」「キーワード」「演習問題」で構成されている。そこで、まず扉の部分で その章の概略をつかんでから、本文と囲み記事に読み進んでいくとよい。各章末には「ま とめ」と「キーワード」「演習問題」を用意したので、学習の確認に使っていただきたい 。学習をより確かなものにするには、実際にやってみることが必要な事項も多い。演習問 題にはそうした事項をできるだけ取り上げるようにした。また、演習問題の解答例を巻末 に示したので、参考にしていただきたい。
 巻末には、さらに学習を進めるために「読書案内」を用意した。「読書案内」には、各 章毎に原則としてやさしい基礎的なものからより専門的なものへという順番に並べてある 。各章において一番初めに挙げられている新書版の本は必ず読むことをお勧めする。
 本書では文献を引用する際は、著者名と発行年だけを示し、その詳細は巻末の「参考文 献」欄に各章毎にアルファベット順で示した。興味をもった研究はぜひ原典にあたってい ただきたい。なお、読者の便宜をはかるため、翻訳のある文献は「シャンク(1984)」、原 書しかないものは「Schank(1975)」と表記を違えてある。訳書は原書に比べ手にも入れや すいのでぜひ読んでいただきたい。
 「キーワード」に示した以外の認知心理学の重要な用語については、初出の際に太字で 示し、英語表記を併記した。ただし、本文の読みやすさを考慮して英語表記の併記は最少 限にとどめてある。その代わりに「索引」にすべて英語表記を併記した。原書に読み進む 際の参考にしていただければ幸いである。
【本書を教科書として使う講師の方へ】
 本書は、大学3年生程度の学生を対象とした「認知心理学概論」(半期30時間)などの講義に使えるよう意図しても書かれている。それでも、大学の講義の教科書の理想形は、「講義に関係することがらがすべて解説されていて、図版が豊富に使われている」というアメリカ型のものであると筆者は考えている。アメリカの大学で使われている教科書は、学生が自習できることが目指されていて、図を豊富に使って基礎的なことから順序立てて、やさしく説明がなされている。大学教師は、学生に興味を持たせて教科書をよく読むように動機づけることが主な仕事となる。教科書は学生が講義の予習復習のために読むものであって、講義では教科書に書いてあることを繰り返す必要はないのである。本書でも頻繁に引用したアンダーソンの教科書や、ラックマンらの教科書、リンゼイとノーマンの教科書は素晴らしいものである。(第1章の「読書案内」に紹介)
 しかし、すべてを網羅し豊富に図版を盛り込むということになると、教科書は大部なものとならざるをえない。現に、アメリカの教科書執筆者は、やさしく書くためには、分量が多くならざるをえないと考えているようである。そこで、入門書ほど分量が多い。アンダーソンの教科書は550頁、ラックマンらの教科書とリンゼイとノーマンの教科書は訳本では3冊組になっている。日本では、こうした大部な教科書というのは、どういうわけかあまり歓迎されてこなかった。小学校以来、教科書は薄いもの参考書は厚いものと相場が決まっているからなのだろうか。ひとつには、日本での教科書は、要点が短くまとめられていて、授業中に教師がその要点についてひとつひとつ解説をしていくという講義のスタイルを考えているためなのであろう。そうではないことを祈りたいが、「大部の教科書は価格が高くなって学生が買わないため、出版社も売れない本は出したがらない。その結果、学生が単位と引き換えに支払ってもいいと考える程度の値段の教科書を多人数の著者が分担執筆してそれぞれの授業で使うというパターンが定着する。そして、大部の教科書は駆逐されてしまう。」というのが真相かも知れない。
 本書は、講師の解説なしで、学生が自習できることを目指してやさしく書いた。しかし、一方で、日本での教科書に対する「常識」を撃ち破ることはできず、分量は少ないままである。既に出版されている30点ほどの教科書の中で最も紙幅分量が少ない部類に属する。アメリカの教科書と同じレベルの書き方で、分量を20〜25%に減らしたのであるから、正味も20%程度しかないことをお断りしておきたい。  同じ大学で学ぶ学生が、アメリカと日本とで4倍も5倍も学ぶ分量が違っていいわけはない。そこで、筆者の第一のお勧めは、もし、通年の授業であれば、教科書としては、まず上述の3点のどれかを選び、本書はそのやさしい手引書としての「副読本」として使って下さることである。冒頭の部分に書いた「本書は認知心理学への道案内」という表現もそういう意味で書いた。
 それでも、心理学を専門とする学生だけが対象であるわけではなかったり、講義が半期30時間程度のもので、上述の教科書ではどうしても無理があるようならば、次善の策として、本書を「教科書」とし、「読書案内」に並べた本は、ぜひ図書館に指定図書コーナーを設けて、学生の目に触れやすくするなどの配慮をしていただきたい。本書を読んだ学生が、さらにこうした本へ読み進んでいってくれれば本書の目的は達せられたことになる。「読書案内」には、学生が手に入れやすい新書(や廉価版の本)を加えてある。これら新書を、半期の講義ならば3〜5冊選んで、「課題図書」として読ませることもぜひお勧めしたい。
 紙幅の都合から本書では、具体的な認知心理学実験の紹介を大きく割愛せざるを得なかった。その分、第2章で「認知心理学の研究方法」についてかなり詳しく紹介をした。講師の方には、認知心理学の内外の研究誌の中から、最新の論文を学生に紹介するなり、学生自身に読ませるなりの工夫もしてもらいたい。
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